フランス大使館文化施設、カード情報流出か 認識から1年公表せず
- 国際
- 2022年7月9日
フランス政府の機関で、語学講座や文化発信の拠点として知られる「アンスティチュ・フランセ日本」(本部・在日フランス大使館)は8日、受講生のクレジットカードの情報が流出した可能性があると発表した。情報流出の可能性を認識したのは2021年7月といい、公表までに1年かかった。その間に何者かに100万円以上、カードを不正使用された受講生らがいることが毎日新聞の取材で判明した。公表の遅れが被害を拡大させた可能性がある。
アンスティチュによると、オンラインによるクレジットカードで受講料などを支払える決済システムを21年2月に導入。その年の7月になって、システムを運営する香港の業者から「情報流出の可能性がある」と伝えられたが、調査が終わるまで公表を控えた。その後、「不正アクセスの対象となった証拠はない」との報告を受けたことから公表を見送っていた。だが、受講生から不正利用の訴えが相次いだために、8日に公表した。
香港の業者は21年2~5月のオンライン決済に使ったクレジットカード情報が流出した可能性があると説明しているというが、多くの受講生は、21年秋以降の被害を訴えている。
ある受講生は、今年6月22日にクレジットカードが使用できなくなった。利用限度額を超えたためで、請求明細を確認したところ、米IT大手アップル社のコンテンツを購入した際に記される「apple.com/bill」から身に覚えのない多数の請求があった。
受講生は21年10月にアンスティチュのフランス語講座の受講料を支払った。不審な請求はその10日後から始まり、最初は1回当たり100円程度だったが、22年5月ごろになると1万円程度の支払いが集中してカードの限度額を超えた。不正使用の総額は約120万円に上った。
アップル社に申し立てたところ、不正と認められ、アップルとカード会社から被害額の大半を返金された。請求できる期間以前に引き落とされた約1万円は返金されなかった。
この受講生がネット検索したところ、SNS上にはすでに昨年秋ごろから同様の被害を訴える複数の受講生の投稿が上がっていた。こうしたことを含め、アンスティチュに問いただしたというが、説明してもらえなかったという。
この受講生は「アンスティチュが、不適切な対応によって被害を拡大させたのは間違いない。単なる語学学校ではなく、フランス政府の機関であり、日仏友好や文化交流の象徴なのに、多数の生徒が被害を受ける事態を招き、非常に失望した」と語った。
別の受講生は昨年10月ごろ、クレジットカード会社から「不正使用の可能性」を告げられた。計約30万円をアップル社に請求されていたが、未然に支払いを阻止できたという。
受講生はその後も不正請求の原因が分からないままでいたが、今年6月にアンスティチュに受講料を納付しようとした際、別の受講生から「不正被害がでているようだ」として現金払いを勧められ、初めてアンスティチュからの情報流出の可能性を認識したという。
「不正利用に気付いた後もずっとどこから情報が流出したか分からず、自分を責め続けた。早めに公表していれば、被害拡大を防げるし、被害者の精神的な負担の軽減にもなったのに。一番信用していた学校がそれをしてくれなかったのが悲しい」と話した。
アンスティチュ・フランセ日本は12年9月、在日フランス大使館文化部と東京日仏学院、横浜日仏学院、関西日仏学館、九州日仏学館が統合して誕生。仏政府の公式機関で、本部は東京都港区南麻布のフランス大使館内に置かれている。フランス語講座は2万5000人近くの受講生を抱え、年間300件以上の文化イベントを企画している。
管理運営するフランス大使館広報部によると、被害の報告は今のところ、アンスティチュ・フランセ東京(旧東京日仏学院)のみという。
大使館広報部は、香港の業者との契約を解除したと明かした上で、「公表が遅くなりましたことを深くおわび申し上げます」とコメントした。
被害に関する問い合わせは、アンスティチュ・フランセ日本のホームページの専用フォームでできる。【賀有勇】
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