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山本ゆり、“バズる”ではなく“安心できるレシピ”を発信する意味 お母さんの縛りに「少しでも気持ちをラクに」


Twitterで5.4万以上のいいねを集めた一品、冷凍庫でガチガチに眠った豚肩ロースをチャーシューに(画像提供:山本ゆり)© ORICON NEWS 提供 Twitterで5.4万以上のいいねを集めた一品、冷凍庫でガチガチに眠った豚肩ロースをチャーシューに(画像提供:山本ゆり)

 先日『情熱大陸』(TBS系)にも出演し、著書『syunkonカフェごはん』シリーズで人気を博した料理コラムニストの山本ゆりさん。レシピの魅力だけではなく文章の面白さでも支持を集め、身近な材料と道具で作る簡単で美味しいレシピを紹介するブログやエッセイが度々話題に。TwitterとInstagramにもそれぞれ約100万人のフォロワーを抱えている。現在は3人の子どもを育てながら仕事をしている山本さんに、レシピを考案する際に大事にしていることや母親という立場や役割について思うことなど話を聞いた。

■簡便・時短はもちろん、今はより“美味しさ”を求める人が増えている

――エッセイ本『おしゃべりな人見知り』(扶桑社)が重版となり、「読み応え抜群」「安定の面白さ」といった感想も寄せられていて、“文章が面白い”ことに注目が集まっているように思います。そういった本の反響については、どのように感じていますか?

【山本ゆり】ありがとうございます。これまでにエッセイ本は2冊出していたのですが、前の本はどちらかというとブログのまとめ本という要素が強くて。今回は書き下ろしが多かったり、である調に変えていたりと、ブログとはまた違う形にしたので、反応がどうなるのかめちゃくちゃ不安でした。でも、すごく嬉しい感想を頂けて、毎日感激しています。Amazonや楽天のレビューを書いて下さったり(このレビューを書いている人が本を書いたらいいのに、と思うぐらい秀逸な文章だったり)、色々な方がTwitterやInstagramで紹介してくださったりしたおかげで重版までして頂けたので、本当に感謝しています。

―― 山本さんのレシピは、「(材料的にも工程的にも)簡単にできる」と「見ため、美味しさ」の両方を追求されているように感じますが、レシピを考案する際にもっとも大切にしていることを教えてください。

【山本ゆり】レシピを考える上でもっとも大事にしているのは、やっぱり「味」です。身近な材料、調味料でいかに美味しく作れるか、簡単というのももちろん大事にしていますが、いくら簡単にできてもそこそこの味だったり、「レンジだからまあこの程度でもええか…」ぐらいだったりしたら、おそらく2回目は作らない。特に、誰かに食べてもらう場合は、多少手間や時間をかけても本当に美味しいものを作りたい人のほうが多いと思うんです。

――確かに、頑張って作るなら「美味しかった」と言われたいです(笑)。

【山本ゆり】かといって、あまりにも手間がかかったり難しかったり、材料が揃わなかったりしたら作る気が起きないので、味の次に「どこにでもある材料」、その次に「簡単にできる」というところを重要視して、「作る気になる」レシピを考えるようにしています。

■辛辣なコメントこそ「我先に返信!」、SNSリテラシーが保たれるワケ

――Twitterのリプ欄にはレシピについての感想や質問が多く、それにフランクに対応していらっしゃるのが印象的でした。投稿を見てくださる方たちについて「優しい」とも言及されていますが、なぜそのようなリテラシーが保たれていると感じますか?

