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アイサイト 分かりにくい誠実と分かりやすい不誠実


 7月3日、スバルはレヴォーグに「アイサイト・ツーリングアシスト」を搭載することを発表した。

細かく言えばさまざまな部分がアップグレードされているが、最も大きな話題は、従来の「ぶつからないブレーキ」に加え、ステアリングのアシストが加えられたことだ。

●自分で運転した方がマシ

都内で行われた試乗会でこのツーリングアシストをテストした筆者はとても混乱した。一言でいって出来が悪い。具体的に問題点を挙げると、大きく3つある。

・コーナーの曲がり率や横方向加速度によって、途中でアシストを止めてしまう。
・ドライバーが運転していることの確認のために10秒に1度、ステアリング操作を行わないとランプとアラームで警告される。
・車線内での位置取りが悪く、常に左に寄りすぎる。特に左車線に大型トラックがいるとスレスレを走る感じがする。

要するに怖くて、アシストに任せられないのだ。筆者が基準として考えたのは追尾型のオートクルーズコントロール(ACC)だ。ACCもまた完璧ではないが、苦手とする項目は割とはっきりしていて、人が介入しないとダメな場面が分かりやすい。任せられることと任せられないことが切り分けやすく、任せられる部分での運転負荷の軽減が非常に大きい。

ところが、ツーリングアシストはそうではない。任せられる、任せられないの分岐が複雑で、それをいちいち判断してシステムのご機嫌を伺うのと、自分の判断で運転することとどちらが楽か分からないほど煩雑なのだ。

だから筆者はエンジニアに「これじゃプロトタイプ。市販するレベルにない」とまで言ったのだ。

●自動車を作る人とそれ以外

この手のステアリングアシストの先鞭を付けたのはテスラである。しかも彼らはレベル2のこれを「自動運転」だと平気で言う。自動運転だと言いつつも、いざ死亡事故が起きた時に、掌を返して「安全運転の義務はドライバーにある」と公式アナウンスした。

彼らがオールドエコノミーと揶揄(やゆ)する自動車産業はこれまでそういう誤解を招く大げさな言い方は決してしてこなかった。「ぶつからないブレーキ」にしても初期は「ぶつからない」と言わないでくれと何度もお願いされた。「あれは衝突軽減ブレーキです」。書き手としては簡潔に分かりやすく書けないのでとても面倒だったが、一方でその誠実な姿勢に、自動車産業への信頼を強く感じたのも確かだ。

今、そういう志の高い自動車の作り手が、テスラが始めた「分かりやすさのワナ」にはまり始めている。日産はコマーシャルで「スイッチ1つで自動運転」と言い始めた。あれを聞くたびに思うのだが、自分の親兄弟や子どもにクルマのキーを託すとき、「このクルマはスイッチ1つで自動運転だよ」と言えるのだろうか?

身内に言えないことを他人に無責任に言うのは人間としておかしい。相手がクルマのプロならいざ知らず、コマーシャルを見るのは素人だし、そのまま真に受ける人だって大勢いる。分かりやすさばかりを求めた不誠実な説明でミスリードして良いわけがない。そんなわけで筆者は「スバルよ、お前もか」という気持ちで試乗を終えた。

●1000キロ走って分かったこと

結論から言えば、それは筆者の間違いだった。そのスバルらしからぬ出来に、あまりにも納得がいかなかった筆者は、後日改めてレヴォーグを借り出して1週間で1000キロを走り回った。高速代とガス代で原稿料はマイナスになったが、確かめて良かったと思う。

筆者の根本的な間違いは、これを自動ハンドルだと認識したことだ。ステアリングを握ってさえいれば、脱力して一切操作しなくてもクルマが自動的にステアリング操作をしてくれる。そういうものを期待していた。だから、自車位置がおかしいことに不満が出るし、10秒に1回の警告にイライラする。曲がり率が少しキツくなるとアシストを放棄することも、安請け合いして途中で仕事を投げ出しているみたいに感じた。「これだったら自分で運転した方がいいじゃないか?」。できもしないことをできる振りをするスバルはテスラ側に墜ちたのだとさえ思った。

しかし、1週間乗り続けるうちに、スバルの考えていることが徐々に分かってきた。これは自動ハンドルではない。ドライバーの支援をするものだ。ならば当然ドライバーは自分で運転しなくてはならない。そして、そのドライバーの操作の一部を支援することがアイサイト・ツーリングアシストの目的だったのだ。考えてみれば、スバルはツーリングアシストを「自動運転」だとは一言もいっていない。徹底して「運転支援」だと主張しているのである。

自分で主体的に運転すれば自車位置は自分の意図する位置にキープできて当然だ。そしてその自車位置キープに何らかの事情で一定以上の狂いが出たとき、ステアリング支援が介入する。システムの自車位置特性によって、右方向へのはみ出しは即座に、左方向へのはみ出しは少し大きくなった時にと、その介入タイミングは左右で異なるが、そうやって主体的に運転していれば、当然常時ステアリングを操作するので、警告ランプも点灯しない。曲がり率のキツいコーナーも自分が主体的にステアリング操作をすると途中で放棄することなくアシストしてくれる。

