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「日本のインフレ・円安はそろそろ終わる」、その見方が「かなり危うい」と言える理由


米国の大幅利上げが続き、ドル高の弊害が大きくなってきたことから、そろそろ米国の金融政策が転換し、インフレと円安が是正されるとの見方が出ている。確かにそうなってくれた方が日本経済には好都合だが、過度な期待感は持たない方がよいだろう。市場とFRBのスタンスには相当な乖離があり、市場関係者の認識は甘いよう見受けられる。

FRBのスタンスは依然として強硬

2022年11月2日に開催されたFOMC(連邦公開市場委員会)では0.75%という高い利上げ幅が継続された。FRBは3月以降、ハイペースでの利上げを継続しており、政策金利は4%の水準に達した。5月の利上げ幅は0.5%だったものの、6月以降は4回連続で0.75%であり、FRBは相当な覚悟をもって引き締めを実施していることがわかる。

パウエルFRB議長の発言を聞いても、基本的にインフレ抑制が最優先課題であり、株価や景気動向に配慮してインフレ抑制のペースを緩めるというスタンスは、少なくとも、ここ数ヶ月の間には観察できなかった。米国のインフレ率は多少鈍化しているとはいえ、依然として8%台という高い水準が続く中、長期金利が4%、政策金利(FF金利)が3%台というのは、インフレ抑制を前提にした場合、どう考えても整合性が取れない。

パウエルFRB議長〔PHOTO〕Gettyimages© 現代ビジネス パウエルFRB議長〔PHOTO〕Gettyimages

FRBの強硬なスタンスは、一連の事実を冷静に受け止めれば理解できるはずだが、市場の反応はまったく違っていた。FOMCが開催されるたびに、市場は利上げペースの縮小を予測し、毎回、裏切られるという展開が続いている。業を煮やしたパウエル氏は7月に開催されたジャクソンホールの会合で、強い口調で市場を牽制し、一時は市場もハイペースな利上げを織り込んだ。ところが、2カ月もするとまた楽観論が支配し、今回のFOMCでは利上げ幅縮小の観測記事が出て、株価が上昇する有様だった。

状況を理解している投資家は、ハイテク株などを中心にすでに株式の売却を終え、低リスク銘柄や国債に資金を乗り換えている。一方、金融業界は売買手数料で利益を得ているため、株高が続き、新規の投資家が市場に入ることを期待しがちである。市場関係者と金融当局で認識のズレが生じるのはよくあることだが、今回のインフレは1970年代以来の出来事であり、両者の乖離が激しくなっているように見える。

景気への悪影響を考え、FRBは厳しい政策を実施しないだろうとの期待が生じやすい点においては、過度な円安に悩む日本も同じである。

人は経験から大きなバイアスを受ける

筆者は2022年3月の段階(当時は1ドル=115円台)で、年内に1ドル=150円に到達する可能性が高いとテレビ番組などで繰り返し主張し、実際、その通りになったのだが、半年前の段階で筆者と同様の主張をする専門家は、筆者が知る限りごくわずかだった。

米国にとってインフレ抑制は最優先の政治課題であることや、FRBが巨額(月あたり950億ドル)のマネー回収に乗り出していること、そして何より今回のインフレは深刻であり、1970年代と状況が酷似していることなどを理由に、筆者らはハイペースの利上げと、それに伴う急激な円安を予想していた。筆者は当時、複数の市場関係者と上記について議論したが、ほぼ全員が「急激な利上げや円安はあり得ない」という反応だった。

誤解のないよう言っておきたいが、筆者は自身の予想が当たったことを自慢したいのではない。

人はどうしても、直近の環境からバイアスを受けるものであり、客観的な事実が提示されても、それを見逃してしまうものだということを主張したいのだ。筆者がそうしたバイアスから自由だったのは、たまたま歴史(特に1970年代の状況)をよく研究していたからであり、それがなければ、今回の市場動向を正確に予想できたのかについて自信はない。

過去のバイアスに支配されているという点では、今も状況は同じである。今回のFOMCでパウエル氏は、「累積的な金融引き締めと、金融政策が経済活動やインフレに時間差で影響を与えることを考慮する」として、金利引き上げペースを緩める可能性について示唆する一方、「最近のデータを踏まえれば、最終的な金利はより高くなる」とも発言しており、むしろ最終的な金利水準は以前の予想より高くなるとの見通しを示している。

