天神から消える「知の拠点」 大型書店、相次ぎ閉店へ「どこで本買えば」
- 企業・経済
- 2020年3月3日
福岡市中心部の天神地区で、来年にかけて大型書店が相次いで閉店する。九州最大規模を誇るジュンク堂書店福岡店や、紀伊國屋書店天神イムズ店が、入居するビルの再開発の影響を受けるほか、メトロ書店ソラリアステージも3月末での撤退を発表した。「知の拠点」として重要な施設が失われ、読書人からは「どこで本を買えばいいのか」と嘆きの声が漏れる。“本屋難民”の発生とともに、機会損失によるネット通販への顧客流出や活字離れも懸念されている。(九州総局 高瀬真由子)
◆東京に負けない
ジュンク堂書店福岡店は約140万冊の書籍を取り扱い、全国のジュンク堂書店の中でも東京、大阪に続く規模を誇る。平成13年11月に開業し、「メディアモール天神(MMT)」の地下1階~4階に入居。計約6800平方メートルの売り場に、専門書を含め幅広い種類の本が並ぶ。
「開業当初は出版社から『地方で専門書が売れるのか』と心配され、本が発注通りに届かないこともあった。東京に負けない本屋にしたいという思いで、『ここにない本はない』と言われる店を目指した」と、細井実人店長(46)は振り返る。細井氏は当時、店員として店づくりに奔走した。
開業から約18年半。客のリクエストに応じて棚を埋めてきた。約100人の従業員のうち、開業からのスタッフが10人ほどいる。印象に残ったフレーズを手掛かりに本を探す客や「ジュンク堂で見つけた」と喜ぶ声…。このような本との出会いを求める客の姿が、従業員の励みになった。
市の再開発事業「天神ビッグバン」で、MMTの建て替えが計画され、昨年12月に閉店を発表した。客層は広く、1日に平均8千人が訪れる。利用客からは「なくなったら困る。なんとかしてほしい」「一時移転はあるのか」という声が寄せられている。
閉店後は、令和6年末ごろに完成予定の新ビルに再出店する方向で協議を進めるが、一時移転先の確保は難航している。福岡市はテナントが入居できるビルが慢性的に不足し、まとまったフロアを確保するのが難しいという。
細井氏は「出版不況といわれるが、支えてくれたお客さまのおかげで頑張ってこられた。今では出版社からも『閉店は困る』と言われるようになった」と語る。一方、天神にある書店の閉店ラッシュについては「インターネットを使う人もいると思うが、本を買わない人が増えるというのが、業界の感覚としてある」と心配する。
◆書店戦争の時期も
ジュンク堂の閉店が波紋を広げる中、1日には、同じ天神地区にあるメトロ書店ソラリアステージ(約8万冊)が3月31日での閉店を発表した。他県での新規出店を検討しているといい、天神では売り上げの伸び悩みなど厳しい環境の中、テナント契約が終了するタイミングでの撤退を決めた。
天神では、商業施設「イムズ」の再開発に伴い紀伊國屋書店天神イムズ店(約15万冊)も、来年8月末に閉店する見通し。同店は、ジュンク堂などの閉店を踏まえ、書籍の需要を補う準備をしているといい、担当者は「最後の日まで頑張りたい」と力を込める。
かつて天神は大型書店が集積し、「書店戦争」といわれた時期があった。進出の先駆けとなったのが、昭和51年に商業施設「天神コア」に入った紀伊國屋書店で、その後同書店は、大丸福岡天神店にも店舗を構えた。
再開発のため昨年閉館した「福岡ビル」には平成9~22年まで丸善が、その後はTSUTAYA(ツタヤ)が入った。その他にも複数の店舗が立地し、読書人たちの道しるべとなった。
◆本離れ加速か
ただ、長引く出版不況やネット通販の普及で地方書店の経営環境は厳しくなる一方で、各書店が撤退や規模を縮小するなどしている。再開発の影響があるとはいえ、天神地区で来年にかけて新たに3店が閉店となり、さらに多くの人々が行き場を失いそうだ。
福岡市内では、JR博多駅周辺に、紀伊國屋書店福岡本店(約70万冊)や、丸善博多店(約60万冊)と、大型店が立地する。ただ書店関係者からは「天神からわざわざ博多に買いに来るだろうか」「本屋がなくなれば本離れが進むのが世の流れ」と指摘も出る。
書店調査会社のアルメディアによると、全国の書店数は昨年5月時点で1万1446店と、平成12年の2万1654店から47%減少した。ネット書店の普及や活字離れを背景に書店各社が不採算店を相次いで閉鎖しており、地方を中心にこの傾向は続くとみられる。
身近に親しんだ本屋が消えれば、多くの人が本と出会う機会を失う。ビルの機能更新は都市の重要なテーマだが、活字に親しむ環境形成のためにも、地方に書店が立地する意義は大きい。再開発後のビルを含め、天神への書店の進出が期待される。
一言コメント
早期の復活を期待したい。
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