香港政府、国家安全条例に意欲 国安法を補完 民主派締め付け徹底
- 国際
- 2021年7月6日
香港政府が中国の習近平指導部の意向を受け、反政府的な活動を取り締まる「国家安全条例」の制定に意欲を示している。2020年6月に中国政府が直接介入によって制定した国家安全維持法(国安法)とは別の、香港独自の条例。国安法を補完し、民主派への締め付けを徹底する狙いがある。
立法会(議会)は親中派一色のため、条例案が提案されれば可決は確実だ。ただ準備に時間を要することなどから、制定は来年以降となる見通し。
「国安法は国家の安全に危害を加える活動を抑え込むのに不十分だ。国安法と香港での法制が相互に補い合わなければならない」。中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会の張勇・法制工作委員会副主任は5日、香港で開かれた国安法1年を記念するシンポジウムでオンライン講演し、こう力を込めた。
張氏が言う「香港での法制」とは、憲法に当たる香港基本法23条が香港政府に制定を義務づける「国家安全条例」を指す。その内容は①国家の分裂②中央政府転覆③国家への反逆④反乱の扇動⑤国家機密の窃取――などを犯罪と規定するものだ。同条例の内容は国安法が部分的に実現しているが、中国側は国安法が③④⑤に対応できないと主張してきた。
国家安全条例の制定は1997年の香港返還以来、中国、香港両政府の宿願であり続けてきた。香港政府は03年、立法会で同条例案の成立を目指したが、50万人規模の反対デモが起きた。親中派議員の一部が慎重姿勢に転じ、政府は条例案の撤回に追い込まれた。
香港政府はその後、民意の反発を恐れ、制定を先延ばしにしてきた。19年に政府への大規模な抗議活動が起きた際に、しびれを切らした習近平指導部が直接介入し、同条例の代わりに国安法を制定。抗議活動を抑え込んだ。
林鄭月娥行政長官は従来、民意の反発を踏まえ、同条例の制定に慎重な姿勢を示してきた。だが6月22日の記者会見では、早期の制定を目指して準備を急ぐ考えを強調した。香港保安当局も、条例案策定の作業に着手したと明らかにした。
ただ林鄭氏は、22年6月末に任期満了を迎える自身の1期目で国家安全条例を成立させることは難しいとの認識も示した。立法会の新たな会期が22年1月に始まるため時間が足りないことなどを理由に挙げている。
次期行政長官選は22年3月にある。行政長官は2期10年まで務めることができ、林鄭氏は出馬が可能だ。だがその可否は、中国政府の意向次第。新任の行政長官が22年7月以降に同条例を制定する可能性もある。【台北・岡村崇】
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