羽生結弦が不利となるルール変更をロシアが提案 浅田、荒川の恩師も後押し
- スポーツ
- 2021年12月9日
北京五輪の開幕まで、あと2か月を切った。多くの選手たちはこの時期から大会本番を見据えた調整に入るが、今後のスケジュールは見通せない状況だ。
新たな変異株の影響で、大阪で12月9日から始まるはずだったフィギュアスケートのGPファイナルはあえなく中止。12月23〜26日には北京五輪の日本代表最終選考会を兼ねる全日本選手権が開催される予定だが、この大会への影響も避けられない状況になっている。
政府の水際対策強化によって、羽生結弦(27才)と紀平梨花(19才)を指導するカナダのブライアン・オーサーコーチや、宇野昌磨(23才)を支えるスイスのステファン・ランビエルコーチら、外国人コーチが入国できないことも判明した。五輪出場を目指す選手たちが実力を存分に発揮できるかどうかが心配されるが、特に気がかりなのが羽生の動向だ。
「羽生選手は右足関節靱帯損傷のため、GPシリーズ第4戦のNHK杯と第6戦のロシア杯を欠場しました。全日本選手権にはエントリーしていますが、けががどんな状態なのかはわかっていません」(フィギュアスケート関係者)
今シーズンの羽生の予定がまったく見えないなか、その陰で“ある動き”がスケート関係者をザワつかせている。
「ロシアスケート連盟が国際スケート連盟(ISU)に対して、フィギュアスケートの採点ルールの変更を提案しているそうです。その内容は大きく結果を左右する衝撃的なものですが、ISUは改正に前向きだと伝えられています」(別のフィギュアスケート関係者)
まずは簡単にフィギュアスケートの採点法を復習したい。スケートの採点は、大きく「技術点」と「演技構成点」の2つからなっている。技術点はジャンプなど技の難易度に応じた「基礎点」と、技の出来栄えによって決まる「出来栄え点(GOE)」の合計で決まる。一方、「演技構成点」は「スケーティングスキル」「つなぎ」「パフォーマンス」「構成」「音楽の解釈」の5つの要素によって評価されるもので、「5コンポーネンツ」と称される。
「ロシアの提案は、『演技構成点』の変更で、この5つのうちの『つなぎ』と『音楽の解釈』の2つをなくし、評価の基準となる構成要素を3つに減らすというものです。演技構成点のなかでも、特にこの2つは演技の“芸術性”を担保する要素。もしこの案が採用されれば、フィギュアスケートの採点がより技の難易度を重視する方向に向かうことになる」(前出・フィギュアスケート関係者)
例えば、トリノ五輪(2006年)で金メダルを獲得した荒川静香(39才)は、上体を大きく反らせた華麗なイナバウアーで名を馳せた。だが、イナバウアー自体に「技」としての得点はなく、「つなぎ」の要素として評価されていた。
元フィギュアスケーターの渡部絵美さんが語る。
「フィギュアスケートという競技は、ただジャンプを跳べばいい、難しいスピンをすればいいというわけではなく、一つひとつの要素の間をどうつなぐか、曲に合った演技になっているかも重視されてきました。しかし、『つなぎ』と『音楽の解釈』の2要素を排除してしまったら、フィギュアスケートがただの“ジャンプ大会”になってしまいます」
大きなルール変更は五輪後に
羽生が連覇を決めた2018年の平昌五輪後にも、大きな採点ルールの変更があった。技の「出来栄え点(GOE)」の幅が広がり、プラスマイナス3の7段階から、プラスマイナス5の11段階に拡大され、同じジャンプでも出来栄え点で大きな差がつくようになった。また、男子のフリーの演技時間が4分30秒から4分に短縮された。
「ただ回転するだけでなく、“美しいジャンプ”を跳ぶ羽生選手なら大きな加点がもらえる。フリーの競技時間の短縮もスタミナに課題のある羽生選手には有利に働くと思われました」(フィギュアスケートジャーナリスト)
だが、その後の羽生は、GOEをめぐって苦い思いを経験することになる。
「顕著だったのは、羽生選手がネイサン(・チェン)選手に敗れて3位に終わった2021年3月の世界選手権で、羽生選手のGOEが“低すぎる”と話題になりました。4月の国別対抗戦では“彼の点数の低さがより明らかだった”と主張する関係者も少なくありませんでした」(別のフィギュアスケート関係者)