【山本ゆり】本当にそれは有り難いですし、「ネット社会においてこんなに優しいコメントばかりなんてどういうことやねん…」と毎回驚いています。優しい方や賢い方が多いというか、ネットリテラシーが完璧で。私のブログの内容がすべて支持されるわけではないし、考えが違う方も当然たくさんいらっしゃると思いますが、それでもキツイ言い方で書き込んだり、文句を言ってきたりすることはなくて。意見が違う場合はスルーしてくださったり、あえて書き込む場合も「私はこう思うけど、どっちが間違いというわけではない」みたいな感じで書いてくださったりするので荒れることもないんです。

――それって、本当にすごいことだと思います。

【山本ゆり】理由は、そもそも芸能人でもないし、私のブログなんぞに嫌なコメントを書き込むほどみんな暇じゃないからだと思いますが(笑)、一番はやっぱりネットに限らず場の雰囲気が大きいんじゃないでしょうか。私は料理をゆるくダラダラと紹介しているだけですし、コメント欄全体の雰囲気もすごく優しく、またその状態を保つように意識してくださっていると感じます。

――ひどいコメントなどはまったくないのですか?

【山本ゆり】ごく稀に、辛辣な意見や傷つくようなコメントを頂くこともありますが、そういうときは我先に返信します!(笑)じゃないと、優しい周りの方が言い返してくださって、そこから燃えていったりするので…。でも、本当に傷つけるだけのような、承認をしないコメントって、年間通しても2~3件あるかないかで。『情熱大陸』に出演したあとも1件もなかったですね。ありがたいです。

■バズるレシピとは区別しなければならない「安心できるレシピ」がブレない軸に

――節約を意識したもの、手軽にできるもの、じっくりと料理に時間をかけるコンセプトのものなど、さまざまな趣旨の料理本がありますが、山本さんは今の時代に“料理をする人”が求めているのはどういったことだと考えますか?

【山本ゆり】今の時代はより多様化しているので、節約も、作りおきも時短も、本格的な料理も、それぞれ求めている方はいると思います!なので、「今はこれ!」と一言では言えないですが、料理にかけられる時間はきっと昔より少ない方が多いので、やはりできるだけ手間がかからないこと。そして、美味しいものがどこでも安く食べられる時代なので、より美味しく作れて、できれば身体にも良いといったことが求められているのかなあと。

――今後はどう変化していくと思いますか?

【山本ゆり】これから先はどんどんとやりたくないことはやらなくていいとか、自分の気分が良くなることを選択していいという時代になっていく気がするので、節約や時短だけではなくて、それを作ったり食べたりすることで自分のテンションが上がるというのが重要になる気がします。世の中にレシピは溢れているし、大抵の料理は既視感があるので、よりおいしくなる工夫とか、より早く作れる技とか、美味しそうに見える盛り付けみたいな、何か気分が良くなる一工夫があるレシピですね。

それと同時に、やっぱり今も昔も変わらず求められているものは、「間違いなく美味しい、安心できるレシピ」だと思っていて。テレビや企画モノでは、あっと驚くレシピやレンジだけで作るレシピが重宝されたりしますが、現実では結局のところ、フライパンなど慣れた調理法で間違いなく美味しく作れるレシピを重宝するものですし、定番のものが喜ばれることが多いと思うんです。そこはいわゆる「バズる」「話題性のある」レシピとは別で、ブレてはいけない軸だと思います。

■「忙しくても疲れていても作れる」文言に違和感、「気持ちを楽にして」と伝えたい

――家庭において料理をするのは“お母さん”というイメージがまだまだ強いと思います。山本さんは料理に携わる仕事をしていらっしゃいますが、生活している中でそのような“決めつけ”や“役割として縛られる”ことを感じる場面はありますか?

【山本ゆり】決めつけや縛りを感じること、多くはないですが、色々な場面であります。我が家の場合、夫が食事に文句を言うことは絶対ないし、「カップ麺でもなんでもOK、なければないで全然いいよ~」というタイプなので、食事の面はかなり楽です。でも、私が作って片付ける前提ではあるし、共働きなのに私の職場が家というだけで、私が基本的に家事全般を担っているのは「なんでやねん」と思います(笑)。そこに関しては、自分が開き直ってスキルを上げたり手を抜いたり、個人的に対処するほうが楽だと思ってしまうぐらい、長年培ってきた意識や価値観を変えるのって難しいです。

――そのような思いは、ほかの女性たちも抱いていると感じますか?

