安くてウマい「ミニスーパー」都心でじわり拡大
スーパーマーケット各社が、大阪市中心部でコンビニエンスストア程度の広さの「ミニスーパー」の出店を本格化させている。市中心部は人口やオフィスの都心回帰が進み、魅力的な市場になっているからだ。ミニスーパーは用地と人員が小規模で済み、機動的な出店が可能というメリットがある。総合スーパー業態の大型店の苦境が続くなか、各社は都心部で活路を開こうともがく。(大島直之)
■総菜充実勝算あり
「揚げたての唐揚げです」。店員の元気な声が飛ぶ。店内を入ると正面には多くの種類の弁当が並び、その奥には揚げ物や魚、野菜の煮付け、すしなどの総菜が並ぶ。ここは大阪メトロ本町駅近く、オフィスビルやマンションが立ち並ぶ大阪市西区西本町の一角。ライフコーポレーションが4月中旬にミニスーパー形態として初めて出店した「ミニエル西本町店」だ。
売り場面積はコンビニと同規模の約250平方メートル。同社の都市圏の平均売り場面積(約1千平方メートル)の4分の1程度だ。品ぞろえが限定される分、店内調理が中心の総菜を「売り」にした。「総菜にノウハウがあるスーパーならではの強みを生かし、コンビニと差別化を図る」
ライフによると、周辺は20~40代の共働き世帯や単身者らが約8割を占めており、小分けの総菜も充実させた。近くに住む40代女性は「巻きずしなどでも少量のパックがあり便利。日中はミニエル、深夜はコンビニと使い分ける」と話す。
イオングループの光洋(大阪市)も3月、売り場面積約430平方メートルの「KOHYO肥後橋店」(同市西区)を出店。カップに好きな野菜を取ってサラダを楽しめるなど、総菜を充実させている。
このほかイオンリテール近畿カンパニーは昨年10月、関西での小型店1号店として、大阪メトロ谷町四丁目駅近くのビジネス街に「イオンエクスプレス大阪常盤町店」(大阪市中央区)をオープン。外観はコンビニ風の店舗で、岡本博之店長は「コンビニとスーパーの中間的な位置づけととらえている」。
他のミニスーパーと同様総菜が中心だが、食品以外では、当初の予想に反し12ロール入りの大きなロットのトイレットペーパーがよく売れ、日用品の品ぞろえも増やした。
■人口集中成長市場
各社が出店を積極化させる背景には、都心部の人口増がある。大阪市の人口(平成30年)は約272万人と10年間で約7万人増加。国勢調査(27年)によると、なかでも西区や北区、中央区などでは、22年比で10%台の増加率で勢いが目立つ。
また、市中心部のオフィスビルの4月の平均空室率(三鬼商事調べ)は2・49%と好不況の水準とされる3%を下回るなど、企業の都心回帰も続く。市の分析では今後約30年、中心部では人口が増える見通しで有望市場の位置付けは変わらない。
また、流通業界をめぐる環境変化もある。
ユニクロなどに代表される製造小売り、コンビニやインターネット通販など他業態との競争激化で、販売額は頭打ち気味のスーパー業界。中でも、かつての稼ぎ頭だった食料品、日用品から衣料品までを扱う総合スーパー(GMS)業態の低迷が著しい。
イオンはGMSの売り上げが想定を下回ったことが響き、31年2月期連結決算は減益。エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの同年3月期連結決算では、傘下のスーパー「イズミヤ」(大阪市)が営業赤字になった。GMSの客数減少で、既存店売り上げが減ったためだ。食品は堅調だが、日用品や衣料品の落ち込みが目立った。
H2Oは14日、イズミヤが展開するGMSの日用品販売事業を分離し、ドラッグストア大手、ココカラファインと設立する新会社に移管すると発表した。実質的にGMS事業を解体し、食品スーパーに注力する。
■節約志向追い風に
大阪に先行し、首都圏ではミニ店舗の立地が活発化している。イオングループは「まいばすけっと」や「アコレ」などのブランドで、売り場面積150~200平方メートル規模の小型スーパーを展開。まいばすけっとは17年のスタートから約760店に達した。
食品スーパーの得意分野である総菜や弁当は利益率が高いとされ、小型店でも効率的な出店で安定した収益が見込める。ライフの森下留寿常務は「1号店でのノウハウを生かし、今後の展開につなげたい」と東京都心も含めた出店に意欲をみせる。
りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「都心部の人口増は百貨店やコンビニにも恩恵があるが、百貨店の立地はターミナル駅周辺に限られ、コンビニは総菜など『中食』の品ぞろえでスーパーに引けを取る。スーパーは十分に勝算があるとみて、都心部での出店を増やすのでは」とみる。
流通アナリストの渡辺広明さんによると、首都圏ではコンビニ同士の競合よりも、ミニスーパーの出店でコンビニの売り上げが落ちる現象もあるという。「ミニスーパーは消費者の節約志向で店舗が拡大した。高齢者は自宅から700メートル以内で買い物を済ませるといわれ、今後もニーズは高まる」と話す。
イオンの広報担当者は「既存店の近隣でもまだ出店余地はある」と強気だ。
ただ、都心部の土地は、オフィス需要に加え訪日外国人の増加を受けたホテルの建設ラッシュもあり、争奪戦が激しい。また、ミニスーパーの従業員は通常店舗の半分程度だが、人手不足のなか今後店舗が増えれば、人手の確保も課題になる。限られたパイをめぐる争いは激しさを増す。
全国スーパーマーケット協会(スーパーマーケット統計調査事務局)によると、全国の小型スーパーマーケットの店舗数は平成31年4月時点で4975店。5年前から約19%増えた。大型店は1838店(3・1%減)、中型店は1万5392店(5・7%増)で、食品中心の小型店舗の出店数が増えている。
スーパーによる食品を中心とした都心部への出店攻勢は、小型店に限らず活発化している。エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリング傘下の「阪急オアシス」(大阪府豊中市)は15日、「阪急オアシス福島ふくまる通り57店」(大阪市福島区)をオープン。約160席のイートインスペースを設け、店内の食材を調理して楽しめるレストランを併設した。3月に開店した「新町店」(同市西区)は初の試みとして飲酒も楽しめるスペースを設置。特に夕方以降は、近隣住民や周辺のビジネス客でにぎわうという。
一言コメント
地方でも普及してもらいたい。
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