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水族館 イルカは「購入」から「繁殖」の流れへ


   佐世保市鹿子前町の九十九島水族館(海きらら)で昨年9月、人工授精で妊娠したハンドウイルカ「ニーハ」が雄の赤ちゃんを出産した。人工授精での出産は難易度が高いといわれ、国内では4例目の快挙。日本の水族館は長年、追い込み漁で捕獲したイルカを購入してきたが、世界動物園水族館協会(WAZA)が「残酷だ」と問題視するなど、国際的な批判が強くなっている。「購入」から「繁殖」に流れは変わったのか。海きららの成功はどのように受け止められているのか。取材した。

昨年12月25日、海きららのプールには元気に泳ぎ回る赤ちゃんイルカの姿があった。体長は生まれたときよりも約40センチ大きくなり、ジャンプの勢いも増している。この日は命名式。九十九島の「島」を意味する「island」と、「未来」を意味する「I will」にちなみ、「アイル」と名付けられた。
海きららは2017年から繁殖に取り組んだ。15年に雌のハナゴンドウ「リリー」が死亡。「ニーハ」と「ナミ」の2頭でプログラムをしていたが、負担が大きいため、新たな個体を導入することを決めた。
日本動物園水族館協会(JAZA)は、追い込み漁で捕獲したイルカの購入を禁止している。海きららは会員ではないため、購入する選択肢もあった。しかし「イルカに出産や育児を経験させてあげたい」という思いから、繁殖の道を選んだ。

2頭は大分県の「つくみイルカ島」で約1カ月半にわたって雄と同居。自然繁殖を目指したが、いずれも妊娠には至らなかった。それでも購入はせず、国内では極めて例が少ない人工授精に挑戦した。
三重大や岐阜大の専門家のアドバイスを受け、精液を採取するタイミングなどを調整した。排卵時期に合わせ、神戸市立須磨海浜水族園、愛知県の南知多ビーチランドから提供された精液を注入。2頭とも妊娠に成功した。
出産までの約1年間は、エコー検査や体温測定で母子の健康状態を細かくチェック。産後にスムーズに育児ができるよう、授乳トレーニングにも力を入れた。野生のイルカは群れの中で出産や子育てについて学ぶが、水族館ではそれができない。そこで、プールのそばにモニターを設置し、イルカの出産や授乳のシーンを流すなど、試行錯誤を繰り返した。
ニーハは昨年9月27日、無事に出産を迎えた。川久保晶博館長は「初産で、獣医師やトレーナーも出産に関わるのは初めて。プールも小さく、条件は悪かったのに、よく成功した」と振り返る。11月25日に死産となったナミについては「残念だったが、貴重なデータは取れた。ほかの水族館に参考にしてほしい」と話す。
JAZAの岡田尚憲事務局長は「小さいプールでも成功できたというのは、これから人工授精に取り組む水族館にとって、いい刺激になるのではないか」と評価した。

15年4月、WAZAは日本に対し、追い込み漁で捕獲したイルカを水族館に導入するのは「倫理規範に違反している」と指摘。JAZAの会員資格を停止した。JAZAはこれを受け、追い込み漁で捕獲したイルカの入手を禁止。繁殖に大きくかじを切った。
まず、人工授精の取り組みが進んでいる米国から専門家を招いて勉強会を開いた。さらに、JAZAの会員施設が飼育するイルカの遺伝子を全て調査。繁殖の効率化を図った。活動は実り、15年まで全体の1割程度だった繁殖個体は、約2割に増加。昨年5月には名古屋市の名古屋港水族館で国内3例目となる人工授精の赤ちゃんが誕生した。
海きららの繁殖に協力した三重大生物資源学部の吉岡基教授は人工授精について「精子さえあれば繁殖でき、雄を移動させるリスクを回避できるなどの利点がある」と説明。一方で「同じ雄の精子ばかり使うと、近親交配の恐れも出てくる。一番いいのは自然繁殖で、人工授精はそれができないときの手段の一つだ」と指摘する。
JAZAによると、米国は8~9割が繁殖個体だという。勝俣浩水族館部長は「繁殖を進めていくには、水族館同士が協力し、イルカを共同管理する必要がある」と話している。

長崎新聞

 

 

一言コメント
生き物を扱うのは大変だ。


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