やりたかった「人事」 首相「検討使」の評価はいかに
- 政治・経済
- 2022年8月12日
自民党政調会長として西日本新聞のインタビューに応じる岸田文雄首相=2019年11月(撮影・宮下雅太郎)
本格政権を狙う岸田文雄首相が「人心一新」のカードを切った。自民党議員を中心に政界を揺さぶる「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)との関係を清算し、重要政策を前に進める意図がうかがえる。政策通やベテランを配置し「経験と実力に富んだ」(首相)布陣で固めたのもそのためだ。ただ党内への配慮は歴然としており、このまま内向きな偏向がさらに色濃くなれば世論に見透かされて砂上の楼閣となりかねない。「岸田カラー」の一刻も早い具現化が求められる。
2019年、首相が安倍晋三元首相の後継レースを争っていたころ。岸田派を担当していた私は、テレビ番組で「何をやりたいか」と問われた岸田氏が「人事」と答えた場面を鮮明に覚えている。
この言動から首相には「明確な国家観がない」とも取れる半面、人事権への強いこだわりが透ける。7月の参院選直後から周囲には「人事は自分で決める」と漏らしていたといい、今回、大方の予想を覆すタイミングで断行したのも、自らの主導権を党内外に示す思惑があったとみられる。
その首相に立ちはだかるのが旧統一教会を巡る問題だ。首相は「自ら点検し、厳正に見直してもらう」と主張し、接点を断つよう自民内に号令を発したが、あやふやな幕引きを図れば、国民の納得は得られまい。
賛否が割れる安倍氏の国葬、物価高対応、防衛費増額、新型コロナウイルス対応の抜本見直し…。足元だけでも丁寧な説明や合意形成が求められる課題は山積し、決断を迫られる場面がいや応なしに待ち受ける。「聞く力」が信条ならば、政策実現には国民の声を聴いて真摯(しんし)に説明を尽くし、共感を得ることが必要だ。
首相は昨秋の総裁選で「成長と分配の好循環による新しい日本型の資本主義を目指す」と打ち上げ、宰相に上り詰めた。国会で検討を連発し、やゆされた「検討使」の評価を一掃し、温めてきた「岸田ビジョン」を実現できるか。人事の先で試される首相の真の手腕を見極めたい。(首相官邸キャップ・河合仁志)
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