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目覚めた〝令和の怪物〟佐々木「下手くそ」少年時代を糧に


プロ野球史上28年ぶりとなる完全試合の達成まであと1人。ロッテの佐々木朗に気負いはなかった。「正直、あまり意識していなかった。『打たれたらそれでいいかな』と思って投げた」。105球目。147キロのフォークに昨季の本塁打王、杉本裕太郎のバットが空を切った。この日は、自己最速タイの球速164キロをマーク。三振の山を築いた。歴史的瞬間を目撃した観客は総立ちで拍手を送り、チームメートは跳び上がって駆け寄る。歓喜の渦中で、背番号「17」が一番冷静に見えた。

【プロ野球ロッテ対オリックス】完全試合を達成したロッテ・佐々木朗希=ZOZOマリンスタジアム(撮影・田村亮介)

© 産経新聞【プロ野球ロッテ対オリックス】完全試合を達成したロッテ・佐々木朗希=ZOZOマリンスタジアム(撮影・田村亮介)

大船渡高3年のときに球速163キロをマークし「令和の怪物」と一躍注目を集めた。それまでは、ほぼ無名の選手。小学時代は「思うような球が投げられず、コントロールも悪かった。下手くそだった」と自身を評する。身長が高く、当時、使用していたボールが小さすぎて、うまく扱えなかったのが原因だった。

それでも野球はやめなかった。小学3年のとき、東日本大震災で岩手県陸前高田市の自宅が津波で流され、父と祖父母を失った。避難所では、グラブを人から借りてキャッチボールを続けた。「野球をしているときが一番楽しかった。夢中になれる時間があったおかげで、つらいときも頑張れた」。日常のすべてを失った少年にとって野球は心の支えだった。

年齢が上がるにつれて使用するボールが大きくなり「合うようになった」。中学3年で球速141キロを計測。高校で硬球になり、さらに球速が増し、制球も安定した。

ロッテ入団後は慎重な調整が進められた。1年目は1軍に帯同しながらも登板機会はなし。厳しい意見も耳に入ったに違いないが、ぶれることはなかった。「コツコツとやり続け、積み重ねていけばちゃんと返ってくる。(小学時代の)下手くそなときの経験が生きた」と静かに出番を待った。速球を投げる力は天性とされる。才能におごらず、謙虚に地道に歩んできたからこその快挙だ。

一夜明けた11日、自身が成し遂げたことの大きさにようやく気づいた。「今回の記録はなくならない。少しずつ実感が湧いてきた」。弱冠20歳で成し遂げた完全試合。「怪物」が目覚めた瞬間でもあった。

産経新聞より


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