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台湾に中国が侵攻する最悪事態の想定が必要な訳 台湾海峡の平和と安定は日本防衛と同義だ


中国の台湾武力侵攻には日米同盟による抑止が必要だ(写真:bedo/iStock)© 東洋経済オンライン 中国の台湾武力侵攻には日米同盟による抑止が必要だ(写真:bedo/iStock)

米中貿易戦争により幕を開けた、国家が地政学的な目的のために経済を手段として使う「地経学」の時代。

独立したグローバルなシンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)」の専門家が、コロナウイルス後の国際政治と世界経済の新たな潮流の兆しをいち早く見つけ、その地政学的かつ地経学的重要性を考察し、日本の国益と戦略にとっての意味合いを、順次配信していく。

台湾が世界で最も危険な紛争の火種に

2007年に中国を訪問したアメリカの太平洋軍司令官(当時)のキーティング海軍大将は、中国海軍の高官から「太平洋の東西を米中で分割管理しよう」と提案された。同大将は、冗談とは言え中国軍の戦略的考え方を示唆していると話したが、習近平主席がバイデン大統領に同じ提案をすれば、冗談では済まない。

ただ、中国は、2035年までに人民解放軍(PLA)の近代化を完了し、2049年までにPLAをアメリカ軍に比肩する世界最強の軍にすると国防白書で明記している。提案準備は整いつつある。この米中の勢力競争の焦点が、世界で最も危険な紛争の火種とされる台湾だ。

2021年4月に行われた日米首脳会談後の共同声明には、「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」「日本は同盟および地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」と明記された。台湾は、中国の力による現状変更や民主的価値観への挑戦の試金石であり、菅政権は日米同盟と自衛隊の強化に真剣に取り組む必要がある。

PLAの戦闘教本には「台湾島の軍事的占拠によってのみ、‘分離’勢力の生活空間を完全に支配し、海峡を挟んだ長きに及ぶ軍事的行き詰まりを完全に解決できる」とある。習主席は、「中華民族の偉大なる復興」には台湾統一が不可欠だと明言し、この目標を次世代に先送りしないため軍は準備を整えよ、と機会あるごとに命じている。

中国が台湾侵攻をいつ、どのような形で実行するのかは、習主席本人を含め未知数である。私たちにできることは、中国の意図と能力をできるだけ正確に見積もり、習主席の決断を遅らせ、躊躇させるための方策を考え、実行することだけだ。そのためには中国が教本に示すような台湾の軍事占拠に出た場合、何が起きるかを想像することが必要だ。

中国はA2AD戦略に基づき、第一列島線の東側領域へのアメリカ軍の接近を阻止しつつ(Anti-Access)、西側領域でのアメリカ軍の行動を拒否し(Area Denial)、台湾の軍事施設等へのミサイル攻撃・空爆を行うだろう。台湾を孤立させるため、台湾周辺に飛行禁止空域を設定し、台湾海峡およびバシー海峡を封鎖する可能性が高い。

航空自衛隊の空中警戒管制機は上空で半径約400km内の数百の航跡を管制する能力があり、現代航空戦の作戦空域はさらに広い。中国は、台湾東部の花蓮県に所在する空軍基地の地下施設に対し、弾道ミサイル攻撃と航空機による太平洋側からの攻撃を実施するだろう。

必然的に、台湾の東側100~300kmに位置する与那国から石垣島周辺のわが国領空は中国軍の作戦空域となり、日本の南西諸島周辺の航空・海上交通は途絶する。台湾本土へのミサイル攻撃・航空爆撃は、台湾市民はもとより在留邦人や在留アメリカ人の犠牲を出すだろう。日本は、日米同盟に基づいて各種の防衛作戦を実施せざるをえない状況になる。

アメリカが資産凍結に出れば中国の報復は日本にも及ぶ

このような事態にアメリカはどう対応するのだろうか。アメリカの外交問題評議会(CFR)が2月に公表した「アメリカ、中国、台湾:戦争抑止の戦略」と題する特別報告によると、アメリカはまず、アメリカ国内のすべての中国保有資産を凍結する、また、台湾人の資産を中国人の資産と区別し保護するため、台湾の独立政府を承認する可能性がある。

さらに、アメリカは敵となった中国とのビジネスやドル取引を遮断する一方、中国の同様の報復によってアメリカや世界中の何兆ドルもの資産が影響を受ける、と見積もっている。その場合は同盟国の日本にも、中国による日本資産の凍結、邦人の拘束、貿易・金融取引の遮断等があろう。

報告書は、米中の全面戦争への拡大を防止するためアメリカ軍による中国本土への攻撃は行わず、このような地経学的な手段と軍事的対応を組み合わせた作戦計画を、少なくとも台湾および日本と事前に準備し、中国の侵略を抑止すべきだと主張している。

だが、中国はこのような限定的な戦略によって、最優先の核心的利益である台湾統一を躊躇するだろうか。RAND研究所で「米中軍事スコアカード」報告書に携わった研究者は、その程度の影響は中国も織り込み済みだろうと筆者に明言した。

