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<前伊東市長逮捕>清濁併せのむ剛腕 「伊東の田中角栄」


静岡県伊東市が購入したホテル跡地の売買を巡り、便宜を図った見返りに売り主の建設会社から現金1000万円を受け取った疑いが強まったとして、警視庁捜査2課は16日、佃弘巳・前市長(71)を収賄容疑で逮捕した。

警視庁捜査2課に収賄容疑で逮捕された静岡県伊東市の前市長、佃弘巳容疑者(71)は行政運営で剛腕を振るう一方、業者との癒着もささやかれていた人物だった。清濁併せのむ姿から、地元では「伊東の田中角栄」と呼ばれていた。

地元で佃市政の業績として語られるのは、赤字続きだった市営の競輪事業を立て直したことだ。2005年に市長に就任した佃容疑者は徹底したコストカットに取り組む一方、車券の場外販売の拡充やビッグレースの誘致で集客面を改善。06年度には黒字に転換し、16年度は単年度収支で2億5000万円の利益を上げた。

「公共工事の発注でも自ら業者との価格交渉にあたって、『ここは300万円泣いてくれ』とか、平気で値切る人だった。トップダウンで即断即決。行動力もある人だった」。佃容疑者を知る人は振り返る。

佃容疑者は市議会議長だった父の後を継ぎ、36歳で市議に初当選した。酒は飲まないが、能弁で気さくな人柄。市議と県議を通算6期務める中で、補助金を握る国や県へのパイプを張り巡らせたのだろう。支援者には土建業者が多く集まった。

市長に就任すると、「親しい業者にばかり発注している」との悪評が立つようになる。土建業者との宴席で「みなさんのために補正予算を組みましたから、うまく分けてください」とあいさつしたこともあるという。一方で市長選で対立候補の支援にまわった業者を罵倒するなど、「アメとムチ」を巧みに使い分けた。

「まるで田中角栄のようだ」。人口約7万人の地方都市で、佃容疑者は元首相に重ねられるほどの権勢を誇った。

疑惑の土地取引がなされたのは、そのころだ。

問題となっている市中心部のホテル跡地(約4000平方メートル)には、もともと老舗の旅館が建っていた。しかし伊東市ではバブル崩壊後の景気低迷で宿泊客も減少。経営が悪化する宿泊施設が相次いだ。この旅館も何度か所有者を変えた後、09年には東京の不動産会社の所有となり、建物は「伊東マンダリン岡本ホテル」という名前で営業を始めた。

この不動産会社の実質的なオーナーらが、後に「岡本ホテル事件」として知られる巨額詐欺事件を起こすことになる。元指定暴力団の組員だったオーナーらは「会員権を買えば全国の系列ホテルに格安で泊まれる」とうたって200億円以上を集めたが、11年に警視庁組織犯罪対策4課に組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)容疑で逮捕された。伊東マンダリンも「詐欺の道具」にされた格好で、事件後に閉館した。

地元では「やくざの影もちらつく、手の出しにくい物件」とされていたが、14年10月に強制競売に出されると、贈賄容疑が持たれている地元の建設会社「東和開発」が約5000万円で落札した。更地とされた後の翌15年7月には、伊東市が「生涯学習施設を建設する」として、約2億500万円でこの土地を買い上げた。佃容疑者は自ら業者との価格交渉に当たるなど、土地取引を主導していたという。

地元市議は「解体費用を1億としても、建設会社には数千万円の利益が出たはず。転売益が賄賂の原資となったのではないか」と話す。

ただ買い上げた土地は「塩漬け状態」が続いている。生涯学習施設の建設計画は進んでおらず、現在は更地のまま市の臨時駐車場となっている。「土地の取得ありきだったのではないか」。議会は疑惑の目を向けていた。

佃容疑者は4選をかけた昨年5月の市長選には出馬しなかった。本人は「市政が充実してきたから」と説明したが、元市職員は「3期目の選挙は870票の僅差。次の選挙には勝てないと踏んだのだろう」と推測する。「上意下達ですぐに指示が変わる」「市長に嫌われると出世できない」。役所の内部では職員の不満が渦巻いていた。票田だった建設業界でも「干された」業者の不満が募っていたという。

佃容疑者は退任後の昨年6月、市の特別顧問に就任した。しかし今年3月には退任した。地元では年明け以降、警視庁捜査2課が前市長を内偵捜査している、とうわさになっていた。

佃容疑者は賄賂として現金を受け取っていたのか--。

逮捕される3日前の13日、取材に容疑を否定した上で、こう語っていた。

「2億7000万円と評価された土地を(2億500万円に)値切ったのは自分だ。もし賄賂を取るなら、価格は高い方がいいはずでしょ。ふかせばふかすほど取れるんだから」【五十嵐朋子、佐久間一輝】

 

毎日新聞

 

 

 

一言コメント
こういう人は、逮捕されてよかった。


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