<大橋衝突1週間>島内断水復旧めど立たず 長期化必至
- 事件・事故
- 2018年10月30日
山口県の離島、周防大島町と本土を結ぶ大島大橋(1020メートル)に22日未明に貨物船が衝突した事故から29日で1週間。送水管破断による断水は町内のほぼ全域で現在も続き、復旧のめどはたっていない。通行が制限されている橋の応急復旧も12月上旬までかかる見込みで、住民生活への影響は長期化が必至だ。【松本昌樹、祝部幹雄】
水道用水を供給する柳井地域広域水道企業団は29日、橋の歩道上に送水管の敷設を始めた。11月6日の送水開始を目指すが、敷設するのは事故前の直径45センチ管より細い7.5センチ管で、町に送れるのは1日の必要量約5800トンの1割に満たない約500トンにとどまる。
しかも、現在フェリーで本土側から運んでいる給水車に島での給水拠点を増やすための暫定措置で、家庭や事業所には直接供給できない。家庭への供給再開には30センチ管の敷設が必要というが、施工方法などの検討に時間を要するため着工時期は決まっていない。
山口県によると、橋には底部の鋼材など少なくとも16カ所で大きな損傷が見つかった。県は24日から総重量2トン以下に限定し片側交互通行を再開し、29日からは夜間に8トン以下の車両も1台ずつ通すことにした。ただ大型トラックやタンクローリーは通行できない。それほどの強風でない風速5メートル以上でも全面通行止めになるため、風が強まる冬場を前に住民の不安は大きい。
県は、橋の補強での応急復旧を目指すが、橋の高さは海面から約30メートルあり、足場の設置だけで半月かかる。破損箇所も多いため、応急復旧工事には最大で1カ月半かかるとしている。
橋の構造などに詳しい山口大大学院創成科学研究科の麻生稔彦(としひこ)教授(橋りょう工学)は「橋底部の部材の点検や補強も必要だろうからやむを得ない」と話す。
◇観光の島 生活・経済に打撃
瀬戸内海で3番目に大きな島の周防大島町は、山口県産の約8割を生産するミカン栽培などの農業と漁業の島だ。人口約1万6000人、高齢化率約53%の町は「観光の島」を掲げて生き残りを懸けるが、本土と島を結ぶ唯一の陸路である大島大橋の通行が制限され、物流や観光面でも打撃を受けている。
「1年かけて育てた。食べてもらえないのが可哀そうだ」。事故後最初の日曜日となった28日。橋の近くにある観光農園で、農園主の男性(54)が見事に実ったミカンを見つめながら漏らした。10月下旬から11月が観光客の最盛期だが、大型バスが通行できなくなったため、団体客のキャンセルが相次いだ。
JA山口大島指導販売部の杉原寿信部長(49)によると、農家は本来ならばこの時期、出荷に追われているが、10トントラックが橋を通れず停滞。25日からフェリーでトラックの輸送を始めたが、陸送に比べて丸1日遅れになる。今後は年末年始の需要期に入る。杉原さんは「10トン車も通すように工夫できないのか」と訴える。
島中部の安下庄(あげのしょう)地区で親の代から60年以上続く大田吉良さん(77)夫婦のラーメン店「たちばなや」は、島のいりこをだしに使い、週末は広島などからも常連客が訪れ、行列ができる人気店だ。だが事故後、客足は7割減ったという。
夫婦は井戸水で食器を洗い、給水所から20リットル入りのポリタンクに入れて運んだ水で調理する。妻の加代子さん(69)は「水を運ぶのがつらい。断水が解消されるまで、店を休むことも考えないといけないかもしれない」と思い悩む。
一言コメント
思ったより深刻そうだ。
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