例えば、羽生が国別対抗戦のフリーの最後に跳んだ3回転アクセルは、
「高さ、スピード、ジャンプの入り方など、どれを見ても完璧でした。しかし、GOEは3か4止まり。満点の5をつけたジャッジは1人もいませんでした。これにはさすがに驚きましたね」(前出・フィギュアスケート関係者)
スポーツジャーナリストの折山淑美さんが指摘する。
「ジャンプ前のつなぎ方によってもジャンプの難易度は変わります。GOEに関しては、直前まで演技をつないで跳ぶ羽生選手のようなジャンプと、構えて静止状態から跳ぶ選手では、もっと差があってもいいと思うことがありました」
“黒幕”はかつての金メダルメーカーか
羽生は2020年、早稲田大学人間科学部通信教育課程を卒業したが、その卒業論文は学術誌にも掲載された。そのなかで彼は、フィギュアスケートの採点制度が《その試合の審判員の裁量に委ねられている部分が大きい》と指摘。さらに自らの手首やひじの関節など最大32か所にセンサーをつけ、ジャンプなどの動きをデジタルデータ化する研究を行った結果、AIによって《ジャンプに関してだけでなく、ステップやスピンなどの技術的な判定は完全に(デジタル化)できるように感じた》と記している。
羽生がこうした研究に取り組んだのは、言うまでもなく、審判員の“主観”に頼らない公正なジャッジのあり方を追求するため。そこには後輩たちに“不公平のない未来”を描いてあげたいという思いも込められていた。
「ISUは羽生選手が最初の金メダルを獲得した2014年のソチ五輪の後にもルール改正を行い、名前をコールされてからスタート位置に着くまでの時間を、それまでの60秒以内から30秒以内に短縮しました。羽生選手はルーティンを行ってきっちり46秒かけていたので、新ルールを聞いた瞬間、絶句したそうです。
さらに2017~2018年シーズンまで『15点』だった4回転アクセルの基礎点が、羽生選手が挑戦を公言し始めた2020年になぜか2.5点も減点された。いずれも“王者へのいやがらせでは”と囁かれました」(前出・フィギュアスケート関係者)
今回、ロシアが提案したという「演技構成点」から「つなぎ」と「音楽の解釈」を外すという改正案が、羽生に与えるマイナスの影響はそれ以上だ。
「羽生選手は要素のつなぎ方や曲の解釈を重視し、演技構成点をすごく考えたプログラムを組んでいます。それだけ体力を消耗する振り付けにもなっている。
一方、ネイサン選手はつなぎが不充分で、難易度の高いジャンプの前は楽な振り付けになっている箇所がいくつもあります。これまでの採点でも、“羽生選手の演技構成はもっと評価されるべき”と感じてきました。もしルール改正が行われたら、羽生選手のよさ、フィギュアスケートのよさが失われてしまいかねません」(前出・スケート連盟関係者)
ロシアはなぜこのような提案を行ったのだろうか。
「ロシアスケート連盟の顧問を務めているのは、かつて荒川選手や浅田選手のほか、世界の名だたる選手を指導し、“金メダルメーカー”と称されたタチアナ・タラソワさんです。彼女はISUに対しても大きな発言力を持っていますが、今回、彼女は演技構成点の構成要素を5から3に減らすことに賛成しています」(前出・フィギュアスケート関係者)
現在、男子では羽生以外ではネイサンや宇野、鍵山優真(18才)が最有力だが、女子ではロシアの若手選手が次々に台頭し、トップ3を独占するなど圧倒的な力を誇っている。
「かつて、浅田真央選手に『恋をしてでも表現力を磨きなさい!』と指導するほど、表現力を重要視していたタラソワさんがこのような提案に賛成するとは、ジャンプに強いロシアの女子選手の優位性を確実なものにしなければいけないという焦りと、世代交代を促し、羽生選手に暗に引退を迫るものなのかもしれません。
羽生選手の五輪出場が不透明ななか、フィギュアスケート界の未来に関しても不穏な動き。彼のモチベーションに大きな影響をもたらす可能性は否定できない」(前出・フィギュアスケート関係者)
スケート界の“黒幕”ともいえる存在に逆境に立たされている羽生。ルール変更の協議は、五輪後の2022年の6月から行われる。
※女性セブン2022年1月1日号
NEWSポストセブンより転用
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