【独占】コストコ、日本で2019年のEC開始を準備–テリオ社長「アマゾンは巨大なモンスター」
- 企業・経済
- 2018年6月14日
巨大な売り場であらゆる食料品や日用品を会員だけに販売するコストコ(Costco Wholesale Corp)。
1976年にカリフォルニア州サンディエゴにある飛行機・格納庫を改造して作られた、「プライスクラブ」という名の倉庫店は、今では世界最大級の小売チェーンに姿を変え、日本でも26の倉庫店を運営する。
個人会員(「Goldstar Member」と呼ばれている)は4400円、法人会員(Business Member)は3850円の年会費を課す会員制のコストコは今後、日本国内で店舗数を50まで増やしていくという。eコマースの巨人、アマゾン(Amazon.com)がリテール市場で勢力を強める中で、1999年に日本に上陸したコストコはその拡大のペースをどう維持していくのか?
40年間、リテールビジネス一筋にキャリアを積み上げ、コストコジャパンの拡大を牽引してきた日本法人社長、ケン・テリオ氏に話を聞いた。
–日本で50店舗は現実的な目標ですか?
2030年の目標として実現可能なターゲットだと思っています。日本の人口減少の問題を考慮しても、今後12年で、我々は50に限りなく近づくことができると思います。例えば、人口3600万人ほどのカナダには100のコストコがあります。国土の広さや人口密度などの違いはありますが、たとえ2050年以降に人口が1億人を下回ると言われる日本において、50倉庫店は現実的な数字だと考えています。
–日本における顧客ターゲットは?
市場調査を行った時、我々はいくつかのキーワードを踏まえて見ていきました。平均収入、住宅所有、自動車保有。ターゲットの中央に位置する顧客グループは、平均もしくは平均以上の所得者層だと考えています。日本で事業を始めた頃、顧客の平均年齢は30代でしたが、今では40代なかばくらいです。
–会員制リテールビジネスを続けるコストコですが、日本市場で受け入れられてきた理由は何でしょう?
コストコはすべての倉庫店で、市場で販売されている価格よりも平均で30%~35%を割り引いて商品を販売しています。たくさん買い物をしようと、週末にコストコにやってくると、たちまち多くの商品がカートの中に入ります。仮に一度に2万円の買い物をすれば、年会費の元はすでに取れたことになります。
品質と競争力のある価格。これがあらゆる市場で共通するコストコの強さだと考えています。口コミでコストコの強さが多くの市場で広がってきたことは事実です。私が初めて日本にやってきた時、「口コミだけでうまくいくわけがない」と言われました。
日本人は品質と魅力ある価格(価値)を重要視しますね。例えば、コストコで人気の牛肉「*プライム(USDA PRIME)」と「*チョイス(USDA CHOICE)」があります。プライムをコストコの価格で購入して、一度堪能してしまえば、通常のビーフに戻ることはなかなか難しいでしょう。
“プライム・ビーフとは:アメリカ農務省(USDA)が行うアメリカン・ビーフの8等級分けで、最高グレードに位置するビーフのこと。プライムを最高位に、「コマーシャル」「チョイス」「ユーティリティ」「セレクト」「カッター」「スタンダード」「キャナー」と続く。”
–コストコ会員(メンバーシップ)の更新率は現在、どのくらいですか?
アメリカやカナダでは、2種類のビジネスを展開しています。一つが日本でおなじみの一般会員向けのゴールドスターメンバーと法人向けのビジネスメンバー。もう一つはエグゼクティブメンバー(Executive Member)と呼ばれるもので、買い物をすると2%のキャッシュバック(1000ドルが上限)がついてきます。また、エグゼクティブメンバーは、コストコがてがける旅行サービスや自動車保険などを購入することができ、メンバーシップの更新率は90%代と非常に高いです。
日本や台湾、韓国、オーストラリア、スペイン、フランスでは、エグゼクティブ・メンバーシップはありませんが、今後は検討していきたいと考えています。
日本においての会員更新率は年々、高くなってきています。日本で倉庫店を開設した当初は、コストコを知る人が少なくとても低かったのを覚えています。現在では、70%半ばから80%半ばといったところです。徐々に90%代に近づけるようにしていきたいと思います。
–会員を維持・拡大するために倉庫店の品揃えではどんな工夫をされていますか?
