なぜ子供は友達の家で遊ばなくなったのか
- 企業・経済
- 2018年1月12日
■「友達づきあい」の場はどこに変わったのか
博報堂生活総合研究所は今年、子ども(小4~中2)を対象とした大規模調査「子ども調査2017」を実施しました。この調査は20年前の1997年から同じ調査設計、項目で実施されている長期時系列データ(ロングデータ)です。
3回目となる今回の調査では、物心のつく頃から自由にインターネットを使える環境にある子どもたちは、「基本的にはタダ=無料で十分」という姿勢を起点に新しい価値観を生み出し始めていることが見えてきました。連載第5回は、そんな“タダ・ネイティブ”たちの特徴を「友達づきあい」の面から考えます。
「子ども調査2017」によれば、「自宅以外でよく遊ぶ場所」として「友達の家」と回答した数は過去最低となりました。その背景を家庭訪問調査で伺った親御さんに尋ねると、「共働きで両親が夜まで家にいない家庭が多いので、あまり家の行き来はさせないようにしている」という声が多く上がりました。
連載第2回でご紹介した通り、厚生労働省の調査「第14回21世紀出生児縦断調査(2015年)」によれば、14歳の子どもでは今や母親の8割がワーキングママ。親の目の届かないところでの家の行き来はさせにくい、というのはうなずけます。加えて、そもそも遊ぶ時間がなさそうな忙しい子も増えているようです。
「子ども調査2017」によれば、塾に通っている子は4割強、習い事をしている子は7割で、特に習い事をしている子は調査開始以来最多となりました。家庭訪問した子の中でも、塾と複数の習い事の合計で週5~6日通っている子が何人かおり、子どもたちの放課後が忙しくなっていることがうかがえます。
友達の家に行かず、塾や習い事で忙しい子どもたち。そんな彼らは、以前のように友達と遊ばず、関係が希薄になっているのではと思われるかもしれません。しかし、家庭訪問調査を通して見えてきたのは、家の行き来こそないものの、ネット上に集まって一緒に遊ぶ子どもたちの姿でした。
■放課後はネットに集合
かつての子どもたちは、学校や公園といったリアルの場でタテ・ヨコの人間関係を深め、広げていました。しかし、塾や習い事で忙しい子が増え、皆で時間を合わせて遊びに行くことが難しくなった結果、子どもたちの主な集合場所はリアルからネットへと移っているようです。
ある中2と小4の兄弟は、家のゲーム機でネットに接続し、同様に自分の家のゲーム機からネットに接続している友達と一緒にゲームをプレイしています。写真では2人でプレイしているように見えますが、あらかじめ友達と時間を約束し、同じ時間にネット接続することで、マイクで話しながら一緒に遊んでいるのです。しかも、操作や会話のタイムラグはほとんどないため、どちらかの家で一緒にプレイするのと遜色ないコミュニケーションができているようでした。
また、別の中2の男の子は、スマホゲームの「共闘部」というLINEグループに入っており、そこでゲームの攻略情報を教え合っています。そのグループは、メンバーが次々友達を追加していく形で拡大しており、直接会ったことのない人や社会人・大学生などの年長者も混じって交流しているそうです。彼らにとって、ネットは一人で使うためのものではなく、友達との集合場所なのです。
なお子どもたちは、こうしたオンラインゲームやLINEでのやりとりを、お風呂や宿題といったそれぞれの都合に合わせて抜けたり入ったりしながら、夜遅くまでやっています。友達の家に行くのでは、その間はほかのことはできませんし、夕方になれば帰らなければいけません。でもネットなら、フレキシブルにつながれて、門限もありません。ネットのこうした性質は、放課後の生活時間がバラバラになっているタダ・ネイティブたちにはなじみやすいのでしょう。
■本音トークもオンラインで
女性の皆さんは子どもの頃、仲の良い友達と“ないしょ話”を学校のトイレでした経験はないでしょうか。あの頃は「二人だけの秘密」と言いながら、もしかしたら誰かに聞かれてしまうかもしれないというドキドキ感を楽しんでいたふしもあったように思います。ですが、そうしたやりとりは、今やオンライン上で展開されています。
タダ・ネイティブたちの“ないしょ話”のメインツールはLINEです。2017年の子ども調査によれば、LINEなどのメッセージアプリは小学生の普及率は2割弱とまだ低いものの、中学生では5割弱の子が使用しています。中1の男の子も「学校のクラスで作っているLINEグループには、スマートフォンを持っていない子以外はほぼ入っている」と話しており、子どもたちにとって重要なコミュニケーションツールになっているようです。
