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スピード感に欠ける手形決済、政府目標は26年までの廃止「何か月も資金凍結」「アンフェアな慣習」


 約束手形の決済期限を60日とする下請法の運用見直し案が月内にも示される。現金振り込みが定着する欧米に比べると決済にかかる時間は長く、国内取引はスピード感に欠ける。2026年までに約束手形の廃止を掲げる政府の目標に対し、現場への浸透も十分だとはいえない。

■支払いまで4か月

 「何か月も、資金凍結されているようなものだ」

 関東地方にある自動車部品会社の取締役は、約束手形を巡る現状を訴える。この会社では、大口取引先から受け取る手形の決済期日が約4か月に及ぶ。

 中小企業が取引で不利益を受けていないかをみている公正取引委員会は、決済期限の短縮を要請している。最近は1か月程度で入金してくれる企業も増えた。だが、大口の取引先に窮状を伝えると、「借金すればいいのではないか。次の契約が危うくなる」と突き放されたという。

実際に、手形の期日を待つ間の運転資金などとして、数億円の融資を受けている。決済期限が60日に短縮されれば、資金効率が良くなって2億円近い借金を減らすことができ、設備投資や賃上げの余力も生まれる。

 取締役は、「借金をするにも、信用力が高い大企業の方が金利も安いはずだ。アンフェアな慣習ですよ」とこぼす。

■長年の慣習

 約束手形による取引は、惰性で続いている面も大きい。

 政府が20年度にまとめた報告書によると、手形を「やめたい」と答えた企業は、受け取り側で9割、発行側も管理に手間がかかるなどとして、8割弱に上った。発行側に手形取引を続ける理由を聞いたところ、「長年の慣習」が55%で最も多く、「資金繰り」の39%を上回った。

 手形を多用するのは日本の習慣で、国内企業も海外と取引する時は、振り込みを使うのが一般的だ。日本は多くの業種が、米国や英国、ドイツよりも売上代金の回収に1か月から2か月程度長くかかるという。

 金融機関が紙の手形を持ち寄る交換所は22年に廃止された。銀行間のやり取りは電子化されたが、企業間では変わらず、紙の手形が使える状態が続いている。インターネットバンクに比べれば、手形は管理に手間やコストがかかる。

 全国中小企業団体中央会の及川勝・常務理事は、「日本全体で人手不足が深刻化しており、非効率だといえる取引は一刻も早くやめるべきだ」と話す。

■決済条件改める

 発行側の判断で決済条件を改める例も出てきた。

 東証プライム上場企業で、物流や建設事業を手がける山九は22年、協力会社約1万4000社の資金繰りを支援するため、手形を全廃すると公表した。支払いの時間をかけないように、振り込みに統一する。狙いについて、「パートナーの経営環境の改善は、地域雇用や社会に好影響をもたらす」と説明している。

 22年度に政府が実施した調査によれば、手形などの支払期限を24年までに「60日以内に変更予定」だと答えた企業は3割弱にとどまった。政府は、支払いの早期化に取り組む企業向けの低利融資や、中小企業が決済の電子化を進める支援策も用意している。

 企業間の取引に詳しい東京商工リサーチの後藤賢治・情報本部課長は、「支払いの早期化は波及効果が大きく、経済全体のお金の流れが活性化する。ただ、発行側として手形を使う中小企業への目配りも必要だ」と指摘している。

読売新聞

読売新聞より転用


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