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デモ続くうちは辞任できない?香港行政長官の窮地


 英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)は10月23日、中国政府が香港政府トップの林鄭月娥行政長官の更迭を検討していると報じた。果たして林鄭氏は辞任に追い込まれるのか。中国政府と香港政府の思惑を踏まえながら、今後のシナリオを占ってみた。【台北特派員・福岡静哉】

◇辞任したくても辞任できない?

FT紙は「中国政府が林鄭氏を更迭し、来年3月までに後任の『暫定長官』を任命することを検討している。暫定長官が2022年6月までの林鄭氏の残り任期を務める」と報じた。

中国外務省の華春瑩報道局長は23日の定例記者会見で「下心のある政治的デマだ」と否定した。林鄭氏も29日の記者会見で「中国政府は一貫して香港政府と私を支持している」と述べた。ただ、林鄭氏は8月にあった財界関係者との会合で「もしも選択肢があるなら、(市民に)深く謝罪したうえで辞任する」と述べている。会合の録音内容をロイター通信が入手して9月上旬に報じ、林鄭氏はこの録音が自身のものであることを認めている。

香港政界では、行政長官の進退についてはその任免権を握る中国政府に事実上の決定権があるとの見方が一般的だ。林鄭氏が辞任すればデモ隊に追い込まれたとの印象を強く与える。それは習近平指導部のメンツをつぶすことにもなる。「辞任したくてもできない」というのが林鄭氏の本音なのかもしれない。

中国共産党は10月末の重要会議で香港情勢に対する今後の方針を決定した。その中で行政長官などの任免制度を「改善する」との方針を盛り込んだため、林鄭氏の更迭を検討しているとの観測がさらに強まった。

中国の習近平国家主席は11月4日、訪問先の上海で林鄭月娥行政長官と会談した際、林鄭氏に対する「高度な信任」を伝えた。早期辞任の観測をひとまずは打ち消した形だ。ただ林鄭氏は支持率の急落で求心力を失い始めている。香港民意研究所が10月17~23日に実施した世論調査で林鄭氏の支持率は11・2%と歴代長官最低を再び更新した。デモが収まる兆しはなく、引き続き辞任の可能性は残されている。

では、仮に辞任すれば、後任の選出はどのような手続きになるのか。香港の憲法に当たる香港基本法の53条は、行政長官が空席となった際は「6カ月以内に新しい行政長官を選出しなければならない」と定める。辞任から新長官の就任までは、ナンバー2の政務官が長官代行を務める。新長官は中国政府の任命によって就任し、辞任した前長官の残り任期を務める。

◇これまでに任期途中の辞任は1例だけ

1997年の中国返還後、行政長官が任期途中に辞任したのは董建華長官の1例だけ。董氏は2003年、中国を転覆させる行為を禁じる「国家安全条例」の制定を試みたが、50万人が参加したとも言われる大規模な反対デモが起きて撤回に追い込まれた。その後、「足の痛み」を理由に05年3月、任期途中で辞任。世論では事実上の更迭と受け止められた。6月に補選があり、曽蔭権氏が無投票で当選。07年6月までの董氏の残り任期を務めた。

FT紙は後任人事として、香港金融管理局(中央銀行)前総裁の陳徳霖氏と元政務官の唐英年氏の名があがっていると報じた。確かな筋から入手し、自信を持って放ったスクープだろう。だが長官が任期途中で辞任した場合は05年のように補欠選挙を行うのが通例だ。FT紙は補選には触れておらず、中国政府が一方的に行政長官を任命するとも読み取れるため、民主派からは強い反発が出ている。

◇中国が持つ基本法の解釈権という「切り札」

では中国政府が選挙なしに長官を任命することは可能なのか。改めて行政長官の選出方法を定めた基本法45条を見ると、「行政長官は選挙あるいは協議を通じて選出され」るとし、「具体的な選出方法は付属文書1が決定する」と規定する。付属文書1には、各業界団体などから選ばれた選挙委員1200人による投票で選挙を行う旨の取り決めが記してある。長官が任期途中で辞任した場合もこの条文が適用される。補選を原則としつつ「協議」による選出もできるように読み取れ、非常に分かりにくい。

こうした基本法の解釈を巡る難題で、威力を発揮する中国の「切り札」がある。基本法158条は、中国の全国人民代表大会(全人代、国会)の常務委員会に基本法の解釈権があると定めている。全人代常務委は過去にこの切り札を5度、使ったことがある。3例は香港の行政や司法の要請を受けたものだが、残り2例は要請されてもいないのに中国側が「横やり」を入れる形で解釈をくだした。

