奴隷同然の暮らし、偽装結婚ブローカーの実態…『フィリピンパブ嬢の社会学』中島弘象さん
- 詐欺・悪徳商法
- 2017年4月2日
■交際で知った真の彼女たち
大学院時代、著者は修士論文のテーマを「フィリピンパブ(以降PPと略す)の学術調査」にしようと考えた。
指導教官も興味を示した。実態調査のため、初めてPPの門をくぐった。
「テーブルについたホステスの一人がミカでした」。約6年半前、彼女は来日。日本でお金を稼ぎ、祖国の家族に仕送りするためだ。当時25歳。著者より3つ年上だ。彼女の優しい人柄にひかれ、店に通ううち2人は付き合うように。指導教官に告げると、「そんな危ないこと、すぐやめなさい!」と叱責された。それでも付き合いを続けた。
「ミカとの交際で楽しいこともあり、一方、雇い主のヤクザの所に乗り込んだことも。パブ嬢たちの奴隷同然の暮らしを見せられたり、汚い部屋に監視付きだったり、すさまじい生活ぶりでした。これは深い、もっと知りたいと思うようになった。怖いもの見たさの日比の民間交流ですね」
実態調査は続く。偽装結婚する人を目の当たりにし、元ブローカーに会うこともできた。生育環境や価値観の違いに2人は時折ぶつかった。本書はこうした数々の実体験を基に、日比関係の裏側を掘り下げた国際関係学、そして文化人類学の書ともいえそうだ。
「PPって色眼鏡で見られやすいけれど、この研究とミカを通じて本当の奥深さを知った。偽装結婚にしても犯罪の加害者と被害者がいて、いずれも相対してみれば普通の人々。人物を評価する際にもっと温かく寛容な心を持とう、と教えてくれたのは当事者たちだったんです」
一昨年10月、著者はミカさんと結婚した。今年7月には第1子が生まれる予定だ。出会いから5年-。
「今はとても幸せです。自分で言うのも変ですが、この本は事実に根ざした恋愛小説とも読めます。彼女と局面ごとに真剣に向き合ってきましたから」(新潮新書・780円+税)
川村達哉
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【プロフィル】中島弘象(なかしま・こうしょう) 平成元年、愛知県春日井市生まれ。中部大学大学院修了(国際関係学専攻)。在学中から、経済的に恵まれない日比国際児の支援活動にかかわりつつ、フリーライターとして活躍。
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