「俺、詰んだ」から4年 東出昌大さん、「火宅の人」の今
- エンタメ
- 2023年12月16日
俳優の東出昌大さん(35)は、不倫発覚で妻子を失った。スキャンダル報道でバッシングを受けた彼は今、関東近郊の山あいで、狩猟の日々を送る。批判の矢面に立たされて4年。山奥で独居なんて脱俗でもするの?と聞いたら、苦笑された。「生きられる場所が、ここしかなかったんです」。たき火を囲み、温泉につかり、一夜を過ごして「火宅の人」の今に迫った。
「すぐに血抜きしてるから、肉は柔らかいです」。189センチの長身にヒゲ面の東出さんが、熊の肉を煮こんだ鍋をよそってくれた。東京から特急電車に乗って、とある駅で降り、車で20分。細く急な一本道を上った先が、東出さんの住まいだ。
夜8時。四方を山に囲まれたトタン屋根の山小屋は、床が土で固められている。一斗缶で燃やすマキの炎と、ぶら下がる裸電球が闇を照らしだす。無粋を承知で聞いた。一度得た家族を失って、孤独は増したのか。東出さんは静かにうなずいた。
なら、なぜ山深い場所に?と質問を重ねると、山男の顔をした。「渋谷のスクランブル交差点でも孤独は感じます。山中でもそれは一緒ですが、それでも生き物の息吹を感じる。生きている実感が味わえるという意味では、都会の孤独と質が違います」
山中に居を構えて2年。狩猟免許を取って山で狩りをする。「大抵が『単独忍び』(徒歩で一人でする猟)。鹿を仕留めた時は、何ともいえない高揚感がある」。都会暮らしが恋しくないのか。東出さんは、苦笑いした。
「離婚して東京に家がなくなり、部屋を探したんですが、本名で俳優をしていたので『マスコミの取材が来るから』と断られました。それも、3軒の不動産屋に。ここにいるのは、東京で暮らすのは厳しいな、と感じた面もあるんですよね」
不倫を週刊文春が報じたのは、2020年のことだ。「身から出たサビだからしかたない。『俺、詰んだ』と思いました」と振り返る。「全てを受け止めて反省してるつもりなんですが、その深さなんて人に伝わらない。どうしたらいいか、分からなかった」
自分を見失う日々。「俺、どこで間違えた? 何で間違えた?」。今でも見るのは、3人の子供の夢。「跳び起きたら泣いている、ということがあります」。そして続けた。「その時は二度寝して、また会いたくなる」
元々は芸能界とは無縁に育った。父は包丁一本。夫婦で割烹(かっぽう)を営んだ。本人も剣道一筋。将来は警察官かな、と思っていた。18歳の時に父ががんに。4年の闘病後に亡くなった。2カ月後には東日本大震災が起きた。
ゆらめく炎を囲んで長話をしていたら、深夜12時近くに。宴会の終わり際にボソリと言った。「世の中に『絶対』なんてものはないと知った。人生観に影響したと思います」
翌朝。沢づたいに一緒に山を歩き、近くの温泉につかり、うどんをすすりながら、気ままに話をした。獣の皮のはぎ方。三島由紀夫や太宰治の魅力。好きなラッパーの曲。親切で、無防備な東出さんに、聞きづらい話があった。不倫の発覚前に結婚について語ったインタビュー記事のことだ。
<僕の少ない経験則から言うと、結婚相手とかパートナーとか呼べるような人の前だと、「自分」と「他人」という境界線がなくなる。「親しき仲にも礼儀あり」という関係から、「この人になら、どう思われても大丈夫」と思える一歩進んだ関係になっていく>
長く連れ添う男女は境目がなくなり、互いが一体化するほどの絆ができる。その感慨を知る人が、どうして? 実は私が東出さんに会いたいと思ったのは、このインタビューを読んだことがきっかけだった。
記事のコピーを手渡すと東出さんは黙りこくり、それから、うなった。「ウソをついたわけじゃない。その時は本心からそう思っていた。僕は僕自身を分かっていたつもりだったけど、全然分かっていなかった。そういうことなんでしょうね」【川名壮志】
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