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警官に殴られ、蹴られ…「お母さん」と叫ぶ 黒人男性死亡で映像公開


 米南部テネシー州で今月7日、黒人男性のタイリー・ニコルズさん(29)が交通違反の取り締まりの際に警察官5人(事件後に免職)から暴行を受けて死亡する事件があり、捜査当局が27日、暴行時の映像を公開した。数人で頭部や腹部を殴ったり、蹴ったりする様子が映っていた。警察による過剰な実力行使だとして批判が出ており、抗議デモが起きている。

公開された警察官のボディーカメラの映像に映ったタイリー・ニコルズさん=米南部テネシー州メンフィスで2023年1月7日、AP© 毎日新聞 提供

 ニコルズさんは何度も「マーム(お母さん)」と叫び声を上げていた。後ろ手に手錠をかけられたニコルズさんは、上半身を車にもたれかけるように路上に座らされた。ぐったりして、何度も路上で体を反転させるなどしていたが、警察官が手当てをする様子はなかった。ニコルズさんは病院で3日後に死亡した。公園で夕焼けの写真を撮り、現場近くの自宅に戻る途中だったという。

 加害者は黒人だが、遺族代理人のクランプ弁護士は、黒人の命を軽視する「警察文化」が根底にあると指摘。27日の記者会見で「警察官は白人にはこのようなことはしない。なぜ黒人など有色人種の人々ばかりにこのようなことが起きるのか。それは黒人などの命なら軽んじてもいいという文化があるからだ」と述べ、警察内の人種的な偏見が原因だと指摘した。

 5人の刑事責任を問う動きは異例の早さで進んだ。地元警察は20日に全員を解雇。同州の大陪審は26日、5人を殺人や誘拐などの罪で起訴した。米メディアによると、危険運転の証拠は「確認できていない」としている。クランプ氏は「警察官が黒人だろうと白人だろうと、責任が問われなければならない。平等な正義が必要だ」と述べ、迅速な起訴を評価した。

 起訴された元警察官のうち数人は犯罪多発地帯の取り締まりを専門とする捜査部門「スコーピオン」に所属していた。米メディアによると、スコーピオンは有色人種を標的にして軽微な違反で呼び止める手法などが批判されていた。警察当局はスコーピオンの活動を停止し、活動内容を検証するとしているが、別の遺族代理人はスコーピオンの解散を求めた。

 メンフィスや首都ワシントン、ニューヨークなどでは抗議デモが起きている。バイデン氏は27日、記者団に対し「母親に弔意を伝えた。(抗議デモが)暴動になるのを非常に懸念しているが、母親は暴動にならないように呼びかけている」と述べ、平和的なデモを求めた。

 米国では2020年5月に中西部ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性のジョージ・フロイドさん(当時46歳)が白人警察官から暴行を受けて死亡。警察改革を求める声が高まった。民主党のバイデン政権は警察官による不法行為の訴追を容易にする警察改革法の成立を目指し、21年3月に下院で法案が可決されたが、警察力の弱体化を懸念する共和党議員の大半が反対し、上院で廃案となった。

毎日新聞社より転用


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