【山本ゆり】ブログのコメントを読むと、毎日何品も並べないといけないとか、足りないと文句を言われるといったご家庭もあって、それはもう完全に「作ってもらえるのが当たり前だ」という認識があるからだろうなと思います。(ほな自分で作りなはれ!って思うし、私はもし文句を言われたら「ほな自分で作りなはれ!」って口に出すので(笑)、夫は面倒なことは避けて黙って食べています(笑))

――そのような方たちからの声に触れたとき、山本さんはどんなことを感じますか?

【山本ゆり】すべてが平等はなかなか難しいし、いわゆる亭主関白でもかかあ天下でも、それぞれの家庭がうまくいっていたら全然いいと思いますが、どっちかが常に我慢をしていたらしんどいですよね。あと、「お母さん」としての縛り。離乳食、お弁当、毎日のご飯…楽しんでやっている分には全然いいですが、良い母親像(そんなん無いのに)に縛られてしんどい思いをされている方は多いように感じます。「今日は体調が悪かったけど、ゆりさんのレシピで助けられました」とか「子どもを抱えながら3品作れました。ありがとうございます!!涙」などといったコメントを読むと、「お役に立てて良かった」と思う反面、「いやいや、そんなときはなんも作らんでいいねんで!!」と肩をゆさゆさして休んでもらいたくなる(笑)。

――「お母さん」としての縛り、あるように思います。休みたいときは誰にでもあるはずなのに、なぜか頑張らなくてはいけない雰囲気が。

【山本ゆり】だからこそ、「忙しくても疲れていても作れる!」みたいなレシピにはジレンマも感じています。そんなときでも母親は食事を作らなあかんってことかいと。とはいえ、いくら「晩御飯は1品で十分です」とか「全部お惣菜でいい」と言っても、長年培った価値観はなかなか変えられないし、自分が良くても家族が良くないという方(逆に家族が良くても自分が嫌だという方も)もいらっしゃるし、どうしても作らないといけないときもある。なので、そもそもは作らんでいいというのを伝えつつも、そういうときに気持ちが楽になるような簡単料理を紹介できたらと思います。

――“母”の役割を担うなかで、他に大変さやジレンマを感じる部分はありますか?

【山本ゆり】私が特に感じるのは、仕事と育児のことです。父親は子どもを持っても仕事のペースは変わらない場合が多いけど、母親は減らさざるを得ない場合がほとんど。減らさないと自分勝手な気がしてしまったり、減らせない場合は夜中の作業になったり、全部抱えて潰れそうになったり。でも、こんな愚痴も「自分が選んだ道」「じゃあ辞めたらいい」みたいになりそうで公には言えない。男の人ならそんなことはおそらく言われないので、そういう部分も平等じゃないなと感じます…みたいな話を言うことすら、子どもが可哀想な気がして罪悪感を持ったりもしますし(笑)。もちろん同様に、子どもが産まれても時短にできないとか休めないとか、男としての役割に縛られている男性の方も多いので、そこはどっちがどうとかではないんですけどね。

――最後に、今後どのような活動をされていきたいか、発信するレシピを通してどのようなことを伝えていきたいか、展望をお聞かせください。

【山本ゆり】ブログでも本でも、自分のレシピで誰かの役に立ちたいとか、自炊を広めたいといった立派な考えはなく、自分が美味しく作れたもんを「なあなあ、これほんま簡単で美味しいから作ってみて…」と友達に言うみたいな感覚で書いていて。だから、何を伝えたいとかは意識せず、これからも変わらず気楽に思いついた美味しいもんを発信していけたらいいなあと思うし、それでどこかの誰かに喜んで頂けたら、本当に幸せです。

 

ORICON NEWSより転用

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