「ラグビーW杯」使っちゃだめって変じゃない?
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- 2019年8月23日
ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会の9月20日開幕まで1カ月を切った。急ピッチで準備が進む中、札幌・ススキノでスポーツバーを営む男性店主(46)が首をかしげる。「『W杯歓迎』と掲げちゃダメって、変でない?」。W杯を盛り上げたいのに大会名などの使用に制約が多い。なぜ、せっかくの開催に水を差すのか。
7月下旬、W杯にちなんだ講演会(北海道ラグビー協会、北海道新聞社主催)が、札幌市中央区の道新プラザDO―BOXで開かれた。1987年の第1回大会から取材を続けてきたスポーツライターの藤島大(だい)さん(58)が、エピソードや日本大会の魅力を語った。
講演会のタイトルは当初、「ワールドカップ日本大会に向けて」の予定だったが、「藤島大さん講演会」に変更になった。協会幹部が後援申請で札幌市役所を訪れた際、市のW杯担当者が変更を求めた。「『ラグビーW杯』は避けた方がいい」。藤島さんは6月に著書「序列を超えて。ラグビーワールドカップ全史」(鉄筆文庫)を刊行。講演会名に「W杯」が入ると著書の宣伝と解釈される恐れがある、と判断したという。
なぜ、そこまで神経質になるのか。多額の資金を拠出するスポンサーの権利を保護するため、大会名やロゴを無断で使用する「アンブッシュ・マーケティング(不正便乗商法)」を禁止するルールがあるからだ。大会名やロゴは会場周辺の飲食店にしろ、大会盛り上げのためのイベントにしろ、無断使用できない。
札幌ドーム(札幌市豊平区)では、9月21日にオーストラリア―フィジー戦、22日にイングランド―トンガ戦と注目カードが組まれ、約2万人の海外ファンが札幌に集結するとされる。開催都市として、W杯のPRに力を注ぐ一方、「スポンサーの権利も守らなければならない」。札幌市の担当者の悩みは尽きない。
アンブッシュ・マーケティングを巡っては、「五輪商業化」の転機となった1984年のロサンゼルス五輪以降、国際スポーツ大会で規制が強化された。大会名やロゴを使った宣伝活動をスポンサー企業などに限定し、ブランド価値を高める。その結果、大会主催者や競技団体に企業から多額の資金が集まり、大会運営費や世界規模での競技の普及費に充てることができる―という仕組みだ。
近年、ルールは厳格さを増す。昨年2月の平昌(ピョンチャン)冬季五輪で、日本オリンピック委員会(JOC)は、公式スポンサー以外の企業や学校が、壮行会やパブリックビューイング(PV)などを開く際に公開しないよう求め、議論になった。
W杯を主催するラグビーワールドカップリミテッドは、大会ロゴやマスコット、優勝杯など21件を日本で商標登録している。侵害すると、商標法違反などに問われる恐れがある。道外ではW杯をラベルに使った地酒が、大会組織委の指摘で販売中止に追い込まれた。
では、どう歓迎すればいいのか。実は、組織委内部でも微妙に見解が割れる。
法務部は「W杯を関連づけたり、想起させたりする広告・営業活動は該当する」と説明。一方で「W杯に触れず『ラグビーファン』や『オーストラリア人』と掲げたり、ラグビージャージーを着たりして歓迎することはできる」(三谷秀史(ひでし)事務総長特別補佐)との説明もあり、「大会が盛り上がればスポンサーの利益にもなる」(別の幹部)との声も聞かれる。
前回15年のW杯で開催国イングランドを訪れた札幌山の手高ラグビー部の佐藤幹夫監督(58)は「街中がラグビーのお祭り。誰もがラグビージャージーを着て出迎えてくれた」と言う。
早大や日本代表の監督を務め「日本ラグビーの理論的支柱」とされる故大西鉄之祐(てつのすけ)さんは「ジャスティス(順法)よりフェアネス(公正)」という言葉を残した。早大ラグビー部時代に指導を受けた藤島さんは「ルールよりも、それがきれいか、汚いか、自分で考えてプレーするのがラグビー。世界のファンをもてなそうという札幌市民の『きれい』な気持ちが排除されるわけがない」と願う。
一言コメント
盛り上げるのも難しいね。
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