「即刻取り下げを」“子供留守番禁止”条例案、埼玉の首長ら怒りと困惑
- 政治・経済
- 2023年10月10日
小学校3年生以下の子供の放置を禁止する埼玉県虐待禁止条例の改正案は13日、開会中の県議会9月定例会本会議で採決される。自宅での留守番や子供だけで公園で遊ぶことも放置と判断されるため、市民からは「生活実態とかけ離れている」などと反対の声が相次ぐ。一方、虐待防止の観点から賛成の声を上げる専門家もいた。県内の関係者に賛否を聞いた。
「極めて問題の多い改正案。『放置』の定義が過度に広範であいまいだ。子供の人格権も含め、憲法に抵触する恐れすらある」と厳しい声を上げたのは、子供の虐待や離婚問題に取り組んできた埼玉弁護士会所属の竪十萌子弁護士だ。
通園バスの車内などに子供が放置され、命を落とす事例が全国で相次ぐことを念頭に、「著しく危険な放置を禁止するのは誰も反対しない」とした上で、「買い物や急な入院で子供を預けられる先はなかなかない。日常的な短時間の留守番や、近所の公園で子供だけで遊ぶことまで禁止することに説得力のある根拠はない」と話した。
保護者や教育関係者からも、反対の声が上がる。
幼児と小学生の男児計3人を育てる川口市の自営業の男性(46)は「兄が弟を公園に連れて行って自転車を教えたり、夏休みには子供たちだけでラジオ体操に行ったりしている。子供だけはダメ、というのは本当に理想的な社会なのか」と疑問を呈した。
改正案では、虐待が疑われる児童を発見した場合、速やかに通報しなければならないとした。男性は「子供が1人で留守番していても、誰も通報しないと思う。日常生活で子供と離れてはいけないと言われると何もできなくなる」とため息をついた。
自民党県議団によると、子供だけの登下校も禁止の対象となる。飯能市で4児を育てながら教員として働く女性(49)は「子供だけで学校に行くことが放置になると、通学はどうすればいいのか。共働きの家庭では、保護者が付き添うのは厳しい」と戸惑いの声を上げた。
教育現場では業務の負担軽減が課題となっているとして、「教員が下校を見守ることになれば、多忙に拍車がかかり無理だと思う。学校現場や当事者の声を聞いてほしい」と嘆いた。
この条例改正案を巡っては、さいたま市PTA協議会が自民党県議団あてに「子供の最善の利益を反映したものとは考えられず、子供を虐待から守ることができるとも思えない」と反対の意見書を公表。県子ども食堂ネットワークなど5団体も「生活実態とかけ離れている」などと反対する意見書をまとめ、賛同を募っている。
一方、「さまざまな意味で、よく作ってくれたと思う。どちらかと言えば賛成だ」と話すのは、虐待などを理由に児童養護施設で暮らす子供をサポートする「埼玉県社会的養護を考える会」(さいたま市岩槻区)の橋本圭介代表だ。
全国で相次ぐ車内での死亡事故などについて、「大人がいれば助かったかもしれないケースが多く、危機感が足りないと感じている。大人の生活リズムに合わせることを子供に強いてはならない。『子供にとって何が最善か』が一番大事だ」と強調した。
子育て中の親らから反対の声が上がっていることについては、「条例をどのように運用するか課題はあるが、議論が巻き起こってくれるといい。一石を投じてくれたという意味で評価できる。子供を守っていく機運を高めるため、市民と行政が一体となる時だ」と話した。【岡礼子、鷲頭彰子】
毎日新聞 より転用
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