高梨沙羅、新境地で「金目指す」 ジャンプをゼロから作り直し25歳で挑む北京五輪
- スポーツ
- 2022年1月1日
4年に1度の冬のスポーツの祭典、北京冬季五輪開幕(2月4日)まで34日。ノルディックスキー・ジャンプ女子で、男女を通じて最多のW杯通算60勝を誇る高梨沙羅(25)=クラレ=が、サンケイスポーツの新春インタビューに応じた。銅メダルを獲得した2018年平昌五輪後からジャンプをゼロから作り直し挑む3度目の大舞台。過去2大会を振り返りながら「誰もが金メダルを目指している。私も金メダルを目指す」と新年の誓いを立てた。(取材構成・阿部慎)
夏の東京から冬の北京へ、スポットライトが切り替わる。昨夏の東京五輪でメダルを量産した日本勢のバトンは、高梨が引き継ぐ。冬のヒロインの座は誰にも譲らない。
「そこ(五輪)に立つ誰もが金メダルを目指している。私も金メダルを目指しています」
天才少女と呼ばれたジャンパーは、昨年10月で25歳になった。W杯で男女を通じて最多の通算60勝を誇るが、4年に1度の五輪で満足な結果を残したといえない。17歳で初出場した2014年ソチ五輪は、金メダル大本命ながら4位だった。
「勢いだけで何も考えずに飛んでいたが、五輪が始まって、考え始めて(本来のジャンプが)飛べなくなった。〝のまれた〟感じがした」
通常の大会とは運営面など違いが多い五輪。当時圧倒的な実力を誇っていたが、五輪の重圧に屈した。涙は止まらなかった。
「五輪独特の雰囲気があった。いつも以上に制限がきつい。『ここからここまでは行かない』とか、『はい、今この時間に出て』みたいな。慣れていなかった」
反省を糧に雪辱を期した2018年の平昌五輪の敵は、メダルへの過剰な意識だった。21歳の高梨は銅メダルを手にして歓喜の涙を流したが、ソチから平昌大会までの4年間は、目の前のことをこなすのに必死だった。
「ずっとメダルのことばかり考えていた。強くなるために、決められたことをする生活を毎日続けていた。型にハマっていたという感じ」
メダルは獲得したが、体格で勝る欧州勢の台頭で競技レベルが上がり、小柄な高梨が伸び悩んだのも事実だった。3度目の五輪までの4年は、厳しい道のりを選んだ。
「毎年のようにスター選手が出てくるのがジャンプという競技。どうやって戦おうか考えたとき、圧倒的な技術力、精神力、経験値を重ねていくしかないと思った」
平昌五輪後は、ジャンプをゼロから作り直すことを決意。重点的に取り組んだのが、アプローチ(助走)だ。飛距離に直結する速度の向上を目指し、重心の位置や腕の使い方などを試行錯誤。だが2018―19、19―20年シーズンは、それぞれW杯1勝止まりだった。
「うまくいかないことが続きすぎて、元に戻そうかと思った時期もある。でも変えないと、またトップ争いに食い込めない。やるしかないじゃないですか」
2020―21年シーズンは3勝。助走が安定するとその後は踏み切り、空中姿勢と修正を進めていった。昨年3月の世界選手権はラージヒルで銀メダル、ノーマルヒルで銅メダルを獲得。結果に表れ、過去の2大会前とは違う心境になった。
「ジャンプを飛んでいて何が一番楽しいか。自分の思っていたこと、試していたことがうまく自分にはまったときが、一番楽しい」
25歳で新境地にたどりついた。今季は序盤から表彰台が遠ざかるが、平昌大会後の挑戦に後悔はない。そして迎えた北京五輪イヤー。直近2季のW杯などの実績で代表入りが確実な高梨は3度目の祭典を心待ちにする。
「(平昌五輪後は)考えてトライして駄目で、もう一回考えてという地道な作業の繰り返し。長く感じた部分もあるが、振り返るとやっぱり必要な過程だった。でも、一瞬で過ぎた時間だったような感じもする。(五輪では)成長したジャンプを見てほしい」
五輪に初めて出場してから8年。日本女子ジャンプ界のエースが、過去2大会分の悔しさを込めて飛ぶ。その先に、また違う景色が広がる。
4年間の苦労を、五輪では2本のジャンプに凝縮する。スタートから着地までは約5秒。一瞬の勝負に懸ける言葉には、たゆまぬ努力と揺るがない信念がにじんでいた。
★取材後記
決して感情を表に出しすぎないプロフェッショナル。だが私生活に話題が及ぶと、25歳の素顔を垣間見れた。昨年は、米動画配信大手ネットフリックスが手掛ける韓国制作の人気ドラマ「イカゲーム」(全9話)にドハマり。1話は約60分あるが、「面白くて、一晩で見ました。明日も練習するし、もうやめようと思うんですけど…」と流石の集中力。リラックスタイムも思い切り楽しみ、スイッチを切り替える。
体重制限もあるため、オフ期間のお酒もたしなむ程度。だが「芋焼酎が好き」と意外!?な一面もある。今季終了後は、最高の美酒を楽しんでほしい。(北京五輪担当・阿部慎)
◼高梨 沙羅 (たかなし・さら) 1996(平成8)年10月8日生まれ、25歳。北海道上川町出身。上川小2年でジャンプを始める。上川中―グレースマウンテンインターナショナルスクール―日体大を経て、2020年10月に弘前大大学院へ進学。W杯は昨季3勝を挙げるなど男女通じて最多の通算60勝、個人総合優勝4度。五輪は14年ソチ大会4位、18年平昌大会銅。世界選手権は個人で13年銀、17、21年銅、新設のラージヒルで銀。混合団体では13年金、15、17年銅。152センチ、44キロ。
サンケイスポーツより転用
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