「これからは新しい『エイベックス2.0』を私が、そして既存事業を中心にした『エイベックス1.0』を新社長の黒岩(克巳氏)が担う体制になる」(松浦勝人社長)
エイベックスは5月10日、今年6月22日の定時株主総会後に新しい経営体制に移行すると発表した。2004年から社長を務めてきた松浦氏は会長CEOに就任。後任の社長COO(最高執行責任者)には執行役員だった黒岩氏が昇格し、林真司COOは、CFO(最高財務責任者)に就任。3名が代表権を持つ体制となる。
期待の動画配信も、外資との競争が激化
音楽業界は、収益の中心だったCDなどパッケージ商品市場が直近10年間で4割以上縮小。音楽配信のサブスクリプション(定額配信)モデルへの移行という大きな構造変化が続いている。
2017年から今年にかけては、安室奈美恵、小室哲哉という1990年代から2000年代前半のCD全盛時代を象徴する2大アーティストが引退を発表。こうした時代背景の中、エイベックスもまた大きな転換点を迎えている。
エイベックスはCD市場の縮小に対し、NTTドコモとの動画配信サービス「dTV」など映像プラットフォームの立ち上げ、ライブの観客動員拡大といった策を打ち、2013年3月期には純利益が73億円と過去最高を叩き出していた。
しかし、動画配信は日本でサービスを開始したAmazonプライムやネットフリックスなど外資に押され会員数が伸び悩んだことに加え、競合サービスの濫立からコンテンツ調達費用が増えたことなどから苦戦。新本社の建て替え費用もかさみ、その後は営業減益が続いていた。
やっと業績が改善したのが前2018年3月期だ。売上高は1633億円(前期比1.1%増)、営業利益は69億円(同21.1%増)と5期ぶりの営業増益で着地した。
歌手の安室奈美恵さんの引退発表に合わせて、2017年11月に発売したベスト盤CD『finaly』が238万枚という大ヒットを記録。この「特需」に加え、BIGBANGや東方神起など人気アーティストの大型公演による集客増、赤字体質となっていた定額動画配信サービス「ゲオチャンネル」や「UULA」サービス終了による費用減もあった。
しかし、構造的な課題がすべて解決したわけではない。
「会社の寿命は10年というつもりでやってきたが、いつのまにか30年が経ってしまった」(松浦社長)という、エイベックスも環境の変化へ対応を迫られている。
松浦会長は新規事業を担当
今回の人事では、既存事業のマネジメントや管理部門を社長に昇格する黒岩氏やCFOの林氏に任せ、松浦社長は自身が「もっとも得意な分野」というクリエイティブやプロデュースに集中する体制を構築。大きく変化する時代に合った新しいアーティストの発掘や育成、そして今後の成長を牽引する新規事業を担当することになった。
さらに松浦新会長直轄で、新事業やイノベーションの創出、そして戦略的投資やM&Aを担う本部を新設。VR(仮想現実)、ロボット、ファッションといった、さまざまな分野のスタートアップに出資実績を持つ社内ベンチャーキャピタル、エイベックス・ベンチャーズもこの本部に吸収合併された。
この直轄本部を中心に、音楽分野でアーティストを育てることで培った「コンテンツとIP(知的財産)の創造」という強みを生かし、テクノロジー系企業との合弁設立やM&Aなども含めて積極的に新事業を展開してくことになる。
直近では、データ解析やSNSを活用したマーケティングなどに強みを持つメタップスと合弁会社mee(ミー)を設立。まずはメタップスの運営する、空き時間売買取引所「Timebank」に所属アーティストを登録するほか、SNSを活用したアーティストプロデュースなどを展開していく予定だ。
また、VRの先端技術を持つエクシヴィとも協業。エイベックスが持つアーティストの発掘育成、マネジメントのノウハウを活用し、バーチャル・ユーチューバーを中心にデジタル分野でのIPの創出にも取り組んでいくという。
ライブ収入に成長期待
一方、既存事業で、今後の成長の柱と見込むのがライブ収入だ。CDの縮小が止まらない中で、ライブ市場は大規模公演が増え来場者数の増加が続いている。エイベックスも前2018年3月期には73回のスタジアム公演を実施し、前期比26.3%増となる374万人を動員。455億円を売り上げている。
好調なライブ分野のさらなる成長のカギを握るのが、チケット価格だ。「欧米のチケットシステムを見ると、4~6万円のプレミアムな価格がある一方で、逆に定価を下回って売ることもあり、トータルで収益を最大化するシステム、ノウハウがある。日本でも、同じ公演でもグロスの収入が増え、マーケットが拡大する時代がくる」と、黒岩新社長は語る。
テクノロジーを活用してこうした改善策を実施することにより、「ライブの収益は低くて当たり前と思われていたが、本当にそうなのか。収益性を上げることは十分に可能だと考えている」と、松浦社長も期待をかける。
昨年12月には南青山の新社屋に本社を移転し、30周年を期に新たな経営体制でのスタートラインに立つエイベックス。アップルやAmazon、ネットフリックスといった外資がエンターテインメント業界での存在感を強め競争環境が厳しくなる中、さらなる成長を目指すことができるか。
テクノロジーとエンターテインメントの融合に向けた体制が、6月から動き出すことになる。
島 大輔 : 東洋経済 記者
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