初任給30万円台時代へ 氷河期世代からは恨み節も物価高など考えれば「決して高くない」
- 政治・経済
- 2025年1月18日
初任給を大幅に引き上げる企業の動きが目立ってきた。大卒で月30万円台に乗せる企業が相次いでおり、〝初任給30万円時代〟が本格的に到来する。人手不足を背景に学生優位の売り手市場が続く中、各社は高水準の給与条件で優秀な人材確保につなげる狙いだ。この待遇に対し、2000年前後に就職活動に苦労した氷河期世代からは恨み節も聞こえる。だが、近年の物価高や社会保障費など家計負担の増加を考えれば、初任給30万円台は「決して高い水準ではない」ようだ。
初任給最大41万円の企業も
衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングは今月8日、3月入社の新卒社員の初任給を3万円増やして33万円にすると発表した。年収ベースでは約10%増の500万円強となる。柳井正会長兼社長は「グローバル水準の少数精鋭の組織へと変革を進め、企業としてさらに成長するために新しい報酬体系を改めて導入する」とコメント。優秀な人材確保を図る狙いだと明かした。
同様の初任給引き上げは金融業界で目立つ。東京海上日動火災保険は来年4月に入社する大卒の初任給を、転勤と転居を伴う場合に最大で約41万円に大幅に引き上げる。三井住友銀行も同時期の大卒の初任給を30万円に増やす。明治安田生命保険や大和証券グループ本社、岡三証券グループはこの両社よりも早い今年4月入社の新卒を対象に初任給を30万円以上に引き上げることを決めている。
慢性的な人手不足が顕著な建設業界でも同様の動きが加速しており、大手企業の初任給ベースが〝30万円台〟に設定されつつある。
募る氷河期世代の恨み節
こうした新卒社員への待遇改善に対し、初任給の引き上げ機会に恵まれなかった就職氷河期世代からは「不公平」「報われない」といった悲痛な声が届く。
氷河期世代は、バブル崩壊後の1993年から2005年の雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った人たちで、約2000万人が対象とされる。最も就職率が低かった00年度は、進学も就職もしなかった学卒無業者が大卒者の22・5%を占め、非正規採用も多かった。
参考に、来年入社の新卒の初任給を30万円に引き上げる三井住友銀の00年4月入社の新卒初任給は17万4000円だった。氷河期世代にとって、初任給30万円台を提示される現在の新卒世代は「破格の厚遇」に映るようだ。
初任給だけで不公平感わからない
ただ、30万円台という初任給の水準について、第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「決して高い水準ではない」と強調する。平均的な初任給が50~60万円とされる外資系金融機関に比べても低く、「30万円台の初任給水準では、本当に優秀な人材は外資系や海外に流れる」と指摘する。
また、初任給が上がっても、その後の昇給や退職金、福利厚生などで氷河期世代と現在の新卒世代が受ける待遇にも差が生じるとみられ、熊野氏は「初任給の現状だけをみて、世代間の待遇が不公平かどうかは分からない」と説明する。
一方で、近年の物価高騰や社会保障費の引き上げなどで増加した家計負担を考慮した場合、「むしろ初任給30万円は低い」とみる向きもあるようだ。
実際、毎月の給料から天引きされる健康保険料や介護保険の料率はこの約25年間で大幅に引き上げられている。総務省の家計調査では、2人以上の勤労者世帯の社会保険料や直接税などの非消費支出は23年が11万3514円で、00年(8万8343円)に比べて約3割も増加した。
その結果、給与水準は上がっているものの、所得のうち自由に使い道を決められる「可処分所得」は、23年が49万4668円で、00年(47万4411円)からわずか4%しか伸びていない。加えて24年11月の生鮮食品を除く消費者物価指数は00年比で1割以上も上昇。最近の首都圏の家賃高騰なども踏まえれば、「初任給30万円は妥当」(大手企業の人事担当)との指摘もある。
産経新聞より転用
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