2010年に出店した「無印良品イオンモール堺北花田」(大阪府堺市)が移転増床され、3月20日にリニューアルオープン、約1300坪の「無印良品」の世界最大店舗が登場した。
この店舗では興味深い新たな取り組みがいくつも展開されており、今後の無印良品の方向性がはっきり提示されている。次代を見据えたターニングポイントとなる店舗だ。
中でも注目されるのが食品売場。オリジナルの調味料などの加工食品や菓子などを取り扱う従来の店舗とは大きく異なり、野菜、肉、魚の生鮮品や惣菜から日配品、加工食品、酒まで取り扱い、ベーカリーも導入されている。
スーパーマーケットが丸ごと入った!
いわば丸ごとスーパーマーケット(SM)が収まる形で展開されており、他社のメーカー品も投入されており、様相が一変した。
この予兆は昨年7月の「無印良品有楽町」(東京都千代田区)で、50坪の売場で野菜や果物、加工食品の販売を開始したときにさかのぼるが、このときは栽培方法にこだわる生産者から農産物を直接仕入れ、以前から取り組んでいる全国各地の「旬の食」「地域の調味料」「地域のモノ」を紹介する「諸国良品」をコーナー化するなど、限定的な展開だった。
今回はそれを大きく凌駕する食品事業への本格的な参入となる。オリジナルの企画から製造、物流、販売までのSPA(製造小売り)のビジネスモデルからも離れて、協同事業者とも組んで商品を調達し売場を運営している。
SMゾーンは約360坪、小型のSMと同程度の規模で、入り口に一番近いところに青果、壁面に沿って鮮魚、精肉、惣菜の売場が展開され、中央にその他の商品が配置されている。
野菜は地元・堺や泉佐野、貝塚などの近郊、さらに大阪、京都など周辺にも広げて生産者と連携。朝採れ野菜をはじめ、旬の新鮮なものを届け、無農薬、オーガニックも取り扱う。こうしたアイテムを中心に品揃えしながら市場から調達した一般的なものも取り扱い、カット野菜もそろえ、幅広ニーズを取り込もうとしている。
無印らしい売場づくり
売場内に作業スペースを設けて、来店客とのコミュニケーションを図ることも目指す。オリジナル木製の什器に木箱、ザル、桶なども使い陳列、無印らしい売場づくりを行っている。農具のディスプレーで演出、一般的なSMとは違う雰囲気を出している。
鮮魚売場は一般的なSMと比較して売場は広く取っており、鮮魚、刺身、貝、塩干、冷凍魚、海藻などアイテムも豊富で、調理や注文にも対応する。近辺の岸和田漁港、泉佐野漁港からの直送品を店舗で加工販売。丸魚の種類も多く、鮮度にこだわりながら価格設定はリーズナブル、「無印鮮魚」1盛540円といった価格訴求も行っている。
〈鮮魚〉丸魚の種類も豊富、対面の海鮮丼ブースも設置
寿司もにぎりや巻物の品揃えも多岐にわたる。その場で注文を受け提供しイートインスペースで食べられ、持ち帰りもできる「海鮮丼」の対面ブースも設けている。
セルフの精肉売場は壁面とオープンケースで構成されている。牛は生産者と直接開発した宮崎県産黒毛和牛「宮崎ハーブプレミアム」、北海道産のホルスタイン。豚は産地直送の「沖縄あぐー豚」「高城の里」。鶏は「丹波鶏」「黒さつま鶏」「阿波尾鶏」と、ブランド肉をメインにいずれも国産の商品を展開している。デジタルサイネージで生産者の情報なども発信している。
〈精肉〉デジタルサイネージで生産者情報などを発信
ガラスケースの量り売りの対面販売コーナーも設け、宮崎産黒毛和牛「ハーブプレミナム」と「沖縄あぐー豚」、ローストビーフなどの加工品を販売している。
惣菜の売場もかなり広くとり、和・洋・中華惣菜、サラダ、揚げ物、焼き物、弁当、おにぎり、サンドイッチと充実しており、品揃えは小型SMをはるかに凌駕している。国産を打ち出し、素材や米など原材料のこだわりも見られ、価格よりおいしさやクオリティを重視する取り組みだ。
〈惣菜〉小型SMをはるかにしのぐ品ぞろえ
ロテサリーチキンや焼き鳥の対面販売、惣菜の量り売り、おかずなどをチョイスできる弁当も展開し、選択肢の幅を広げて需要を喚起しながらさまざまなニーズに対応している。
かまどを模した造作を売場に配置するなど演出にも力を入れている。
ベーカリーは協同事業者が運営。鮮魚売場と無印の加工食品売場にはさまれ、脇の出入り口にも近いところに配置されている。
食パンなど一部の商品は店内で焼き上げているが、その他は工場から配送している。
生鮮三品と惣菜は今回初めて取り組んだもの。生鮮は基本、農家、漁港、産地と連携しながら商品を調達し、生産者も納得でき消費者も満足する「少し高い、少し安い」適正価格で販売。サイネージなどで商品の説明や背景を伝えて、生産者と消費者をつなぎ、食の在り方を問い掛けようとしている。
今後の展開:当面は今のままも直営化も考えられる
惣菜ではメーッセージ性は生鮮三品よりは強くはないが、SMの基本的な品揃えを踏襲しながら、独自性を打ち出そうと模索している段階。既存の発想からかけ離れた商品が登場するのを期待したい。
生鮮という難しさはあるものの、商品開発のノウハウは持っており、今後、無印らしい取り組みが出てくることが予想される。農場、牧場、養殖といった川上の生産拠点までさかのぼるか注目される。
無印良品を運営する良品計画には商品調達や商品開発、売場運営のノウハウは無いに等しく、協同の事業者の協力なしには成立しない。今後は未定だが、当面はこの方式で展開されていくものと思われる。
しかし、将来的にはそのスキームが大きく変わる可能性があり、無印の色濃い売場がつくられるようになり、直営化が進むことも十分に考えられる。
コメントする