シダックス、カラオケ事業売却に至った事情
- 企業・経済
- 2018年6月1日
「一部の報道で、シダックスグループがカラオケから撤退するという記事が出たが、それを撤回させて欲しい。われわれはカラオケ事業からの撤退は考えていない」
シダックスの志田勤一・会長兼社長は投資家向けの説明会で、そう主張した。
さよなら、カラオケ事業
5月30日、シダックスは「カラオケ館」を運営するB&V社と資本業務提携し、カラオケ事業を営む子会社を売却すると発表した。譲渡予定日は6月7日、金額は未定。
シダックスにはカラオケ事業を営む会社が2つある。1つは子会社(出資比率100%)のシダックス・コミュニティー(SC)。もう1つが不採算店舗を集めた持ち分会社(同35%)のシダックストラベラーズコミュニティー(STC)だ。今回、シダックスはSC社の株式の81%をカラオケ館の運営会社に譲渡。子会社だったSCは持ち分会社になると見られる。持ち分会社だったSTCは連結から除外される。
売却するカラオケ事業の直近の業績は売上高176億円、セグメント損失は10億円、資産は約99億円に達する。
会社側によれば株式と債権の譲渡損失、繰延税資産の戻り益を計上する予定だが、詳細は精査中だ。これでシダックスの足を引っ張ってきたカラオケ事業が完全にグループ外となる。
売却先のカラオケ館は現在、業界2位級の規模があるとされる。繁華街立地に強く、郊外立地に強かったシダックスと重複感がない。シダックスはSCに19%の出資を続けることで、食材や消耗品の配送・販売など一部事業での関係を持ち続ける計画だ。この点を持って会社側は「撤退ではない」と説明しているようだ。
シダックスは、1959年に富士フイルムの社員食堂の請負から始まった会社だ。現在も社員食堂や病院食堂、関連の食材配送などコントラクトサービス(食堂受託運営)が主力事業になっているほか、近年では車両運行や施設管理、学童保育などを伸ばしている。
カラオケのイメージが強くなったのは、一時期は業界で圧倒的な存在感を示していたからだろう。同社は1991年、それまで運営していたファミレスを改装し、カラオケ店に実験参入した。
1993年、カラオケ事業を展開するSCを設立し、本格参入した。2004年に300店舗に達し、2007年前後にはカラオケ事業だけで売上高600億円余り、セグメント利益率は10%前後に上り、同事業がグループ全体の利益の大半を稼いでいる状況だった。
シダックスの武器は大型店戦略にあった。都内の主要駅付近や郊外の幹線道路沿いに大型の店舗を出店。大規模な飲み会の2次会需要などを獲得し、業績を伸ばした。
当初は高収益を生んだ大型店だが、飲酒に対する規制が厳しくなったり、低価格・1人カラオケが台頭したりして、業界の競争環境は徐々に変わっていった。そして店舗戦略の失敗がシダックスの手足を縛った。自社が店舗を建てた時の土地賃貸契約が15~20年と長期に及ぶものが多く、解約には高額の違約金が発生するため、抜本的な対策が遅れた。
1人負けのシダックス
2016年に不振店の約100店を別会社(STC)に移行。閉店可能なものは閉店し、残りは取引先を引き受け手に増資を実施、自社は持ち分化とすることで損失を抑えた。残っている店舗の一部も同業他社へ譲渡したり、転貸借を進め、2018年3月末には182店まで縮小した。
カラオケ業界そのものは成熟化しているが、ほぼ横ばい状況が続く。「ビッグエコー」(第一興商)や「まねきねこ」(コシダカHD)が比較的堅調なのに、大手ではシダックスだけが1人負けし、退場を迫られた格好だ。
同時にシダックスは議決権はないが、配当などに優先権がある優先株を発行し、資本の増強も行う。カラオケ事業の減損が相次ぎ、同社の純資産は2018年3月期末の純資産は50億円、自己資本比率は10.2%に低下した。
政策投資銀行や三井住友銀行が出資する投資ファンド、UDSコーポレート・メザニン投資事業有限責任組合を引き受け手に第3者割当増資を実施し、25億円を調達する計画だ。
東洋経済の取材に、志田会長は「寂しさはあるが、カラオケ館と組むことで今までにないカラオケの新しい業態ができればうれしい」と答えている。
かつての輝きを失い、大きな損失を垂れ流したシダックス。寂しさばかりでは、売られた部門の従業員やアルバイトたちが報われない。
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