ミャンマー国技『ラウェイ』元王者・渡慶次幸平、企業の代わりに“社会貢献”「子どもたちの笑顔を増やす」
- スポーツ
- 2022年9月7日
© 中日スポーツ 提供 スポンサーのロゴが入った練習着でミャンマーの国旗を持つ渡慶次幸平
東京五輪・パラリンピックから1年。五輪バブルがはじけたスポーツ界で、スポンサーを増やしている格闘家がいる。ミャンマーの国技「ラウェイ」王者にもなった渡慶次(とけし)幸平(34)=クロスポイント吉祥寺。ミャンマーに小学校を建設、国内では子ども食堂とコラボし、月1回ペースで「駄菓子屋トケシ」を“開店”している。格闘技と社会貢献活動の両輪によるスポンサー獲得術とは―。(占部哲也)
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吉祥寺に月1回、「お金配りおじさん」ならぬ「お菓子配りおじさん」が現れる。優しいサンタクロースとは違う。ひげ面でちょっとこわもての渡慶次。それでも、子どもたちはためらいなく手を伸ばした。山盛りのお菓子は取り放題。スーパーボールや鈴が楽しげな光沢を放つ。「駄菓子屋トケシ」の風景だ。
「自分は企業の代わりに社会貢献を代行する。宣伝広告ではなく社会貢献活動費として支援をお願いする。子どもたちの笑顔を増やす。それが、世の中のためになると思っている」
昨夏、コロナ禍で夏祭りなどの楽しみが奪われた子どもたちのために企画し、子ども食堂とコラボして実現した。駄菓子屋の運営費はファイトマネーから全額拠出。文字通り「子どもの笑顔」のために戦うから「試合に勝とうが、負けようが絶対にやる」。凱旋(がいせん)となった総合格闘技RIZIN・沖縄大会では2年連続で敗れたものの、ミャンマーの技能実習生を招待。腫れた顔のままで、放課後に集まった故郷の子どもたちに、お菓子を配った。
「お菓子配りおじさん」になるまでを短く紹介―。19歳で3万円を握り締め上京するも、ホームレスを経験。プロ格闘家になるも鳴かず飛ばず。30歳直前に世界一過激とも言われる格闘技「ラウェイ」に出合った。王者になり、ミャンマーの村で夢を見られない子どもたちを目撃。ファイトマネーなど500万円を寄付して3校の建設に関わった。
「中学校で話をした時、『なぜ、そんなにするのですか?』と質問された。『困っている人たちがいて自分が助けることができるなら、助けない理由の方がないでしょ』と返した。その子は『世の中に対して自分ができることを探していこうと思う』と答えてくれた。すごいですよね。自分が中学生の時はどう小遣いを増やすか考え、親の財布からくすねて怒られてましたから(笑)。こうやって、少しずつ未来は変わっていくと思う」
渡慶次の活動モデルは、スポンサー料を生活費やトレーニング費に使い、得たファイトマネーを社会貢献活動に充てる。ラウェイ王者という希少さ、ミャンマーでの学校建設で注目され、テレビや映画にも出演。昨夏、建設業組合に招かれ東京と大阪で半生を語った。公演後、組合の会長がこう切り出したという。
◇大阪編
「『今日、すてきな話をしてくれた渡慶次君を応援してください』。スポンサー料は30万円から。北新地(の高級店)で、1日で使う人もいると思います。そのお金で渡慶次君が一生懸命、試合をして、メディアに出て、社会に貢献する活動をします。どっちを選びますか?」
◇東京編
「銀座、六本木で50万、100万円を使ったと自慢している人、この中にいますよね? なんで応援しないのか。そのような会社がこの先、5年、10年必要とされると思いますか?」
“名演説”にぽつり、ぽつりと手が挙がり、10社と契約した。RIZINでは1勝2敗だったこの1年で支援企業が16社増え、計30社近くまで「共感」は広がっている。一方、東京五輪・パラリンピックが終わり、スポーツ界には逆風が吹く。日本オリンピック委員会の国内スポンサー最上位「ゴールドスポンサー」は15社から2社に減。スポーツ用品メーカー大手も支援団体の数を減らした。顔は傷だらけの「お菓子配りおじさん」は曇りのない目で言う。
「社会貢献活動は大谷翔平や井上尚弥、那須川天心のような特別な才能がなくてもできるし、誰でもできる。みんな、切り開くのが得意だからスポーツをやっているはず。『きれい事を形にする』。それがラウェイへの恩返し。『恩返しすると返ってくるよ』ってよく言われますけど、ほんとマジですよ。変な投資より必ず増えて返ってくる(笑)」
国内が混乱したミャンマーで徐々に国技が開催されるようになり、年末には王者決定戦を行う計画もあるという。“狂戦士”渡慶次が最も輝くリングが3年ぶりに戻ってきた。
「来年、大きなことをやりたい。最後に花火を打ち上げる全部無料のお祭り。そのためにもっと活躍して、もっと注目される。もっと応援される存在にならないと」
格闘技と社会貢献。両輪をさらに大きくし、豪快に回す。自身のお小遣いは増えないというが「打ち上げ花火おじさん」になる日も遠くはない―。輪を広げる言動には確かな信念、熱、説得力があった。
○…ラウェイ ミャンマー発祥の立ち技格闘技。1000年以上の歴史を持つと言われ、神聖な面も持ち、礼節を重んじる。一方、ルールは過激。拳はバンテージのみでグローブはなし。頭突き、肘、膝、投げ、脊髄への攻撃も可能。1ラウンド3分で5ラウンド制、判定はなく引き分けとなる。あまりに過激で危険なため、参戦する日本人はごくまれ。
▼渡慶次幸平(とけし・こうへい)1988年6月4日生まれ、沖縄県豊見城村(現豊見城市)出身の34歳。糸満高では野球部に所属。高3の夏から総合格闘技を始める。2007年11月に上京、ホームレスも経験。12年にパンクラスでプロデビューも戦績は5勝5敗。17年6月からラウェイに参戦し、18年12月に75キロ級王者を獲得した。コロナ禍ではプロレス、RIZINにも参戦した。身長170センチ。
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