なおこの男の子は、担任の先生が問題のある先生らしく、クラスのLINEグループで25人同時にグループ通話をし、何時間もその先生について愚痴を言っていたといいます。もちろん、都合にあわせて抜けたり入ったりもOKです。また、小5の女の子は「いじめにつながる可能性がある」という理由から、学校で修学旅行の班分けの話をするのを禁止されているものの、その反動からクラスのLINEグループがその話でもちきりになっているそうです。
こうしたオンライン上、特に公開範囲を制御できるSNS上でのないしょ話の良さは、トイレと違って誰かに盗み聞きされる心配がないことです。ある中1の女の子は、仲の良いリアルの友達とだけつながるTwitterの“鍵付きアカウント”を持っており、恋バナはそのアカウントでするといいます。
また、必要に応じて期間限定のLINEグループを作ったり、個別のトークで話すにとどめたりするなど、「誰がその投稿を見るのか」をちゃんと考えてSNSを使っている子がほとんどです。こうした特徴は、SNS黎明期に生まれ育ったタダ・ネイティブのネットリテラシーの高さを感じさせます。
■“リアルとネット”は地続き
ここまでで紹介したように、タダ・ネイティブたちは、公園や友達の家で一緒に遊んだり、仲の良い子とないしょ話をしたりといった、かつての子どもたちがリアルの領域でしていたことの多くをネットでするようになっています。その要因のひとつは、ネット上で伝えられる情報量が大幅に増えたことです。
私が中高生時代を過ごしたガラケー全盛期は、メールで絵文字やデコメ、解像度の低い写真を送るのが精いっぱいで、リアルコミュニケーションと同様の即時性や感情の機微の表現は不可能でした。しかし今は、スタンプや高解像度の写真、動画を即時に送ったり、グループ通話で大勢の友達と同時に話したりと、コミュニケーションの手段が多彩です。
しかも、家庭内Wi-Fiが普及したことで、親が通信料を払っていれば、子どもたち自身はこうした大容量のコミュニケーションをタダで使えます。通信技術の進化とその料金体系の変化により、ネットはリアルと遜色ないやりとりを、リアル以上に便利かつ楽しくできる場になったのです。
それゆえタダ・ネイティブたちは、リアルとネットを区別しません。便利で楽しいのでネットを使っていますが、そこで交流しているのはリアルの友達です。前述の「共闘部」の例についても、「友達の家に通っていたら、友達のお兄ちゃんやその友達と仲良くなった」という以前からある事象のオンライン化といえるでしょう。彼らにとってリアルとネットは、明確な境界のない“地続きの空間”なのです。
■“リアルとネット”にまつわる常識が変わる
価値観の形成期にネットに親しまなかった世代は、どうしても「リアルがメイン、ネットはサブ」という感覚になりがちです。しかし今や、チャットやメールのやりとりによるリモートワークでほぼすべての業務をする会社ができるなど、その位置づけが逆転する事象も増えてきました。
一方で、昨今の若者間でのレコードやラジカセの流行や、「好きな人に告白する時は、LINEではなく手書きの手紙」と話す中2の女の子の声を聞くと、「これはリアルでやったほうがいい」という揺り戻しも起きるのではと思います。いずれにしても、タダ・ネイティブたちは「これはリアルでやるもの」「これはネットでやるもの」という従来の境界線を塗り替え、新しい生活をつくりつつあります。
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博報堂 生活総合研究所 研究員。2013年博報堂入社。博報堂DYホールディングス及び博報堂DYメディアパートナーズにて経理業務に従事し、2016年より現職。生活者の消費動向や子どもの意識・行動変化の分析に携わる。
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(博報堂 生活総合研究所 研究員 十河 瑠璃)
一言コメント
リアルとネットを区別しない世代が社会の多数派になった時、こうした流れはさらに加速するだろう。
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