<米中首脳会談>安全保障の議題乏しく 貿易対立休戦を優先
- 国際
- 2018年12月3日
【ワシントン高本耕太】トランプ米大統領と中国の習近平国家主席による1日の米中首脳会談は、貿易を巡る対立の行方に注目が集まり、懸案である南シナ海問題をはじめとした安全保障の議題がかすむ結果となった。これまで中国に繰り返し迫ってきた法の支配や人権の尊重などについて米国からの発信も乏しく、積極的な広報戦略を展開した中国との違いが際立った。
夕食会を含め2時間半にわたる首脳会談後、米中がそれぞれ発表した会談内容の中に「南シナ海」への言及はなかった。
中国が軍事拠点化と領土拡張を進める南シナ海を巡る対立は、天然資源問題も絡んで、アジア太平洋地域の覇権争いに直結する問題として米中間の最大の懸案となってきた。ペンス米副大統領は11月15日に出席した東アジアサミット(EAS)で中国の李克強首相に対し「南シナ海での軍事拠点化は違法」と直接的な言葉で批判。首脳会談直前の同月26日には米海軍のイージス巡洋艦「チャンセラーズビル」が、中国の実効支配する西沙(英語名パラセル)諸島付近を通過する「航行の自由作戦」を実施するなど、南シナ海問題で譲歩しない姿勢を明確にしてきた。
今回の「南シナ海問題封印」は、貿易対立の一時休戦を優先し、安全保障議題を棚上げしたい米国と、主権問題に切り込まれることを嫌う中国側の思惑が一致した結果とみられる。ただ、これまでの対応とちぐはぐな印象を与えており、今後、南シナ海での中国の動きが活発化したり、貿易交渉が頓挫したりした場合、米国内世論や議会からの反発が高まる可能性がある。
今回の会談では、中国側は、国営メディアが終了直後に内容を速報するとともに、王毅国務委員兼外相が1日、毎日新聞を含む一部外国メディア向けに記者会見を開いた。これに対し、米側はサンダース報道官名による声明の発出のみで、中国側が情報発信を先行させる結果となった。
トランプ氏は当初、米中首脳会談前に記者会見を設定し「会談成果に自信がない」と指摘されていた。だがこの会見さえも当日になってブッシュ(父)元大統領死去を理由にキャンセルした。会談後はカメラの前に立つことなく大統領専用機で帰国の途に。収束しない自身のロシア疑惑に質問が集中することを嫌ったとの見方も出ている。
◇中国側も配慮 南シナ海や台湾問題を際立たせず
【ブエノスアイレス河津啓介、北京・浦松丈二】中国側も、貿易戦争の「一時休戦」を優先し、南シナ海や台湾問題を際立たせないように配慮した。通商交渉が難航すれば、今回棚上げした問題が再燃する恐れがあり、引き続き難しいかじ取りを迫られそうだ。
「中国は台湾問題で原則的立場を、米国は『一つの中国』政策の継続を表明した」。王毅国務委員兼外相は1日の記者会見で、米中首脳が台湾問題を話し合ったことを確認した。しかし王氏は、南シナ海やウイグル族の人権問題など、米側が提起して中国側が反発してきた一連の問題には言及しなかった。協力関係を強調してきた北朝鮮問題でも踏み込んだ内容はなく、記者たちからの質問も受け付けなかった。
先月9日にワシントンで開催された米中閣僚級の外交・安全保障対話では、中国側は南シナ海で米軍が実施している「航行の自由作戦」の中止を要求。新疆ウイグル自治区での人権侵害への米側の懸念にも「人権は完全に尊重されている」と反論していた。
首脳会談に向けた準備の外交・安保対話では双方が率直に主張をぶつけ合い、本番の首脳会談では意見の相違を表面化させない方針だったとみられる。米海軍イージス巡洋艦「チャンセラーズビル」による「航行の自由作戦」に対しても、中国側は対抗措置の発表を、従来の中央レベルから地方レベルに格下げするなど問題を際立たせないよう配慮を示していた。
対米批判を繰り返してきた中国紙・環球時報は今月2日付の社説(電子版)で、問題を棚上げしたリスクには一切触れず、「中米両元首が達成した共通認識は両国社会から歓迎されるに値する」と手放しで評価した。
◇トランプ政権による最近の対中強硬発言
▽中国による米中間選介入の疑いを指摘し「介入も干渉もされるつもりはない」「(習近平国家主席は)もう友達ではないかもしれない」(9月下旬、国連安全保障理事会などでトランプ氏)
▽中国が宣伝工作を通じて中間選挙などに「米国の民主主義に干渉しようとしている。(大統領は)屈しない」(10月4日、ペンス副大統領)
▽「インド太平洋に帝国主義や侵略が入り込む居場所はない」(11月15日、東アジアサミットでペンス氏)
▽「中国の国家指令による攻撃的な産業政策が米国の労働者と製造業者に深刻な被害をもたらしている」(11月28日、ライトハイザー通商代表部代表)
一言コメント
かといって大きな歩み寄りもなさそうだ。
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