「横やり」の代表例は2016年、立法会(議会)議員の就任宣誓を巡る解釈だ。選挙で当選した反中派の議員2人は16年10月、宣誓の際に「香港は中国ではない」と書かれた横断幕を広げるなどした。就任宣誓について定めた基本法104条は、「中華人民共和国香港特別行政区への忠誠」などを義務づける。梁振英行政長官(当時)は「104条違反で議員資格を喪失している」として司法判断を求めた。

全人代常務委は香港の裁判所に検討する時間的な余裕を与えなかった。翌11月、「不誠実で荘厳でない方法」などによる宣誓は無効で、議員に就任する資格はないとの解釈を示した。これに基づき裁判所が判断を示し、2人は失職した。民主派は「1国2制度を損なっている」と激しく反発した。

◇リスクが大きい補選なしの後任任命

選挙を経ずに、香港の親中派が話し合いで中国政府の意中の人物を新長官に選んだとしよう。この場合、民主派は訴訟を起こすだろう。全人代常務委は「基本法に『協議で選出』と書いてあり、正当な手続きだ」と解釈するのは目に見えている。英国との香港返還交渉に新華社通信香港支社長として深く関与した許家屯氏の回顧録などによると、中国共産党中央が1982年に批准した返還に関する「12項目方針」の中で、行政長官の選出について「選挙あるいは協議を通じて選出」と明記している。親中派が選挙で勝つ見込みが薄い場合など、不測の事態に備えた条項なのかもしれない。

ただ、中国政府の一存で簡単に長官をすげ替えられるのなら、香港は中国の他の地方自治体と同様の立場に置かれたようなものだ。それは、香港に高度な自治を保証した1国2制度の崩壊と言えるかもしれない。1国2制度による台湾統一を悲願とする中国としては、そのイメージがさらに悪化することも避けたいだろう。

行政長官の選出方法は、香港の政治で最も重要なテーマだ。基本法45条は行政長官選挙の「最終的な目標」として「普通選挙」を明記する。2014年の「雨傘運動」や今年のデモが大規模化した根底には、45条に基づいて「1人1票」の普通選挙を実現すべきだとの切実な要求がある。仮に親中派の不透明な協議によって長官を任命すれば、これまで以上の激しい抗議デモが起きるのは確実だ。現行制度なら選挙を行っても親中派が選出される可能性は極めて高い。中国・香港政府が「協議」という強引でリスクを伴う方法をあえて選ぶ可能性は低いと私は思う。

◇火に油を注ぎかねない「補選」実施

では林鄭氏が辞任した後に補選で新長官を決める場合はどうか。私は、中国政府はかなりのリスクを覚悟する必要があると思う。

デモ隊が掲げる「5大要求」の一つは「普通選挙の実現」だ。だが行政長官補選がある場合は、従来通り選挙委員1200人による投票で行われる。選挙制度の変更も全人代常務委の承認が必要だが、普通選挙を求める運動に火がつくのは避けられない。

「5大要求」に林鄭氏の辞任は含まれていない。林鄭氏が辞任しても、現行の選挙制度では新たな親中派の行政長官が選ばれるだけでデモ隊にとっては根本的な解決にならないからだ。デモ隊が特に重視するのは、普通選挙と、警察の暴力的な取り締まりの是非を検証する独立調査委員会の設置だ。新たな親中派長官が仮に就任しても引き続きこうした要求に向き合わなければならない。

また中国政府としても、すでに逃亡犯条例改正案を撤回した時点で譲歩をしているのに、さらに林鄭氏の辞任となればメンツの丸つぶれだ。「習指導部は弱腰だ」との印象を内外に強く与えることになりかねない。長官の更迭と新長官の選出は、中国政府にとっては局面転換を図るメリットはあるかもしれない。だが背負うリスクも大きい。

◇スクープの源は水面下で後任探る動きか

林鄭長官は辞任するのか。辞任するとすればいつなのか。見方は分かれる。デモを継続して見てきた香港紙記者は「中国政府にとってはプラスよりマイナスの方が大きく、デモがある程度収まってからでないと辞任はないだろう」とみる。これは抗議デモで求心力が弱まり辞任した董建華氏と似たパターンだ。他方で、ある立法会議員は私の取材に「林鄭氏の支持率は地に落ちており、近々、辞任する可能性はある」と指摘する。ただこの議員は「警察を調査する独立調査委員会の設置など、デモ隊への新たな譲歩がない限り、新長官が事態を収拾させることは難しいだろう」と話した。

香港で行政長官が代わる際は、中国当局から香港の親中派などに対し「後任は誰が適任か」との探りが入ると言われている。今回のFT紙のスクープは、その端緒が漏れたものかもしれない。専門家の間には「世論の反応を見るためのリークではないか」との見方もある。いずれにせよ、中国政府の今後の判断次第では、香港情勢は大きな転機を迎える。

毎日新聞

 

 

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しばらく飼い殺し状態!?


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