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清澄白河にある「シェアホテル」のスゴイ中身


2017年4月オープンした「LYURO東京清澄」。隅田川の河川敷に設けた幅44メートルのウッドデッキ”かわてらす”を、宿泊客のほか地域住民など誰もが利用できる共用スペースとしている(筆者撮影)

活性化するインバウンド需要の影響か、日本人の間でも、さまざまなものに対する価値観が変化している。

そのことが特に感じられるのが“旅”だ。思えば旅行は、新婚旅行や社員旅行で熱海旅行がはやった1970年代から、さまざまな形で流行してきた。航空運賃が下がってからは海外旅行が身近になり、アジアのリゾート地やヨーロッパなどへも気軽に旅するようになった。行き先を決めず知られざる地を放浪するバックパッカーのブームもあった。

そして今、旅を愛する人の間で注目されているのが、国内のディープな魅力を発見する旅行だ。

外国人観光客のニーズは「地方部」へと広がっている

観光庁の調べによれば、2017年の外国人宿泊者数は7800万人泊と、前年比+12%であり、過去最高となっている。さらに注目すべきは、3大都市圏(首都圏および名古屋・大阪・兵庫・京都)と地方部の宿泊者数の対前年比を比べると、3大都市圏が+10.2%、地方部が+15.8%と、地方部の宿泊者数が急激に伸び、3大都市圏を上回っているのだ。また、シェアで言えば、地方部での宿泊者数が初めて4割を超えた(以上、観光庁平成29年宿泊旅行統計調査より)。

つまり、外国人観光客のニーズは、より地方部へと広がっていると言えるだろう。数字としては挙がっていないが、それに伴い、日本人の旅へのニーズにも変化が現れていると見られる。というのも国の施策で地域資源の活用が奨励され、魅力のある宿泊施設や観光スポットの整備が進められている。それまであった地域資源が、外国人目線で再生され、日本人にとっても新鮮な魅力になっていると考えられるからだ。

「LYURO東京清澄」受け付けカウンター(筆者撮影)

そうした新しい宿泊施設として今回紹介するのが、東京の名所・隅田川沿いに2017年4月オープンした「LYURO東京清澄」である。インバウンド対応として近年増えているのが、安価に泊まれる素泊まり・相部屋の宿泊施設。同ホテルもそうした施設の1つだが、単に安く泊まれるというだけではない。ここでしかできない“体験”を提供するホテルとなっている。

ディープな体験を求めるニーズが高まっている

「最近高まっているのが、ガイドブックに載っていないローカルな場所や、一歩足を踏み込んだディープな体験を求めるニーズです」(リビタ取締役 ホテル事業部長の中瀬真実氏)

ブルワリー併設のレストランPITMANSでは、クラフトビールも川面を眺めながら楽しめる(筆者撮影)

そのため同ホテルでは、宿泊者以外に開放されたスペースを備え、地域の活性化を目指している。具体的には、隅田川の河川敷に設けた幅44メートルのウッドデッキ“かわてらす”を宿泊客のほか、地域住民など誰もが利用できる共用スペースとしていること。かわてらすでは、同ホテル2階のレストランが提供する、その場で醸造されたクラフトビールや肉、季節の野菜、魚介などのグリル料理などを楽しむこともできる。隅田川の景色を楽しみながらのヨガイベントやクラフトマーケットも行われている。またホテル内のシェアスペースを地域の活動などに貸し出し、これまでも写真やアートの展示会、ライブ、万華鏡や紙の細工といった手作り体験のワークショップなどさまざまな活動が行われた。

ウッドデッキ“かわてらす”でのヨガイベントの様子(写真:リビタ)

重要なのが、こうしたイベントなどに宿泊客に気軽に参加してもらうことで、地域の人と観光客の交流を促進していることだ。同ホテルを企画した1人である、リビタの西山尚子氏は、コンセプトについて次のように語った。

「地域で活動するプレーヤーが使える場所づくりをしたかったということがあります。また、地域の人と触れ合いながらローカルな体験をすることで、新たな気づきや町歩きのきっかけになればと考えています」(西山氏)

講師や参加者の宿泊、飲食がそろっているホテルという形態は、イベントを行ううえで機能的ということもある。

「アウグスビール」初のクラフトビールのブルワリー、清洲橋醸造場(筆者撮影)

清澄白河といえば、東京都現代美術館や小さなギャラリーが点在することで、以前より“アートの街”という特性があった。またコーヒーの焙煎所が集まっていることから、ブルーボトルコーヒーが初上陸の地として選んだことでも名高い。最近ではクラフトビールの店やワインのフジマル醸造所がオープンするなど、こだわりのお酒を楽しめる店もちらほらできている。

ただし、同ホテルの立地はそういった界隈とはちょっと外れている。また最寄り駅からは徒歩10分といったところで、便利とは言いがたい。だからこそ、ホテルそのものや、ホテルで行われるイベントなどの魅力が重要だ。宿泊客が「便利な場所にあるホテルだから」ではなく、ホテルそのものが利用目的でなければならないわけだ。

「スタッフの教育では、コミュニケーションを重視しています。受け付け業務だけするのでなく、たとえば『どこを回られるのですか?』などお客様との会話の中で、周辺の観光スポットのアドバイスをする場合も多いです。観光客が普段足を運ばないようなところの魅力を伝え、地域活性化につなげたいと考えています」(中瀬氏)