アイサイトと息が合った時は、自分の操作をステアリングアシストモーターが後押ししてくれるので、操作力が軽減される。そして例えばバックミラーに気を取られて前方監視が疎かになったような時には、システムがステアリングを切ってくれる。そのメリットは「一度味わったらもう戻れない」というような鮮やかなものではないが、じんわりとした効果を感じる。現時点での機能がコストに見合うのかどうかは個人個人が決めることだろう。いずれにしてもこれは通過点にすぎない。

つまり、スバルはアイサイト・ツーリングアシストで、「操作を放棄した楽チン運転」を提供する気は毛頭なく、あくまでも主体的に運転するドライバーの「手伝い」をして、安全性を向上させるシステム構築を目指している。システムの裏を書いて「○秒に1度ハンドルを少し切れば、事実上自動運転ができる」という使い方ができないように注意深く作られているのだ。

技術的に見れば、ステアリングモーターのフィードバックが少ない。この手のシステムの中には、ドライバーが意図しないタイミングでシステムがステアリングを切り始めたとき、それを制止するのにかなり力を要するものがあるが、スバルのシステムは、わずかな力で操作するだけでモーターアシストが解除される。それこそが主体的な運転を第一義とする表れだし、自分がステアリング操作をする場面でステアリングが勝手に動く違和感はこの種のシステムとしては少ない方だ。

余談だが、自車位置が左寄りなのは、カメラ判定方式の現状の限界だと言える。路側帯の白線は必ず実線で、車線を跨ぐクルマによって薄くなったりし難い。しかし走行車線と追い越し車線を分ける線は破線であることが多い上、ラインを跨いだ車線変更などによって薄くなっているケースが多い。システムは車線幅そのものを判定するのが苦手なので、車線の中央に位置取りできない。最も車線幅が狭いケースを想定して、より確認のしやすい左側のラインを基準に自車位置を決めることになるから左寄りになると思われる。これはスバルだけでなく他のメーカーも同様だ。

●スバルの新ブランディングとアイサイト

スバルでは今、ブランド改革プロジェクトが進行中だ。WRCイメージの超高性能AWDや雪国のアシグルマというイメージから、スバルの新たなキーワード「安心と愉しさ」へとシフトしようとしている。それは図らずもアイサイトで築いた安全と、従来からのスポーツイメージを融合させた先に新しいスバルのブランドを構築しようという試みだ。

生産台数から見れば、スバルは弱小もいいところで、トヨタの1000万台はおろか、スズキの300万台と比べても3分の1の100万台規模。台数を追おうとしてもそれには大幅な生産設備の増強が必要で、成功すれば良いがリスクが極めて高い。まともな経営者なら、利益率を上げることを優先する経営環境である。だからこそ価格勝負が本質になる軽自動車から撤退したし、引き続き商品の付加価値を上げなくてはならない。その付加価値の源泉の1つが「安全」だとすれば、浮ついた考えでは進められない。「短期で売り上げが伸びれば長期的には信用を失っても良い」と考えられる状況にはないのだ。

そういうスバルの置かれた状況に回帰して、もう一度ツーリングアシストがどういうものであるべきかを考えれば、今回のような基本に忠実な、ドライバーが主体的に運転せざるを得ない形にまとめたシステムの構築は得心がいく。

筆者自身も例外ではなかったように、ハンドルのアシストという言葉を聞いたとき、多くの消費者はそこに「自動運転」を重ね合わせる。運転という労働から解放された世界がどうしてもイメージされるのだ。だからこそ自動車メーカーはそういうドライバーの行動を前提として、想定外の使われ方を排除するシステムを構築しなければならない。

10秒に1度の警告が嫌なら、あるいは曲がり率のキツいコーナーで突然アシストを放棄されるのが嫌なら自分でハンドルを切るしかなくなる。今回スバルはそういうシステム構築を選んだ。恐らく営業サイドから、筆者が冒頭に挙げたような不満がどんどん上がってくるだろう。だがそれに負けてはいけない。分かりやすい不誠実より、例え分かりにくくても誠実である方が大事だ。人の命がかかっている自動車というプロダクツは責任が重い。

図らずも9月27日にアライアンスの盟主であるトヨタが自動運転に関するレポートを発表した。以下に抜粋する。

「自動運転技術は、クルマと人との関係をより緊密にしていく可能性があると考えています。 ~中略~ 安全性に関して言えば、運転技術は個人差があり、また、同じ個人であっても、年齢や経験によって、上達したりあるいは、下手になったりすることがあるでしょう。日々の健康状態、疲労度合、あるいは気分によっても、運転技術にブレが生じるでしょう。トヨタの自動運転技術は、こうした個人個人の変化や状態をクルマが検出し、安全運転をサポートすることを目指しています」

人とクルマが協力し合って高める安全。スバルもまた同じことを考えていると筆者は思う。

(池田直渡)

ITmedia ビジネスオンライン

 

 

一言コメント
低迷のスバルが考える運転アシスト、皆がその意味を理解するまで時間がかかりそう。


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