一連の発言を普通に読み取れば、「利上げ幅を緩めることはあるかもしれないが、最終的にはさらに高い水準まで金利を引き上げるつもりだ」という意味にしかならない。だが、そのように解釈しない市場関係者は多い。

高まるFRBに対する反発や批判

一部からは、FRBは今後、利上げ幅を縮小する可能性が高いので「インフレは終了する」「円高に反転する」といった声も聞こえてくるが、果たしてどうだろうか。

いつかは利上げは終了するし、インフレも一定範囲に収束するのは間違いない。だが、少なくとも現時点においてFRBが金融引き締めから撤退する意向は感じられないし、そうであるならば、米国の金利は当分の間、高く推移することになる。利上げ幅が縮小すれば、過度な円安は回避できるとの演繹はできるかもしれないが、円高に戻ると解釈するにはまだ材料不足である(日銀が政策を転換すれば話は別)。

もっとも、FRBの強硬姿勢に対しては反発の声も高まっている。

米議会下院の金融サービス委員会は11月4日、パウエル議長に対して「何百万人もの個人と家族に不必要な痛みを与え、経済を壊滅的な不況に追いやるかもしれない」との書簡を送った。これ以上の利上げは米国経済にとって大打撃となるので、利上げをやめるようにとの警告である。

最終的に米国が利上げすべきかどうかは、米国民が判断することであり、外国人である私たちがとやかく意見してもあまり意味はない。だが、米国の金融政策はドル円相場に直結しており、今後、米国の政策がどうなるのかは、日本人にとっても極めて重要である。

実は、急激な利上げとそれに対する強い反発というのは、まさに「いつか来た道」である。

オイルショックをきっかけに発生した1970年代のインフレでは、物価上昇を抑制するため、FRBが利上げを実施したものの、経済界から猛反発を受けた。当時、FRB議長だったバーンズ氏は、発生しているのは単なるコストプッシュ・インフレであり、一時的なものだとして、金利を引き下げてしまった。

願望で政策を決めるのは危険だ

だが、一連のインフレは単なるコストプッシュ要因ではなかった。1971年に発生したニクソンショック(金とドルの兌換停止)によってドルが市場に溢れかえっており、加えて、通貨高による金融危機を警戒した日本とドイツは大規模な流動性供給を行っていた。つまりマネーが大量に市場に供給されているところにオイルショックが加わり、想像を超えるインフレ(見方によってはスタグフレーション)が発生したというのが真実である。

貨幣要因のインフレが進んでいる時に金利を引き下げれば、インフレがさらに加速するのは自明の理であり、米国のインフレは手が付けられない状態となった。加えてバーンズ氏は自らの判断ミスを決して認めず、金利の引き上げを強く拒んだことから、状況はさらに悪化。最終的には1979年にFRB議長に就任したボルカー氏が政策金利を20%以上に引き上げるという荒療治でインフレを抑えた込んだものの、米国経済は5年にわたって深刻な不況に陥った。

議会や産業界からの激しい批判を受けて、パウエル氏が今後、金融政策をどう舵取りするのかは分からない。だが、70年代のインフレにマネーの過剰供給要因があったことは間違いなく、今回のインフレにも量的緩和策が大きく影響している。パウエル氏はたびたび70年代のケースについて言及しており、引き締め継続の重要性を意識していることをうかがわせる。

一方、日本側にそうした認識はあまり感じられない。今回のインフレについて、国内でも単なるコストプッシュ・インフレであるとの見解をよく耳にするし、日銀の黒田総裁も同じ趣旨の発言を行っている。「今回のインフレはコスト要因であって一時的なものである」というのは、ある種の願望(もしくは希望)であって、今のところ、断定できる材料が揃ったわけではない。「FRBは景気を考えて金利の引き上げをやめるだろう」という見通しも同様である。

今、起こっているインフレの原因や、米金融当局の意向を見誤った場合、日本が受ける影響はあまりにも大きい。こうした状況では、事態をより厳しく見た方が安全であり、「インフレはすぐに収まる」といった過度な期待は持たない方がよいだろう。

現代ビジネスより転用


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