揺らぐ国産ロケットの信頼 イプシロン失敗、宇宙開発への影響は
- 政治・経済
- 2022年10月13日
© 毎日新聞 提供 イプシロンロケット6号機の打ち上げ失敗についてオンライン記者会見するJAXAの山川宏理事長(右)ら=ウェブ会議システムの画面から2022年10月12日午後1時35分、鳥井真平撮影
イプシロン6号機の打ち上げが失敗した。基幹ロケットの打ち上げ失敗は19年ぶりで、高い成功率を誇る国産ロケットの信頼性が揺らいでいる。今後の宇宙開発への影響はあるのか。
イプシロンに期待されるのが、世界的に需要が高まる小型衛星の打ち上げだ。宇宙ベンチャーが次々に参戦し、数多くの通信衛星や地球観測衛星が打ち上げられている。こうした小型衛星はこれまでH2Aロケットのような大型ロケットに相乗りさせていたが、より安価で高頻度に打ち上げられる小型ロケットのニーズが高まっている。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)はH2Aの後継となるH3ロケット(全長63メートル)を開発しており、イプシロンが小~中型、H3が中~大型の衛星を担うことで、すみ分けを図る計画だ。
イプシロンは1回の打ち上げ費用が40億円前後と、100億円程度のH2Aよりも安価だが、世界の小型ロケットからみるとまだ高価だ。このため、JAXAは次号機からさらなるコスト低減を目指し、H3と部品を大幅に共通化する改良型の「イプシロンS」に移行する計画だ。
6号機ではイプシロンSで使う機器の実証などを行う予定だった。イプシロンSは2023年度中にベトナム政府の地球観測衛星を搭載して打ち上げられる予定だったが、今回の失敗で影響は避けられないとみられる。
打ち上げ業務は近年、民間への移管が世界で進んでいる。米国ではスペースXなどが代表的だ。JAXAは、イプシロンSが軌道に乗れば、設計・製造する「IHIエアロスペース」(東京都)に移管する予定だ。JAXAの布野泰広理事は「移管に向けた一歩を進めていた中で非常に残念。まずはなぜ起きたのか原因究明する」と述べた。IHIエアロスペースは「原因究明に向けて、JAXAの調査に全面的に協力する」としている。
米本浩一・東京理科大理工学部教授(航空宇宙工学)は「イプシロンSの開発に向け新たな試みのさなかで打ち上げ失敗となったが、使い捨てロケットの打ち上げには必ずリスクが生じる。日本の宇宙開発が世界に後れを取っている今だからこそ、次世代機の打ち上げにつながるよう、早急な原因究明が求められる」と話す。
固体燃料ロケットは液体燃料ロケットと比べて扱いが容易な半面、誘導制御が難しいとされる。科学ジャーナリストの松浦晋也さんは「これまでの打ち上げ条件と大きく変わるわけでもなく、トラブルの原因が見当たらない。固体燃料ロケットのデメリットも含め、これまで対策は打たれてきているはずだ」と疑問を呈する。その上で「JAXAが前回失敗した03年のH2A6号機では、約2年にわたって宇宙開発が停滞した。スペースXに代表されるように、失敗してもすぐに次を打ち上げるスピード感を持たなくては、世界の宇宙開発の潮流に取り残される」と指摘した。
毎日新聞より転用
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