芦田愛菜16歳が語る、“わからないもの”への面白さ
- 政治・経済
- 2020年10月4日
芦田愛菜
芥川賞作家・今村夏子の小説を映画化した『星の子』で主演を務める芦田愛菜。本作では、両親の愛情をたっぷりと受けて育ちつつも、その両親が“あやしい宗教”に傾倒していくことに葛藤や心の揺らぎを感じながら成長していく中学3年生の主人公・ちひろを演じている。16歳にしてすでにキャリア13年の芦田が、本作で感じた“わからないもの”への面白さとは。
■“直感”でロングヘアを30cmカット
先日開催された本作の完成報告イベントでは、映画のテーマともいえる「信じることとはどういうことか?」について自身の考察を語り、その深みのある内容がニュースとして大きく取り上げられるなど反響を呼んだ芦田。
こうした発言でも見られるような自身の思いを明確に言語化する能力の高さ、さらに年に100冊以上の本を読む読書家という一面から、彼女が台本や原作を深く読み込み、論理的に役柄を築き上げていくという姿をイメージしがちだが、それだけでは芦田愛菜という女優のすごさを見誤ることになる。論理的に考察し、事前に徹底的な準備を重ねつつも、時に直感や自身の内側から湧き上がる衝動に身を任せる――そんな演技の一端を明かしてくれた。
本作でちひろを演じるにあたり、自ら大森立嗣監督に提案し、ロングヘアを30cmも切って臨んだという芦田。これも台本や原作小説に書いてあったわけではなく、自らの“直感”に従った決断だという。
「(原作・脚本を読んで)髪の長い自分がちひろを演じることがしっくりこないというか、イメージが湧かず、監督に『髪を切りたいと思うんです』と伝えました。そうすることで(自身の中のちひろの)イメージに近づいて、納得して演じることができました。(脚本を読んでのイメージは)人それぞれだと思うんですが、私としては『この髪型がいい』とかじゃなく、今の自分だとしっくりこない、想像してみたときに納得がいかないなと思ったんです。それは感覚的なものなんですけど…」。
大森監督から、ちひろ像について具体的に指示されたことはなく「いろんな話をする中で、ちひろになるためのヒントをもいただいた」と振り返る。印象に残っているのは「毎回、シーンごとに少しずつ言い方が変わっている気がした」という大森監督の「よーい、スタート!」の掛け声。そしてもう一つ「会話を楽しんで」という言葉に背中を押されたという。
「本当にお芝居ってそういうものだなと。ただセリフを言うんじゃなく、相手との会話を通して作られるものがお芝居だと感じました」。
■“わからないもの”への面白さ 「もやもやしているけどわかる」感覚が好き
もちろん、その場の感覚や衝動に頼るだけではない。家で何度も台本と原作を読み込み、イメージを重ねるなど、彼女が事前の準備を怠ることは決してない。だが、そうした論理的な積み重ねの外にある“わからないもの”に芦田自身、どうしようもなく惹(ひ)かれるという。
「この映画のラストシーンもそうなんですけど、人の心情とか行動って、理屈で説明できるものが全てじゃないんですよね。『わからない』という気持ちや『もやもやしているけどなんかわかる』という感覚が好きなんです。合理的・科学的に説明できてしまうことより、自分の中から湧き上がる気持ち――お芝居でもそうで、理屈よりも『こう動きたくなるよね』という感覚が好きですね。もやもやした気持ちは、もやもやした気持ちのまま演じればいいのかなって。“うれし泣き”という言葉があるように、もやもやした気持ちの中に、うれしさ、悲しさ、つらさや決意があったりするし、その全てを表現するんじゃなくて『わからない』という気持ちがあってもいいのかなと。この子(ちひろ)が自分で気づいてないけど持っている気持ち、言葉で表現しきれない気持ちに、私が脚本を読み込んで気づいていたとしても、その全てを表現しなくともいいと思うし、そういうもやもやが面白さにつながるんじゃないかと思います」。
“わかりやすさ”が優先されがちな世の中で、16歳の名優が提示する“わからない”ことの面白さ。理性と衝動の狭間(はざま)で彼女が表現した彼女なりの“答え”を映画館で感じてほしい。(取材・文:黒豆直樹 写真:松林満美)
映画『星の子』は10月9日より全国公開。
一言コメント
16歳ながらすでに大女優だ。
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