仮にCFR報告書の戦略で中国の台湾統一を抑止できなかった場合、日米は経済的な大打撃に加え、第一列島線の中央部に穴が開き戦略態勢の大きな後退を余儀なくされる。自由で開かれたインド太平洋という秩序は失われ、尖閣諸島は言うに及ばず、南西諸島全域が中国の深刻な軍事脅威に曝される最悪の事態となろう。その先は中国の目指す2049年の太平洋分割である。

アメリカがそのような将来を受け入れるとは考えられないが、昨年8月、National Interest誌に「アメリカは中国の台湾侵攻を成功裏に撃退できるか?」という論考が発表された。著者のDaniel L. Davisアメリカ陸軍退役中佐は、アメリカ国防総省とRAND研究所が実施したWar Gameに基づき、中国は数日から数週間で台湾を占領できる、仮に中国を撃退できてもアメリカは巨額の代償を支払うことになり、中国の報復戦に備えた台湾防衛態勢を維持し続けなければならない、と分析している。

Daniel L. Davisアメリカ陸軍退役中佐の結論は、「アメリカの利益が直接脅かされていないのに、軍事的敗北や経済的破滅というリスクを冒すのは、アメリカの政策として理に適わない」「アメリカが台湾を支援し中国の武力行使を思いとどまらせる最善の方法は、台湾だけでなくアジア太平洋地域のすべての友好国が自身の防衛能力を強化すること」である。

アメリカの死活的に重要な国益が脅かされる

だが、仮に中国が台湾を軍事占領するならば、中国の覇権は西太平洋へと広がり、アメリカの民主主義のリーダーとしての地位は失われる。したがって、この論文の結論の後半は正しいが、前半は誤りだ。アメリカの死活的に重要な国益が脅かされるのであり、同盟国とともに抑止力を強化することがアメリカの正しい選択だ。

この論文のような考え方はいまだアメリカの主流ではないが、海外への過度な軍事的関与は見直すべきとの声が強まっている。バイデン政権は山積する国内問題と同時にこの孤立主義とも戦うため、多国間協調と同盟協力を進めざるをえない状況なのだ。したがって日本は、共同声明を実行するため、少なくとも2つの課題に直ちに取り組む必要がある。

1つは、中国の誤算や過信による軍事侵攻を抑止するため、台湾有事の具体的な作戦計画を日米で共有することだ。新旧のアメリカインド太平洋軍司令官は中国の台湾侵攻が切迫(6年以内)していると議会証言したが、それは、習近平体制3期目(2022~27年)に来るPLAの建軍100周年(2027年)や2024年のアメリカ大統領選・台湾総統選など、軍事侵攻を招きやすい誘因を予期した警鐘である。

日本は、経済安全保障を含む包括的な対中戦略を策定し、年末の2+2に向けて台湾有事の日米共同Planningを完了しなければならない。中国は4月23日、中国海軍初の強襲揚陸艦、大型ミサイル駆逐艦およびSLBM搭載原子力潜水艦を同時に就役させた。式典には習主席に加え、張又俠、許其亮中央軍事委員会両副主席が顔をそろえ、本格的な台湾侵攻用の着上陸・海上戦力の増強を誇示した。

この膨れ上がった軍事力を使わずにおくことは、世論をあおり軍に臨戦態勢を鼓舞している習主席にとって容易なことではない。中国の過信と誤算を防止するには、日米が一致して行動する準備ができていることを示す必要がある。

もう1つは、防衛予算をアメリカが同盟国に求めるGDP比2%まで増額する計画を作り、来年度の防衛費をその計画に沿って大幅に増額することだ。アメリカの国防予算はGDP比で約3.5%であり、台湾も2020年防衛費を前年から5.2%増(GDP比2.3%)とし、さらに増額する10年計画を公表した。それでも、中国の2021年国防予算案の前年比6.8%増と比較すると見劣りがする。日本の令和3年度防衛費はGDP比0.95%の見込みであり、この水準では共同声明に明記した防衛力強化の真剣度が疑われる。

日米台中、どの国にも最悪の事態を回避するには?

実際、アメリカ議会の戦略的競争法や太平洋抑止イニシアティブに呼応し、南西諸島方面の防衛態勢等を強化する予算が必要だ。バイデン政権は、国防省の特設チームによる対中戦略の策定と世界規模の戦力態勢見直し(GPR)を実施中である。西太平洋へ戦力を増強し、中国有利に傾斜しつつある地域の軍事バランスの回復が目的だ。その最前線にある日本は予算の裏付けのある戦力態勢強化を確約し、アメリカのGPRや対中戦略策定に連動させていくべきだ。

歴史は、まさかそんなことは起きないと思われた愚行の例に満ちている。日米台中のどの国にとっても最悪の事態を回避するには、中国の反発による経済制裁や情報戦を恐れず、中国の意図と能力に対抗できる日米台の意図と能力を明示していくしかない。そのためのコストとリスクは、最悪の事態に比較するまでもないであろう。日本には共同声明の真剣な有言実行が求められている。

(尾上 定正/アジア・パシフィック・イニシアティブ シニアフェロー、元空将)

東洋経済オンラインより転用


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