電話で家族になりすまし「オレオレ、オレだけど……」と金の無心をすることから「オレオレ詐欺」という呼び名が広まった特殊詐欺。やりとりの内容が世間に広まると、金が必要な状況にさらにリアリティを持たせるため、警官や弁護士、会社の上司などを複数で演じる劇場型も登場した。この手法も知られるようになったいま、津軽弁や薩摩弁など、強い訛りを使う手口が登場している。なぜ、方言を利用する方法が登場したのか、ライターの森鷹久氏が報告する。
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「あ、お母さんね? おいばってんさ、ちょっと困ったことが起きてしまってね……。お金の話けども……」
筆者の地元、佐賀県出身の友人宅にかかってきた、いわゆる「オレオレ詐欺」電話の冒頭部だ。友人の母親はすぐに「詐欺」だと察知し電話を切った。何しろその友人、名前は「男っぽい」のだが実は一人っ子の女性。母親は今年の始め頃から「方言を用いたオレオレ詐欺」電話がちょくちょくかかってくるようになったと話すが、この背景には、闇の名簿屋や半グレ集団が、次なるターゲットを探し始めた背景が見え隠れしている。
検挙経験のある、特殊詐欺実行グループの元リーダーが、その理由を語る。
「標準語や関西弁を話すメジャーな地域の“リスト”が使えなくなってきた。そこで目をつけたのが、九州や東北など、田舎のリスト。田舎はほとんど手がつけられてない分、ほとんど”金鉱”状態だということで、一部の連中は方言を勉強してまで、電話をかけまくっていますが…」
こう述べるとともに、彼はこの手法では「儲けられない」とも話す。実際に九州弁を使って「オレオレ詐欺」を実行しようとした半グレ集団が逮捕されたり、微妙にニュアンスの異なる津軽弁を使った電話に違和感を感じた女性が気づき、詐欺が未然に防がれた事例などもある。新しい手法だが、方言を使う詐欺の成功率が高いとは言いがたい。
ならば、再び彼がいうところの「メジャーな地域のリスト」を利用すればよさそうだが、あまりに多くの詐欺犯達によってしゃぶり尽くされたリストは、すでに「使えなくなった」ので、使いやすいとは言いがたい方言を使わねばならないリストを利用するしかないという。
「われわれが利用する名簿屋には、高額納税者に多重債務者、高額なゴルフ会員権を持つ連中のリストから、出会い系サイト使用者や開運グッズ購入者、ダイエット薬購入者などといった、様々なリストが用意されています。ブラックなところでは“一度詐欺にあった連中”などを集めたリストもある。これは特に高額で取引され、かつ一度も使用されてなければ、数百万単位で売買されることもあるんです。しかし、きつい方言が使われるエリア以外の名簿は、もうほとんど使い尽くされて、詐欺に気がつかれてしまう。残ったのが方言エリアになってしまった。だから方言を勉強してまで、電話をかけるんです」(前出の元リーダー)
特殊詐欺犯グループの一部は、独自に「方言での会話方法」をマニュアル化し部下に配布。それを元に「オレオレ詐欺」を実行しようと試みていたのが、彼らの目論見は甘かった。当局関係者も自信ありげに説明をする。
「お年寄りの多い地方ほど、自治体や当局からの指導が徹底しており、固定電話にかかってきた電話には、まず疑ってみるという対策が徹底されている。相手が変な方言で話してきたら、より強い方言で返してみよう、などといった具体的な自治体の指導も功を奏している」
しかし安心ばかりしていられるわけではない。使えなくなったリストを元に、悪質な訪問販売や泥棒など異なる手段による犯罪行為に手を染める連中が必ず出てくる、そう指摘する声も上がっている。
「弱り切った金持ちの老人がそこにいるとすれば…。食えなくなった半グレはなんでもします」(前出の元リーダー)
どこまでも卑怯な連中は、どこまでも狡獪に、ありとあらゆる手で人の幸福や安定を蝕もうとやってくるのだ。
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