夫婦で居酒屋を切り盛りする女将(おかみ)が出版した電子書籍が今年、アマゾンの9部門でベストセラー1位を獲得した。広島県尾道市新開の繁華街、レンガ通りにある居酒屋「お気楽酒場 和が家」の木曽千栄さん(45)が執筆した電子書籍「尾道わくわく人生海道」。居酒屋に来店したお客さんらの様子も交えながら、新型コロナウイルス下でも前向きに進んでいく秘訣(ひけつ)をまとめた。

コロナでは休業

「多くの反響がありました。みなさんがたくさんシェア(共有)してくれたおかげです」。木曽さんは9冠獲得を喜ぶ。10月に出版した電子書籍は、アマゾンの国内旅行ガイドの新着▽国内旅行ガイドの売れ筋▽旅行ガイド・マップの新着▽地理地域研究の新着▽地理地域研究の売れ筋▽メンタリング・コーチングの新着▽実践経営のリーダーシップの新着▽コンサルティングの新着▽コンサルティングの売れ筋-の各部門で1位を獲得した。「特に国内旅行ガイドはライバルが多くて1位は厳しいと思っていたので、まさか取れるとは思わなかった」と振り返る。

アマゾンで9冠獲得したのは居酒屋女将の電子書籍
© 産経新聞社 アマゾンで9冠獲得したのは居酒屋女将の電子書籍

2児の母で、夫(44)と居酒屋を切り盛りしている。新型コロナウイルスの感染拡大では同店も数週間程度の休業を余儀なくされたが、そんな不安な状態に陥ったときに、生まれ育った尾道市への地元愛を見つめ直す機会になったという。

尾道は、令和2年4月に死去した映画監督、大林宣彦さんの「尾道3部作」の舞台として知られ、平成27年度には「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」が日本遺産に認定されている。そんな歴史情緒あふれる街には「やさしくて温かい人が多い」と木曽さん。

以前に電気検針のパートをしていた際、「雨が降っているのにありがとう」と声をかけてくれた中年女性がいた。その後も、同じ地域を訪れると何度もあいさつをされ、木曽さんが訪れるのを楽しみにするまでになっていったという。

「尾道は街だけでなく、人々も魅力」という木曽さん。「その魅力を全国に発信するだけでなく、地元の人々にも気づいてほしい」と執筆を思い立った。

「ポジティブな人が増えてほしい」

電子書籍では尾道に住む人々にスポットを当て、自己肯定感を高める方法を紹介している。

「自己肯定感の塊」と評する女性客のマキちゃんは軸がブレずに、別の客にも注意ができるような人。笑い声高らかに周りを虜(とりこ)にする男性客2人もいる。尾道が好きすぎて名古屋市から引っ越してきた広島東洋カープファンの女性客も。

約4万5千字に「地元に恩返しをして、尾道が元気になってほしい」との願いを込めた。

居酒屋は11月下旬に移転し、新たな気持ちで再出発した。「暗い雰囲気が漂う世の中でもポジティブに考えてほしい。地元が元気になって、日本から楽しい人が増えてほしいと願っています」と話している。