「入社5日目から音信不通」26歳中途社員への対応は?
- 企業・経済
- 2019年7月15日
ある経営者は、期待して採用した中途社員が入社5日目から音信不通になり、悩んでいます。特定社会保険労務士の井寄奈美さんが事例をもとに社員への対応法を解説します。【毎日新聞経済プレミア】
◇入社5日で音信不通 社員への対応は
A輔さん(52)は、従業員数約30人の機械部品製造会社の経営者です。中途採用したB太さん(26)が、入社5日目から連絡がつかなくなり、対応に困っています。
◇工場未経験の若手を中途採用
会社は、欠員補充のため工場作業員を中途採用することにしました。これまでは製造業の現場経験者を採用していましたが、今回は応募者が少なく、最適な経験者がいませんでした。現場では重い荷物を扱うため、A輔さんは若手を採用したいと思っていました。そんな時に面接に来たのがB太さんでした。
B太さんは工場作業は未経験で、高校卒業後は倉庫作業員を経て職を転々としていました。A輔さんは「長く続くかな?」と少し心配しましたが、B太さんから「結婚を考えていて、長く働きたい」という言葉を聞き、採用しました。
A輔さんは、出勤初日のB太さんを朝礼で他の社員に紹介すると、B太さんに早速現場に入ってもらいました。指導係の社員の横で作業を見て、その後、簡単な作業からやってもらうようにしました。入社時期は工場の閑散期で、ゆっくりと指導を受けられます。入社から3日間は、残業もなく定時の終業時刻で作業を終えられました。
◇急に音信不通に
ところが4日目に、B太さんから「体調を崩したので休ませてほしい」と連絡がありました。前日は体調が悪い様子には見えませんでしたが、A輔さんは慣れない仕事で疲れが出たのかもしれないと考え「ゆっくり休んで明日は出勤してください」と伝えました。
しかしその翌朝、始業時刻になってもB太さんの姿が見えません。携帯電話に連絡してもつながりません。A輔さんは、体調が思ったより悪く寝こんでいるだろうと思い、連絡を待ちましたが、夕方になっても連絡はありませんでした。終業後に再度連絡しましたが、応答はありません。留守番電話に「折り返し会社に連絡がほしい」とメッセージを残しましたが、その日は電話がなく、週末を迎えました。
翌週の月曜日もB太さんは出社しませんでした。A輔さんは週末は連絡を控えていましたが、再度電話してもやはり応答はありません。事件や事故に巻き込まれているのではないかと心配になり、指導係の社員と一緒にB太さんの自宅に行きましたが、ノックをしても応答がなく、人の気配もありませんでした。A輔さんはあきらめて会社に戻ったものの、今後の対応に困っています。
◇まずは安否確認
社員が突然出勤しなくなった時の対応を考えます。まず確認すべきことは、社員が無事かどうかです。入社時にその社員の実家など立ち寄りそうな連絡先を聞いていれば連絡し、安否確認をします。他の連絡先がわからない場合はメールや書面で出勤要請します。
そして、その社員が自分の意思で出勤しないのか、やむを得ない事情により出勤できないのかを確かめます。会社側は社員と連絡が取れなくなると「辞めるつもりに違いない」と考えがちですが、その社員の意思を確認せずに断定することは避けましょう。
会社と社員は労働契約を結んでいるからです。契約を終了するためには、会社側か社員側どちらかから契約終了の意思表示をする必要があります。労働契約がある限り、社員側は労務の提供の義務があり、会社はその履行を命じられます。何らかの事情で労務の提供ができない場合は、その理由を会社に報告するよう社員側に求めることができます。
その上でもなお連絡が取れない場合、会社側から労働契約の解除を申し出ることができます。ただし、会社側は早く決着をつけたいと思うかもしれませんが、最低でも2週間程度は社員の反応を待ちましょう。
◇出勤日に応じた賃金の支払いを
労働契約の解除の申し出は「解雇」の扱いとなります。会社側には労働基準法20条に定められる30日以上前の解雇予告か、解雇予告手当として30日以上分の平均賃金を支払う義務があります。同条の他にも、労基法と労働契約法の解雇に関する規定が適用されます。ただし、社員が事件や事故に巻き込まれている可能性もあるので慎重に行ってください。
事例のA輔さんのケースでは、労基法21条の規定から、B太さんが入社14日以内であるため解雇予告は不要ですが、連絡がつかないまま入社14日を超えることも考えられます。その場合、労働基準監督署から解雇予告の除外認定を受けた上で解雇通知を出す方法も考えられます。
また、会社の就業規則に「社員が行方不明となり、○日以上音信不通となり連絡が取れない場合は退職とする」という規定があれば、定めた日数が経過した時点でその社員が退職したものと扱うことができます。
会社側がB太さんと連絡を取れずに労働契約の解除となった場合も、出勤日の労務提供に対する賃金の支払い義務があります。B太さんは3日分です。入社時に振込口座を聞いていれば、就業規則に定める給与の締め日と支給日に合わせて支払います。
一言コメント
戦力になるならない以前の問題だ。
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