テレビ朝日系「相棒」シリーズに奥行きを与える脇役たちが“相棒愛”を語る誕生20周年特別企画の第4回は、「ヒマか?」のフレーズでおなじみの警視庁組織犯罪対策五課課長・角田六郎役を務める山西惇(58)が登場。長年ともに生きてきた“風来坊キャラ”を「生涯の伴侶」と表現。作品との出会いに感謝し、「一人の人を演じるという俳優としての基本を学びました」と愛用のパンダのカップを握りしめた。(取材構成・宮越大輔)

■「みんながどっと笑って」名フレーズに

特命係の部屋にふらりと現れては、コーヒーを飲みながら世間話に花を咲かせる角田課長。ときには事件解決のヒントをもたらす“キーマン”を魅力的に築き上げたのが、個性派の山西だ。

「初めて課長を演じたときは37歳でした。もうちょっと年齢が上の設定かなと思いながらやっていたので、ようやくちょっと追いついたかなと。若手刑事じゃなくてよかったです」

角田課長のトレードマークである黒縁メガネとニットベスト姿で取材に応じたベテランは、ユーモアを交えながら20周年を迎えた心境を語った。

劇団出身の山西が初登場したのは、2001年に土曜ワイド劇場で放送された「pre season」の第2話。当時の角田課長は、主演の水谷豊(68)扮する杉下右京とその相棒に対して慇懃(いんぎん)無礼な役どころで、「上から目線も甚だしい感じだったので、ドラマでは憎まれ役かなと思いながら演じさせてもらっていましたね」と振り返る。

そんなキャラから生まれたのが定番フレーズの「ヒマか?」だ。台本には話の入り口として「おう、特命さんヒマか?」と書かれていたといい、「そのシーンのリハーサルで言ったときに、『ヒマか?はないよね』ってみんながどっと笑ったんですよね。それがすごく印象に残っています」と誕生秘話を告白。「まさか20年付き合うせりふになるとは。世の中で誰よりも『ヒマか?』と言っていますね」と目尻を下げた。

■時々“マヒか?”「自分か角田さんかよく分からないときが」

トゲのある角田課長だったが、山西の味わい深いキャラも相まって徐々に「人のいいおじさん」に。児童虐待を題材にした今月17日の放送回では、人情味あふれる姿と男泣きの場面が話題となり、「角田課長」がツイッターでトレンド入りした。

組織に縛られない独特の立ち位置で作品を支える存在を作り上げ、「一時期は警視庁の“寅さん”と思って演じていました。大きな組織の中で課長職でありながら、ふわ〜っと自由でいられるってすげぇなと。憧れの人を体験しています」と白い歯を見せた。

20年にわたって角田課長とともに人生を歩み、「正直、自分か角田さんかよく分からないときがあります」と苦笑しながらも「生涯の伴侶ですね」とキッパリ。

演じる上で心掛けていることは体形維持で、「『急に太ったな』って思われるのはさすがにまずいので。髪形に関しては、中園参事官(小野了)とともにシーズンを経るに従って“経年劣化”みたいな部分はありますが、突然ではないので…」と頭をかいた。

■「どこまでイメージできるか」水谷からの教え

「相棒」を通じて学んだことは「俳優としての仕事の基本」と語る。最初の頃は水谷からアドバイスをもらっていたと明かし、「水谷さんは台本をもらうと『最初から最後まで自分の中でイメージが固まるまで寝られない』とおっしゃっていた。どこまでイメージできるか。現場に入るまでに、そのシーンが自分の思い通りになるか決まるんだなと教わりました」と感謝する。

最近、出演舞台のスタッフから「(角田課長と同じ)ピンクのベストを持っています」と告白された。「それだけ愛されるドラマに成長し、その作品に関われていることが本当にありがたい。これからも期待に応えていくしかないですね」と力を込め、柔らかい表情で「ヒマか?」とカメラに指を向けておどけた。

★胸ぐらをつかむも…すぐ離しちゃった

印象に残っている放送回に挙げたのは「−season17」の第4話。右京と対立する場面が描かれ、「初めて水谷豊さんの胸ぐらをつかむというシーンがありまして…」と述懐。大先輩が相手だけに撮影前日から緊張していたが、本番では感情を高ぶらせて熱演。「自分の中では気持ちも入ってうまくいった」と納得も、「放送を見たらつかんではいるんですけど、周りから『課長!』と止められるとシュッてすぐ離しているんですよ。それはちょっと悔しかったです」。無意識に水谷に遠慮した!?

★右京さん「意外と助けられています」

特命係の数少ない理解者である角田課長について、水谷は「『ヒマか?』には意外と助けられています。われわれが及びもつかない情報をずいぶんともらっていますからね」と笑顔。長年共演している山西を「いろんな意味で“人のことを邪魔をしない人”」と表現し、「普段もそうですし、芝居をしていてもそうです。自分の立ち位置を把握されている」と絶賛。「でも、やれることはきちっと役者としてやるタイプなので信頼できます」と頼りにしている。

山西 惇(やまにし・あつし)

1962(昭和37)年12月12日生まれ、58歳。京都市出身。京大在学中に劇団そとばこまちに参加。卒業後、一度は就職するも芝居に専念するため退職。同劇団の生瀬勝久(60)と数々の作品を作った。2001年に退団後はドラマや映画、クイズ番組でも活躍。昨年、舞台「イーハトーボの劇列車」などで読売演劇大賞優秀男優賞に輝く。来月6日に東京・紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで開幕する「日本人のへそ」に出演。170センチ。

サンケイスポーツより転用