アングル:地に落ちた地銀の優等生・スルガ銀 揺らぐ財務健全性
[沼津市(静岡県) 7日 ロイター] – 高い収益性を誇り、「地銀の優等生」とも評価されてきたスルガ銀行<8358.T>の実態は、ガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)を置き去りにした「架空のビジネスモデル」だったことが明らかになり、その存続さえ危ぶまれる事態に直面している。
自己資本比率は12%台を維持してきたが、貸倒引当金の規模が膨らめば、財務の健全性をき損しないかねない事態に追い込まれた。創業家支配からの脱却を誓った新社長が、地元・静岡にも目配りしながら収益力あるビジネスモデルを築けるか。重い課題を突きつけられている。
<自己資本比率「4%割れ」シナリオ>
「当社は単体自己資本比率が12.14%であり、十分な健全性を有している」――。スルガ銀の新社長に就任した有国三知男氏は7日、記者会見の冒頭で財務健全性を強調した。自己資金や手元流動性も十分だと述べ、市場が抱く経営への懸念の払しょくを狙った。
しかし、投資用不動産への不適切な融資に対し、貸倒引当金をどこまで積み増すのか、見通しは示せていない。有国社長は「中間決算に向けて自己査定中で、必要なら引当金を積み増す」と繰り返した。
同社の貸出金は3月末で3兆2500億円。このうち、投資用不動産向け融資は約2兆1000億円を占める。融資全体に対する貸倒引当金は6月末で870億円となり、3月末から88億円増えた。6月末の自己資本は3282億円だ。すべての不動産向け融資が問題となっているわけではないが、引当金がさらにかさむようなことになれば、自己資本のき損は免れない。あるアナリストは、最終赤字2000億円ならば自己資本比率は最低限必要な4%を割り込むと試算する。
バーゼル規制の影響で、投資用不動産向け融資のリスクウエートが変わり、自己資本比率の分母にあたるリスク資産が1割程度膨らむとみられることも、比率低下に拍車をかけるという。
<ぶれるビジネスモデルの軸>
スルガ銀は、金融庁からの評価も高かった。森信親・前長官は昨年5月の都内の講演で、地銀の持続可能なビジネスモデルについて語った際、他行に先駆けてニッチな分野を開拓し、収益を上げているスルガ銀行(8358.T)の名前を挙げ、「(規模が)大きくなることが唯一の解決策ではない」と評価したこともある。
スルガ銀のとん挫は、「フォアードルッキングにビジネスモデルを検証する」と打ち出した「森・金融庁のモニタリング方針が機能していなかったのではないか」(銀行アナリスト)との批判さえ漏れる。
不適切融資を検証した第三者委員会は、報告書の中で「他行がまったく採用していない経営手法というのは、逆に言えば採用しない理由もあることを示しており、そのリスクについてきちんと情報を収集した上、採否を議論すべき」と指摘し、ある意味、独自のビジネスモデルの確立を求める監督官庁の方向性にもクギを刺した格好となった。
有国社長は、問題の発火点となった不動産投資ローンについて「顧客の要望があれば、堅牢な社内体制を構築した上で真摯に対応したい」と述べ、引き続き取り組む姿勢を示した。その一方で、「事業のポートフォリオを都市部に寄せすぎたと反省している。地元の顧客も大切にしていきたい」と語り、地元静岡への回帰にも意欲を見せた。
静岡銀行<8355.T>、清水銀行<8364.T>、静岡中央銀行と競合がひしめく静岡県から、首都圏に活路を求め、個人向け融資中心のビジネスモデルを築いた創業家。「新しいローンを始め、他行が追随するころには別の収益源を探し、生き残ってきた」と評価する金融庁幹部もいる。
しかし、創業家が経営から退いた今、地元に回帰しながら信用を回復し、収益力を取り戻せるのか。財務健全性が揺らぐなか、自力での資本調達や、あるいは他行との合従連衡にまで発展するのか。スルガ銀を巡る問題は、第2幕に入ることになる。
一言コメント
失地回復なるか。
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