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保守派の安倍政権が「女性政策」を進められた理由 「政策的要因と政治的要因」に分けて分析した


© 東洋経済オンライン 安倍政権が重視した女性政策について、その動機や戦略を検証します(写真:Akio Kon/Bloomberg)

7年8カ月にわたった安倍晋三政権は、日本の憲法史上、最長の政権であり、安定政権でもあった。さらに、安倍首相は2006~2007年に第1次政権を担当し、政権運営に失敗した経験を持っている。2012~2020年の第2次政権は、安倍氏が再挑戦し、カムバックを果たした。そのような政権は1955年の自民党発足後では初めてのことだった。安倍政権は何をやろうとし、何を残したのか――。

安倍政権が進めた政策と統治の両面の主なテーマを主に取り上げ、それになぜ、そのとき、そのように展開したのか、あるいはしなかったのか、などを検証した『検証 安倍政権 保守とリアリズムの政治』を一部抜粋し再構成のうえお届けする。本稿では安倍政権が重視した女性政策について、その動機や戦略を検証する。(文中敬称略)

前回:安倍政権を再検証「画期的だった若者重視」の裏側

なぜ女性政策を行ったのか

なぜ安倍政権は女性政策を行ったのだろうか。その理由は政策的要因と政治的要因に分けられる。

第1に、女性活躍は経済成長と社会保障制度の維持のために必要不可欠であることは過去の政権も主張してきたが、より強く安倍政権が女性活躍を推進したのは、アベノミクスの本丸である経済成長戦略に説得力を持たせ、海外投資家に対して魅力的なパッケージとして打ち出すためであった。

第2に、政権のイメージ向上につながるという判断もあった。安倍に対し、女性活躍で政権のイメージが上がるというアドバイスをする者もあった。国際社会で予想以上に好意的な反応が得られたことでその確信は深まった。安倍自身は「もとの期待値が低かった分、高めに評価された」と冗談交じりに述べている。

日本の国内政治と国際規範の関係を研究するリブ・コールマンは、国際社会では慰安婦問題やジェンダー平等指数の低さもあって日本は「女性問題に関して遅れた国」とのスティグマがあり、安倍政権にはそれを払拭して日本のナショナル・イメージを向上させる戦略があったと分析し、「ウーマノミクス外交」と名づけている。

第3の理由としては野党との対抗という動機があった。官邸は、女性活躍に限らず野党の政策でもいいものはすべて取り入れようと考えていた。「民主党の言ってることでいいことは全部やってやろう」「乗っ取っちゃうぞ」「彼らはできない、言うだけでできない。俺たちはちゃんとやるということは見せていこう」という意識があった。

野党議員として政権を追及した山尾志桜里から見れば、野党が待機児童や労働問題について国会質問をすると、安倍政権はいったん答弁では拒絶したふりをしながら、実は政務でそれを受け止めて多少なりとも対応してくる印象をもったという。

左派のアジェンダのなかでも、職場における女性活躍はこれまであまり成果が上がらなかった分野である。したがって安倍政権が成果を出せば、連合に支えられた民主党政権ができなかったことも安倍政権だから実現できたとアピールすることができる。

かつて小泉純一郎首相は郵政民営化法案を正当化する際に、公務員や労働組合を既得権益の擁護者とラベリングし、自らを「普通の人々」の味方と位置づけて国民から支持を集めるポピュリズムの戦法を用いた。官房長官であった安倍もこれを間近で見ていた。

小泉時代と現在で異なるのは、「普通の人々」の味方であるためには格差解消への取組が求められる点である。官邸の同一労働同一賃金に対する問題意識の背後に、このような文脈があったことも指摘できる。

なぜ実行できたのか

なぜ安倍政権は、この分野で大きな改革を実行できたのだろうか。

第1に、過去の蓄積をかなり活用できた点が挙げられる。女性活躍については野田政権で具体的制度が検討され、厚労省から経済界への働きかけも進めていた。幼保無償化も三党合意と国会の附帯決議で大きな方向性は決まっていた。安倍政権の女性政策は、こうした積み重ねの延長線上にある。

ただし職場における女性活躍は厚労省でかなり詳細に検討されていたのに対し、幼保無償化についてはそうではなかった。また同一労働同一賃金については白紙からのスタートであったと言ってよい。そのため同一労働同一賃金と幼保無償化については決定までの時間が十分にとられず、詳細な制度設計は後回しになった面もある。

第2に、経済界が安倍政権を支持していたことが大きい。経済界が最低賃金引き上げや女性活躍、働き方改革等において政府の方針を受け入れたのは、すでにアベノミクスの恩恵を受けていたことが背景にある。株価は上昇し、「世界で一番企業が活躍しやすい国」をめざした法人税減税、規制緩和等も進められた。

