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エプソンが「インクジェット」に命懸けの理由


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セイコーエプソンが新興国を中心に展開する大容量インクジェットプリンター。カートリッジを買いに走ったりする必要がない(撮影:今井康一)
成熟した複合機業界で、セイコーエプソンは“寵児”となれるか。キヤノンやリコー、富士ゼロックスといった大手が手掛けるオフィス向け複合機は基本的にレーザー方式だ。そんな中、セイコーエプソンは昨年5月、高速印刷に対応したインクジェット複合機を発売し、シェアの低いオフィス向け市場に本腰を入れ始めた。
消費者や小規模オフィス向けには新興国を中心に、大容量のインクタンクを積んだインクジェットプリンターをヒットさせ、カートリッジを儲けの柱とする従来のビジネスモデルを大きく変えた。なぜそれほどまでにインクジェットに懸けるのか。狙いや印刷の未来について、就任から10年となる碓井稔社長を直撃した。

環境を考えれば、インクジェット一択

――大容量のインクジェットプリンターはどこまで広がるのでしょうか。

基本的にはプリンティングのメジャーな商品になっていくと思っている。カートリッジをとっかえひっかえ使い捨て交換していく今のビジネスモデルが永久に続くことはあり得ない。今の世の中では環境のことを抜きにして語れない。廃棄するものがなく、消費エネルギーも非常に少なく、必要なときにパッと印刷できるものが求められるようになる。

碓井稔社長は、環境面でのインクジェットの優位性を熱を込めて語った(撮影:今井康一)

インクジェットの消費エネルギーはレーザーの8分の1だ。インクをパッと飛ばすだけだから。もともとの印刷技術はアナログの「版」にたっぷりとインクをつけて紙に刷るというものだったが、非常に効率が悪いし、廃棄物も多かった。インクジェットであれば、環境を気にしない生産環境に作り替えることができる。

核となる技術がインクジェットのヘッドだ。これが製品としてのパフォーマンスを決定づける。まっすぐ、精度よくインクを飛ばさなければいけない。われわれは「省・小・精」の技術を基盤にしてきた。(祖業の)時計なんてまさにその極み。プリンター自体は大きいが、コアデバイスはすべて自分たちでつくって最終製品まで展開している。

――ヒットにつながったのはやはり技術だと。

いや、大容量のインクジェットプリンターは、これまで開発してきたものと比べれば技術的にはある意味”大したもの”ではない。タンクを取って付けたようなものだから。だけど新興国では、プリンターのそもそもの機能が問われる。それは「安く印刷できる」ということだ。

日本の技術者が陥りがちなのが、社会のニーズに応えているかということを考えずに自分の技術に埋もれてしまうこと。世の中の人たちの生活習慣をどう変えていきたいかをイメージしながらの商品作りでは、日本企業よりも欧米のソフトウエア企業が得意。中国などの企業からも見習うべき部分がある。

オフィス向けでレーザーに対抗できるか

――オフィス向け複合機ではシェアが低いですが、ここでもインクジェット製品を投入しました。最高毎分100枚という高速印刷が特徴です。

高速印刷を売りにするオフィス向けのインクジェット複合機(撮影:今井康一)

2017年に発売した高速インクジェット複合機はもう少し売れてほしかった。競争は激しい。安売りすれば数はさばけるかもしれないが、自分たちの良さを訴求しながら導入を進めたいので、一定の制約は避けられない。

だが、進捗は確実にあった。やはり環境面に対する反応は非常によかったし、実際に導入した顧客はたくさん印刷してくれている。そういう人たちのニーズはしっかりつかめたんじゃないか。まだ受注には結びついていないけれども案件は積み上がっているので、かなりのパーセンテージで今年は伸ばせると思う。

――どれくらいの事業規模を目指しますか。

競合となるセグメントのレーザープリンターは年間の販売数量が約55万台。今後3~5年以内にそのうちの3~5%のシェアは取っていきたい。将来の社会を考えれば、インクジェットがメジャーになる。ただ5年ですべての車が電気自動車に変わるわけではないように、3~4年でキヤノンやリコーと同規模を目指すのは現実的ではない。

私たちはこれにしか懸けていないんでね。生産性や知的な創造性がますます発揮できる社会になっていく中で、プリンティングで生き残るとしたらインクジェットしかないと。われわれは「インクジェットイノベーション」と呼んでいる。リスクを取ってでも新しい社会を自分たちが中心になって作ろうという志のもとに活動をしている。

――リストラを進めるリコーや富士ゼロックスを筆頭に、複合機業界はそもそも厳しい状況にあります。インクジェットで市場開拓を進められるのでしょうか。

ニーズに対してきちんと向き合わなければ、時代とともに顧客から見放されることになる。ITサービスなどの大手複合機メーカーの施策には、自分たちの顧客を囲い込むためだけで本質的でないものも多い。単に囲うのではなく、期待して使ってもらおうという供給側としての気持ちがなければいけない。その気持ちの表れとして、自分たちがやれる技術革新を徹底的に極めることが必要だ。

ペーパーレス化を言い訳にしない

――とはいえ、皆がスマホやタブレットを持ち、クラウドサービスも普及する中で「ペーパーレス」の流れが進みつつあります。

碓井 稔(うすい みのる)/1955年生まれ。1979年信州精器(現セイコーエプソン)入社。研究開発本部長などを経て2008年から現職(撮影:今井康一)

なんでもかんでも減らして仕事の効率が下がったら本末転倒。一人一人が創意を凝らしたり仕事の生産性を上げたりするうえで、最適なものを使えばいい。紙はもう何千年来ずっと人類が親しんできた、生産性向上や知的活動を支援する非常に大きなツールだ。将来もしっかりとしたポジションはあると思う。

印刷をしようとしたときに誰もが思うのは、「こんなに紙を使っていいんだろうか」ということ。紙の問題は、使い捨てで自然環境を壊すという話で思考が止まってしまう。だが、再生して何でも使えるようになったら話は変わってくる。思考の制約が取っ払われたときにはまた、新しい知的活動にまい進できるんじゃないか。

自分たちのビジネスだからということではなく、それが社会のニーズであり期待感だと思う。だから「PaperLab」という、使用済みの紙から新たな紙を生産できるオフィス製紙機を造った。プリンティングの技術をずっとやってきた以上、ニーズに正面から応えずペーパーレス化を言い訳にしたりしない。

 

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