我々のビジネスは倉庫から生まれました。現在、コストコでは*3400~3600SKUを置いています。
“SKUとは:Stock Keeping Unit(ストック・キーピング・ユニット)の略で、発注や在庫管理などを行うときに用いられる最小の管理単位のこと。一つの商品でも、パッケージなどの違いで区別し、アイテムよりも小さな単位に分類。一つの商品にサイズが4種類、色が4種類あると「16SKU」と数えることになります。”
一つのカテゴリーで最高の商品をセレクトしながら、アイテムはその時々で変化していきます。当然、それぞれの商品を競争力のある価格で提供する。時には、売れないものもあります。そして新しい商品は次々と倉庫店に並びます。それぞれの担当部署で、それぞれのアイテムを徹底的に管理しています。
日本においても、ほぼ同じ3400~3600SKUを倉庫店で管理しています。新商品のすべてを私が承認するプロセスを設けています。
–アメリカではしばしば、リテール市場は厳しい環境下にあると報じられていますが、今後どのように変化をしていくのでしょうか?
確かに、小売市場はその形を修正している状況にあると思います。シアーズ(Sears)がまた新たに数十店舗を閉鎖すると発表しました。メーシーズ(Macy’s)やKマート(Kmart)も同じく店舗閉鎖を余儀なくされました。小売市場の変化は今後もずっと続くだろうと思います。
日本のエレクトロニクス業界が大きく変わったように、多くの市場で変化が起きることは不思議ではありません。その変化はソニーやパナソニックを大きく変えて、また力強い姿になってきました。
–一つの大きな変化として、eコマースがあげられます。日本のeコマース市場は拡大を続けています。コストコの日本におけるEC戦略とは?
eコマースはもちろん我々の一部になるでしょう。現在、日本とオーストラリア、スペイン、フランスでは、eコマースを展開していません。しかし、日本では準備を進めています。
ちょうど、社内向けに発表したばかりですが、日本においては来年(2019年)のしかるべきタイミングで始められるようにしていきたいと考えています。
そのために、現在、兵庫県にある物流センターの拡大工事を進めています。千葉県では新しい物流センターを建設するための大きなプロジェクトが進んでいます。
–コストコにとって、テリオ社長にとってアマゾンとはどんな存在ですか?
アマゾンは巨大なモンスターです。彼らは優れた企業であるし、素晴らしいビジネスをしていると思います。もちろん、アマゾンが売っている商品は、しっかりとチェックしています。
しかし、我々は今後も質の高い商品・サービスを安く提供し続けていくことができると確信しています。コストコは、「*ブリック・アンド・モルタル(Brick and Mortar)」で始まった会社です。
“ブリック・アンド・モルタルとは:直訳すると「レンガと漆喰」となるが、アメリカでは実店舗を持つ企業の呼称として使われる。”
そして、我々はeコマースへと手を広げていく。アマゾンは昨年(2017年)、スーパーマーケット・チェーンのホールフーズ(Whole Foods)を買収しました。彼らはeコマースと実店舗とのバランスが必要だと判断したのでしょう。そして、アマゾンにはプライム会員があり、コストコにはエグゼクティブ会員があります。
私にとって、コストコの売り場はワクワクする空間です。広い倉庫店の中を歩いて、商品を手に取って、眺めて、歩き回るのです。私にとっては、宝探しをしているような感覚です。
(聞き手・構成:佐藤茂、写真:今村拓馬)
ケン・テリオ:カナダ中西部・サスカチュワン州生まれ。1975年にカナダの小売業界で働き始める。20年後にコストコカナダに入社。1998年、コストコジャパンに移り、1号店を福岡県で開設する。2009年には日本支社のカントリーマネージャとして、国内における店舗数拡大を牽引する。2017年、26番目の倉庫店を静岡県・浜松にオープンさせた。現在、同氏はコストコジャパン社長を務める。
コストコ:世界11カ国と地域に約740の倉庫店を展開。年間売上高は約1260億ドル(約13兆8500億円)、従業員24万人を超えるグローバル企業。日本では9000人以上の従業員が、26の倉庫店を運営する。コストコの会員カード保有者はグローバルで9300万人(家族カード含む)、日本国内のカードホルダーは600万人を超える。
佐藤 茂 [Business Insider Japan]
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