大手総合商社の住友商事が6月18日に開いた株主総会。オーストラリアのNGO「マーケット・フォース」から提出された気候変動対策の強化を求める株主提案に対し、20%の賛同が集まった。
2020年に同様の株主提案を受けたみずほフィナンシャルグループにおける賛成率が34.5%だったことを考えると、住友商事の数字は低く見える。ただ、5月に気候変動対策強化を打ち出したにも関わらず、なお2割の株主が提案に賛成票を投じたことは注目すべきだろう。
株主総会前に激しい神経戦
提案では、石炭や石油、ガス事業関連資産の事業規模をパリ協定の目標に沿ったものにする事業戦略を毎年公表するよう定款変更を求めた。
マーケット・フォースの福澤恵氏は「本株主提案への賛成率は、住友商事がパリ協定と整合しなければさらなる投資家圧力に直面することを示している」と指摘。このままパリ協定に整合しない形で石炭関連事業を運営するのであれば、さらなる批判は免れないと強調した。
総会の結果を受けて、住友商事は「取り組み(気候変動対策)を強化することで、企業価値向上に努める」としている。
株主総会前には激しい神経戦が繰り広げられた。マーケット・フォースの提案について住友商事は、「目指している方向性は同じ」(兵頭誠之社長)としつつ、「事業戦略の柔軟性を阻害するため定款変更には応じられない」と反対を表明した。
総会直前の16日にはホームページに大きく「当社の気候変動問題に対する目標・方針について」と表示し、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けて石炭関連事業の削減を進めるとアピールした。
今回、提案に対する株主の動向を左右したのは、議決権行使助言会社の「助言」だった。アメリカのインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、株主提案への賛成を推奨。一方、同じアメリカの助言会社であるグラスルイスは反対を推奨するなど正反対に分かれた。結果的に株主提案への賛成票は伸び悩み、定款変更に必要な3分の2以上の賛成を大きく下回る20%の賛成にとどまった。
今年は三菱UFJフィナンシャル・グループに対しても気候変動対策の強化を求める株主提案が提出されている。
ただ、総合商社に対してこうした株主提案が出されるのは初めてのことだ。マーケット・フォースが今回、住友商事をターゲットにしたのは「石炭関連事業資産の削減で他社に遅れをとっている」(福澤氏)からだ。
発電用に使われる一般炭の権益について、三菱商事や三井物産、丸紅はすでに撤退を完了。伊藤忠商事も、保有する権益の約8割に相当するコロンビアのドラモンド炭鉱事業を2021年4月に売却し、一般炭事業からの撤退を急いでいる。これに対し、住友商事は「今後の新規権益取得は行わずに2030年の持ち分生産量ゼロを目指す」とスピード感に欠けた目標にとどまっている。
住友商事が気候変動対策の強化に重い腰を上げたのは、マーケット・フォースが3月26日に株主提案を提出した後のことだ。5月7日にこれまで示していた気候変動問題に対する方針の見直しを公表した。
住商の脱炭素方針に「大きな抜け穴」
石炭を燃やして発電する石炭火力発電関連事業も同様だ。新規の発電事業には取り組まず、全事業を終えて完全撤退するのは2040年代後半になってからだ。発電所の建設工事請負についても新規案件には取り組まないとしているが、この方針には例外扱いのプロジェクトがあり、マーケット・フォースは「大きな抜け穴がある」と批判を強めている。
その例外扱いのプロジェクトが、バングラデシュのマタバリ石炭火力発電所だ。円借款事業として住友商事は1、2号機の建設を請け負った。3、4号機の建設については今後入札が予定されている。兵頭社長は「バングラ政府から期待されていると認識しており、(1、2号案件に続く3、4号機を)現段階でやらないとは言えない」と話し、パリ協定との整合性を確認したうえで参画の是非を検討するという。
「IEA(国際エネルギー機関)は(2050年のカーボンニュートラルを達成するためには)2040年には石炭火力からの撤退完了が必要だとしているが、住友商事の方針は2040年代後半の撤退完了としている。気候変動がもたらす財務リスクを認識すべきだ」
こうした煮え切らぬ住友商事の姿勢に、マーケット・フォースは6月の株主総会でこう問いただした。
しかし、住友商事は「(マタバリ3、4号機への参画にあたっては)パリ協定との整合性が最も重要だ」と回答し、どっちつかずの姿勢を崩さなかった。
住友商事は今後、どのように脱石炭を進めていくのか。その手法にも注目が集まる。というのも、同社は石炭火力の燃料にバイオマス燃料を混ぜたり、石炭火力発電所をバイオマス発電所につくりかえたりすることも脱石炭を進める手法の1つとしているからだ。
バイオマス発電は再生可能エネルギーとみなされており、国内の間伐材や海外木材などが発電に使われている。ただ、生産から輸送、燃焼までのライフサイクルを考えると、海外木材は温室効果ガスを大量に排出する燃料とする懸念もある。しかし、こうした性格を持つ海外木材の利用に最も積極的なのが住友商事だ。
強まる石炭火力発電への風当たり
国際環境NGOのマイティ・アースは6月10日に公表した報告書で、「(住友商事は)北米からの木質ペレットの輸入を大幅に増やしている」と警鐘を鳴らす。今後、温室効果ガスを一定以上排出するバイオマス発電についてはパリ協定と整合しないなどと評価されることになれば、住友商事のこうした姿勢は新たな批判を呼び込むことになる。
住友商事は2021年3月期決算に、オーストラリアで運営する石炭火力発電所に絡んで250億円もの減損を計上した。6月のG7サミットでは温室効果ガスの排出削減対策が講じられていない石炭火力発電に対して年内に輸出支援を終了することが共同声明に盛り込まれるなど、石炭火力発電への風当たりも強まっている。
住友商事の兵頭社長は、インドネシアの石炭火力発電プロジェクトなどインフラ畑を歩んできた。燃料コストが安価で、安定して電力供給できる石炭火力発電は途上国での引き合いが多く、住友商事の安定した収益源となってきた。だが、事業環境の変化に合わせ、これまでのビジネス姿勢を変える必要に迫られている。
東洋経済による5月のインタビューで、「(情勢変化に応じた石炭関連資産のさらなる削減目標の強化について)そうしなきゃならないと思う」と答えた兵頭社長。今回の株主総会における2割の声にどう耳を傾けていくのか。住友商事の姿勢が改めて問われている。