ハンコ、名刺不要に コロナで戦後初ビジネス転換期到来
- 企業・経済
- 2020年6月8日
新型コロナウイルスを受けた働き方の変化
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、政府の専門家会議が示した「新しい生活様式」。内容は買い物や娯楽から冠婚葬祭まで多岐にわたり、働き方にも大きく影響する。会議や名刺交換のオンライン化が推奨されたことで、これまで社会人の基本とされてきた「ビジネスマナー」が大きく変化する可能性があり、押印を廃止する動きも出てきた。コロナと共存する社会での、正しいマナーとは何か。(鈴木俊輔) ■社会人の基本が… 「まだ浸透しているとはいえない。抵抗を感じる人が多いのではないか」 日本サービスマナー協会のプロフェッショナルマナー講師で全国の企業でビジネスマナーの研修を行う生駒澤子さんがこう話すのは、新しい生活様式で推奨されるオンラインでの名刺交換についてだ。 名刺交換の所作は社会人にとって必須のマナー。初対面の場合、名刺交換をしてから会話を始めることが一般的だ。これがオンライン化した場合、専用のソフトやアプリなどを通じ、URLやQRコードを使って互いの名刺の画像を送りあうなど、パソコンやスマートフォン上でのやり取りに置き換わることになる。 戸惑いもありそうだが、生駒さんは「これまでの名刺交換の方法は、名刺を相手の“顔”として大事にするという考えからできたもの。オンラインであっても、名刺を大事にするという前提は一緒」と語る。 応接室や会食の場の対応にも影響がありそうだ。これまでは、上座に役職や立場が上の人が座ったが、今後は変わる可能性がある。換気の状況や対面を避けることにも配慮する必要があるためだ。 応接室や個室での会食は「3密」にもなりやすく、会場の状況によっては目上の人に下座に座ってもらったり、ドアや窓を開放したままにしたりするケースも想定される。 生駒さんは「事後説明ではなく、案内前に一声かけるのがポイント」と説く。 《にぎやかな場所ですが、換気が行き届いていますのでこちらへどうぞ》《換気のため窓を開けるのをお許しください》 こうした言葉の有無で、印象は大きく変わる。 ■ハンコが消える? 《サントリー、押印業務廃止へ》 緊急事態宣言の全面解除直後の5月28日、こんなニュースが伝えられた。 サントリーホールディングス(HD)の主要各社が紙の書類への押印を原則廃止していくというもので、契約書の作成などをオンライン上で完結させ、生産性向上や在宅勤務でも働きやすい環境を整えることを目指す。 紙や印紙代などのコスト削減にもつながることから、サントリーHDは2年前から導入に向けたプロジェクトを進めており、新型コロナによる在宅勤務の広がりを受けて導入を急いだという。 以前は社会人にとって必須アイテムだった名刺と印鑑が不要になる日が来るのかもしれない。 ■転換点になるか ビジネスマナーはこれまでも時代や環境に応じて変化してきた。コロナ禍を「相手を思いやり、配慮するというマナーの本質を再認識する機会になった」と振り返る生駒さんは、「これまではマニュアル通りにやればよかったが、今後は相手のことを考え、工夫していく必要がある」と指摘する。 一例が情報通信技術(ICT)を活用した非対面の会議や、マスクを着用しての会話だ。画面やマスク越しでは表情やしぐさで反応が伝わらず、場の空気がつかみにくくなり、話している側の不安やいらだちにつながる恐れもある。 こうした問題は、少しの配慮をすることで解消されるという。リアクションを大きくしたり、口に出して相づちを打ったり。相手への気遣いがこれまで以上に重要になる。 日本企業の働き方に詳しい近畿大の團泰雄教授(人的資源管理論)は「高度成長期以降、日本企業は基本的な働き方は変えずに、労働時間を減らしたり、効率化を図ったりしてきた」と説明。「戦後初めて、働き方の質がガラッと変わる局面を迎えているのではないか」と話している。
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環境が変われば常識も変わる!?
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