中国・北朝鮮駆け引きの最前線 「開かない国境」を歩いた
- 国際
- 2021年5月5日
新型コロナウイルス対策で昨年1月から国境が封鎖されている北朝鮮と中国との間の陸路による貨物輸送の再開が、予想された4月上旬よりも遅れている。北朝鮮内では物資不足から生活必需品の価格が高騰するなどの混乱が伝えられるが、なぜ再開しないのか。4月末に中朝国境の街、遼寧省丹東を歩くと、その背景として中朝間の不協和音や駆け引きが存在する可能性が浮かんできた。
「労働節の休暇(5月1~6日)が終わってもすぐに開くことはない」。4月下旬、ある中朝貿易関係者は中国の鉄道関係者にそう言われ、落胆した。「(北朝鮮側から)注文はいろいろ来ている。なんとか早く再開してもらいたいのだが」
元々「4月上旬にも再開」という情報は、北朝鮮側からもたらされた。別の中国人貿易商は3月中旬、鴨緑江を挟んで丹東の対岸にある北朝鮮・新義州(シンウィジュ)に住む商売相手から陸路輸送が「4月に入れば再開する」との連絡を受けた。その頃には、中国に住む北朝鮮人ビジネスマンの間でも同様の話が広がっていた。
北朝鮮が「国家物資」と呼ぶ化学肥料や穀物の海上輸送は部分的に始まり、3月には約900万ドル(9億円)分の肥料が中国から北朝鮮に送られた。
だが、生活に密着した物資を運ぶ鉄道貨物輸送は始まらなかった。その理由について、北朝鮮情勢に詳しい北京の外交関係者は「中国側にも北朝鮮に対する要求事項があり、そこがまだまとまっていない可能性がある」と指摘する。
北朝鮮の新任駐中国大使は北京に赴任したが、中国の新任駐北朝鮮大使は赴任できていない。また、中国側は、2014年に完工したものの北朝鮮側が接続道路を整備せず、使われていない新鴨緑江大橋の早期開通を北朝鮮側に働きかけている。鉄道貨物輸送の再開と合わせ、こうした点も議論されているとの見方だ。
「国境を閉じたり開けたり、常に(北)朝鮮ペースで決められても困る」。貿易実務に関わる中国政府関係者は最近、知人の貿易会社幹部に対して、そう明かしたという。
4月30日に丹東から新義州を望むと、ビルの建設工事が進み、ときおりバスやタクシーが行き来するのも見えた。しかし、鉄道輸送などの中断が長引きせっけんや洗剤、歯磨き粉、調味料などが不足。市場では新型コロナ禍前の10倍以上の価格で取引されるものもあるなど、住民の生活は大きく圧迫されているという。【丹東(中国東北部)で米村耕一】
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