甘利明は、政府は経済界に対して「従来ではここまでは無理だなというのをかなり強く要請していった」が、そのような「無理難題をお願いするにはそのための環境をちゃんとつくっていきますということで、一方で責任を受けながら要請をしていった」と述べている。

第3に、安倍政権が主導することにより、右派からの反発を抑制することができた。安倍によると「保守派の安倍政権だからかえって反発を受けずに、いわば保守派の人たちも安心なわけ」で、女性活躍を掲げたことに対する批判はほとんどなかった。

ただし、職業的キャリアを積むだけが女性の生き方ではない、専業主婦の貢献も認めている点はしっかり述べたほうがいいとの助言を受け、演説の中でバランスをとるように心がけた。

コミットメントと実行力のある人材

第4の要因としては人的要因が挙げられる。まず安倍自身が政権発足時から女性の登用について明確な方針を持っていたこと、そして安倍の意図を理解し、具体的な制度に落とし込むことができ、さらにステークホルダーとの交渉力もある人材が官邸と内閣の中に複数存在したことが重要であった。

とくに加藤勝信、塩崎恭久、新原浩朗の3名の役割は大きかった。たとえば官房副長官であった加藤勝信は政府や独立行政法人の女性登用にこだわり、人事検討会議で事務方から提案された管理職の人事案件を何度か突き返した。またWAW! Tokyo(World Assembly for Women in Tokyo)という、世界から女性活躍分野のトップ・リーダーを東京に招いて開催した国際シンポジウムのプログラムづくりにも、加藤は積極的に関わった。

厚労相の塩崎恭久は、先に述べたように公労使合意を覆して女性活躍の数値目標設定を大企業に義務づけ、同一労働同一賃金の考え方を法律に明記させた。

官邸官僚としての新原浩朗の存在も大きかった。働き方改革の内容を取りまとめるとともに、経済団体との交渉も担った。とくに同一労働同一賃金については、これまで公労使の合意形成や制度の検討も進んでいなかったため、新原の働きがなければ短期間での実現は難しかったであろう。新原によると各省庁にも内々に改革を応援してくれる官僚がおり、そういった人々の協力を得ながら制度設計を行ったという。

先に述べたように塩崎と加藤・新原の間で見解の相違があったが、そのこと自体はこの3名が同一労働同一賃金のもつインパクトを理解して本気で関わったことの証左ともいえる。経団連を説得できる落としどころについて見解の相違はあったものの、少なくとも形式だけ整えればいいという考えではなかった。やる気がなければそもそも政治的資源をこれらの政策課題に注ぐ必要はなく、ほかのアクター(経団連・連合等)に責任を転嫁すればよかったからだ。

以上から、これらの政策課題の本質的な急進性(それゆえの導入へのハードル)を認識したうえで、ステークホルダーに交渉できる実行力をもつアクターが官邸・政権内にいたことが重要であったことがわかる。もちろん、安倍自身が社会保障制度にかなり精通していたという点も大きい。とくに同一労働同一賃金は、安倍の問題意識がなければアジェンダ化されなかった。

アジェンダ・コントロール

安倍政権は、女性政策のなかで何を政策課題として取り上げ、何を取り上げないかをかなり戦略的に選択した。

とりわけ党派性が強い争点、すなわち左右の対立が激しい争点については慎重にアジェンダ・コントロールを行った。具体的には選択的夫婦別姓制度の導入や、女性・女系天皇に関する検討である。

夫婦別姓については、安倍総理自身が反対なのだから自民党内で議論しない、というのが暗黙のルールになっていたと野田聖子が述べている。女性・女系天皇についても同様に、安倍政権のもとでは議論自体行わないという選択をした。

このようなアジェンダ・コントロールは、安倍自身の党派性、イデオロギー位置を明確化するように求められるリスクを回避しようという戦略とみることができる。

なぜなら、これらが争点化されて安倍が右寄りの立場を明確にすれば女性活躍との矛盾が可視化されるし、左派に寄りすぎれば右派の離反を招きかねない。要するにダブル・バインド状態に陥る。しかも左派の要求に近い政策選択を行ったとしてもおそらく左派の支持は得られない。

したがって安倍政権にとっては、アジェンダ化を抑制しつつ、現実に困っている当事者の要望に応える施策を右派が容認できる範囲内で実施することが最善となる。その例が婚姻後の通称(旧姓)使用を拡大させる方法である。結果からみれば、アジェンダ化を抑制する官邸の戦略はかなりの程度成功したといえよう。

東洋経済オンラインより転用


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