地域資源を存分に取り入れた設計

では、ホテルとしての魅力はどんなところにあるのだろうか。何と言っても、川の景観という地域資源を存分に取り入れた設計が挙げられる。

「もとはオフィスだった建物をリノベーションしているため、ホテルとして新築で設計する建物に比べて、窓が大きいという利点があります」(西山氏)

シティホテルでは珍しい、リバービューバスルーム(筆者撮影)

個室タイプ4種類23室のうち18室がリバービューとなっており、バスルームから隅田川の景色を楽しむことができる。川に面しており周囲に建物がないため、シティホテルでは通常難しい、リバービューバスルームを実現することができた。なおバスルームとベッドルームの間はガラス張りにしてあるので、部屋全体が川に向かって開けているような眺めが楽しめる。もちろん、目隠しのブラインドや扉も設けられている。

川に沿った細長い形状の外観(筆者撮影)

外観からもわかるが、川に沿った細長い形状をしているため、1室ごとのスペースがコンパクトだ。その限られたスペースを活用する工夫も面白い。ある客室は2ベッド、3人用の部屋だが、ベッド下にもう1つベッドが収納されており、引き出すことで4人が宿泊可能となる。スペースの事情と、旅を楽しんでもらいたいという思いから、デスクやテレビはあえて設置していない(フロントでモバイルテレビを貸し出している)。

個室タイプの客室のほかに、相部屋のドミトリールームもある。30ベッド用意されており、部屋ごとの貸し切り利用も可能だ。こちらもリバービューの部屋を選ぶことができる。標準料金は個室リバービュータイプが1万8000円(2人部屋)・2万2000円(4人部屋)/部屋、個室エコノミータイプが1万5000円(2人1室)・1万6000円(4人1室)/部屋、シェアルーム、ドミトリータイプが3600円/ベッドとなっている。

一つひとつに物語があるデザイン

そのほか、こだわりが随所に込められている。設計からかかわった西山氏が注目してほしいというポイントが、廊下の配色だ。

リビタ取締役ホテル事業部長の中瀬真実氏(右)とディレクターの西山尚子氏(筆者撮影)

「建物全体に川や水をイメージしたデザインを採用しています。この廊下では手前は薄い青、奥になるほど濃い青と、壁面の色を塗り分けています」(西山氏)

客室番号が記されたガラス製の客室サインはアート作品のように繊細だが、実は蛍光管をリサイクルしたものだそうだ。このホテルのためだけに作成したオリジナルなので、リサイクルとはいってもコストが安くなるわけではないが、建物と同様、再生へのこだわりが表れている。また客室壁面のクロスにも、隅田川をモチーフにしたグラフィックデザインを用いている。

「川を表すLYUROのロゴをデザイン化したものですが、隅田川の水を使って描いた絵をもとにしています」(西山氏)

このように、言われなければ気づかない細かな工夫がたくさんあり、また一つひとつに物語がある。宿泊する機会があったら、スタッフに質問してみるとよいだろう。

同ホテルの外国人客と日本人客の割合は半々ぐらいで、20〜30代女性がメイン層だという。

共用ドミトリーの水回りスペース(筆者撮影)

「当ホテルは女性専用ドミトリーを14ベッド設けていることが特徴で、水回りなども女性専用スペースに設けています。化粧を落とした後に男性との共用スペースに出るのがいや、という声が外国人、日本人問わず高いのです」(中瀬氏)

女性の1人旅はいまだに「自殺するのでは」などと、旅館などでは警戒されてしまう。1人でも気兼ねなく、しかも安く泊まれるドミトリーは、旅を愛する女子から人気が高まっているようだ。また、女性専用のフロアがあるというのもポイントが高い。くつろいだ格好のときに、たとえすれちがうだけといっても男性の目にさらされることに抵抗を感じる女性は多いだろう。

老朽化した遊休不動産をリノベーションして再生

リビタは京王電鉄、東京電力ホールディングスを株主とする、京王グループに属する企業だ。メインは住宅などのリノベーション分譲事業やシェアハウス、シェアスペースの運営。老朽化した団地を、高齢者向け住宅とシェアハウスなど3つの機能を併せ持った「多世代交流型賃貸住宅・たまむすびテラス」の再生に携わるなど、社会的に意義の高い取り組みで、最近、注目度が高まっている。

ベッド下にもう1つベッドが収納されていて、限られたスペースを活用している(筆者撮影)

ホテル事業に乗り出したのは2016年から。「ザ シェアホテルズ」というブランド名で、清澄白河のほか函館、金沢、京都などにホテルを展開している。いずれも、老朽化した遊休不動産をリノベーションして再生し、地域のにぎわい創出につなげる意図がある。

LYURO東京清澄は2013年から東京都が実施した、水辺エリアの民間事業者利用に関する社会実験で採用されたプロジェクト。宿泊施設とシェアスペースを併せ持った施設ということが評価されたそうだ。

ホテル事業では経験が浅いが、業界の既存概念にとらわれず、ダイレクトに入ってくる利用者の声を次の物件に活用できる。また、リノベーション事業の蓄積により、設計にこだわりながらコスト削減できることも大きい。価値観が変化する今、門外漢であることが強みになり、若者や外国人を惹きつける理由になっている。


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