電車内で暴行の財務省キャリア官僚 事件前日に起きていた「怒号が飛び交う国会対応」
電車内で乗客を殴ったとして5月20日未明に暴行容疑で現行犯逮捕された財務省総括審議官の小野平八郎容疑者(56)。総務審議官といえば、「将来の次官コース」と呼ばれる局長級のポストでまさにエリート官僚中のエリートである。
この役所では大蔵省時代に官僚たちが「ノーパンしゃぶしゃぶ」という派手な接待を受けていた官官接待事件をはじめ、森友問題をめぐる公文書改ざん事件、福田淳一・次官のセクハラ疑惑による更迭、さらに若手官僚の集団レイプ事件まで不祥事を挙げれば枚挙に暇がないとはいえ、分別のある年齢の局長級幹部が酒に酔っぱらって地下鉄で乗客を殴るというのは尋常ではない。
気になるのは小野氏が悪酔いした理由である。総務審議官の仕事は主に国会対応だ。金融政策については日銀との交渉窓口も務める。
折しも、自民党では安倍晋三・元首相を最高顧問とする積極財政派の「財政政策検討本部」と財政再建派が多い岸田文雄・首相直属の財政健全化推進本部が激しく対立。積極財政派が「2025年度までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字化する」という政府目標について見直しを求める提言(5月17日)をまとめると、財政再建派はあくまで「目標堅持」を唱え、5月19日に自民党本部で開かれた会合では両派が激突、怒号が飛び交う事態となった。
小野氏が殴打事件を起こしたのはまさにその日の深夜(20日午前0時半頃)の地下鉄内である。
「国会対応を担当する小野さんは積極財政派と財政再建派の板挟みになっていた。前後不覚になるほど酔って事件を起こしたとすれば、この間、よほどストレスが溜まっていたのではないか」(財務省OB)という声もある。
ちなみに、小野氏は財務省の「出世の登竜門」の主計局主計官から主税局総務課長などを歴任して昨年7月に総括審議官に就任したが、このポストは不祥事と因縁がある。
同省がかつて官官接待事件で大量の処分者を出した時、省内の綱紀を担当する官房長だった武藤敏郎氏も監督責任を問われて降格処分になった。だが、当時の同省首脳部が“10年に1度の大物次官候補”と見られていた武藤氏に出世の道を残すために、ほとぼりが冷めるまでの「待機ポスト」として用意したのが総務審議官の役職。組織改革で現在の総括審議官の名称になった。
武藤氏はその後、財務事務次官や日銀副総裁を歴任、現在は東京五輪・パラリンピック組織委員会事務総長を務めている。
以来、総括審議官は財務官僚の「次官コース」となり、これまでに増税路線で知られた勝栄二郎氏など10人近い次官を輩出してきた。「次の財務次官」と見られている茶谷栄治・主計局長、「次の次の次官」が有力な新川浩嗣・官房長も総括審議官を経験している。その先が“小野次官”の出番と見られていた。
もともと不祥事の「ほとぼりを冷ます」ための待機ポストからエリートコースになった総括審議官(旧・総務審議官)ポストだが、今回、不祥事の当事者となった小野氏が出世を棒に振ることになれば、歴史の皮肉かもしれない。
NEWSポストセブンより転用
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