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「強く生きられる気がする」難民172万人 受け入れ国ウガンダで今


戦争、迫害、災害、貧困などを理由に故郷を追われる人々は世界中で絶えない。アフリカ最大の難民受け入れ国でありながら、ウクライナや中東の紛争のはざまで光の当たらないウガンダから、難民のいまを報告する。

スーダン「忘れられた紛争」

 赤茶けた大地が見渡す限り広がり、居住用の小さなテントが点在する。アフリカ東部の内陸国・ウガンダには、紛争などで周辺の国々を追われた人たちが大量に流入している。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、10月末時点で172万人。アフリカ最大、世界有数の難民受け入れ国として知られる。

 10月下旬、ウガンダ中西部のキリヤンドンゴ難民居住区で、スーダンから逃れてきたネイマットさん(31)が沈痛な表情を浮かべた。「あの出来事を思い出すだけでひどく胸が痛む」

ウガンダの北にあるスーダンでは2023年4月、政府軍と、政府系の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」による内戦が勃発。一般国民を巻き込み、UNHCRによると、人口約4600万人中、約1100万人が家を追われた。紛争地のデータ収集を行う米NPO「ACLED」は2万7000人以上が犠牲になったとしている。しかし、ウクライナや中東での戦争に埋もれ、「忘れられた紛争」と呼ばれる。

突然の襲撃 面前で夫殺され

 平穏な一家の日常は突然の襲撃で断ち切られた。アフリカ北東部スーダンでは2023年4月に始まった軍事衝突が何ら罪のない一般国民に悲劇をもたらしている。

 「親戚と連絡さえ取れず、誰も頼ることができない」。祖国スーダンを逃れ、ウガンダに身を寄せるネイマットさん(31)は嘆く。

 10年ごろ、幼なじみでいとこのアダムさんと結婚。誠実で優しく、信心深い性格を愛し、けんかをしたこともなかった。2男2女に恵まれ、夫が営む食料品の小売店は経営が上向き、首都ハルツーム近郊で充実した日々を送っていた。

 スーダンでは23年4月15日、政府系の準軍事組織「即応支援部隊(RSF)」が反乱を起こした。RSFは00年代に地方の反政府勢力を攻撃するために作られた民兵組織に由来する。要員や装備を強化して政府軍に準じる役割を任されていたが、近年、政府軍への編入を巡って権力争いが激化していた。

 戦闘開始から間もなく、家族での夕食後に突然外から男性の怒声と大勢の足音が聞こえてきた。「アダム、これがお前の最後の日だ」。銃を携えた覆面姿の男たち約20人が敷地の塀を乗り越え押し入ってきた。

 アダムさんは両脚を銃で撃ち抜かれ、ネイマットさんは銃で腹部などを激しく殴られた。「なぜそんなことをするんだ」。アダムさんはそう叫んだ瞬間、家族の面前でナイフで首を切られ、大量に出血して絶命した。「彼らには慈悲がなく、神さえ恐れない。人間ではない」と怒りを込める。

 「家にある全財産を渡せ」。脅されたネイマットさんは家にある金銭や販売用の商品、身につけていた結婚祝いのネックレスなどをかき集めて渡した。「これで何とか解放される」

 しかし、蛮行は終わらず、鎖で手脚を縛られて全裸で寝室に監禁された。飲食物は与えられず、10人を超える男たちに連日暴行を受けた。数日後、意識を失い、気付いた時には病院のベッドの上だった。「ショックで全身の感覚が失われ、声すら出ず、自分が自分でないようだった」と嘆く。

 ネイマットさんが後に長男ファリスさん(12)から聞いた話によると、自宅は約20日間占拠された後、男たちが気絶したネイマットさんと、監禁されていた子どもたち、そしてアダムさんの遺体を車で遠く離れた路上に運び、放置したという。ネイマットさんは残虐な手口から男たちがRSF以外にないと考えている。

 次男フォウジさん(10)は父親が面前で殺されたショックで家の裏口から飛び出し、今も行方が分からない。ネイマットさんは「あの子のことを考えない日はなく、胸が張り裂けそう。でも今の私にはどうすることもできない」と涙を浮かべる。

絶望の淵で描く夢

 安全のため2~12歳の子ども3人を連れて隣国・南スーダンに逃れた。避難生活を送る中で、「ウガンダなら難民でも安心して暮らせる」といううわさが耳に入った。貨物バスの隙間(すきま)に少額の代金で乗せてもらうなどして、24年7月、ウガンダ中西部のキリヤンドンゴ難民居住区にたどり着いた。

 居住区は難民がウガンダの人たち(ホストコミュニティー)と同じ地域で共生できるよう政府が国内各地に設置しており、居住・耕作用の土地が提供される。キリヤンドンゴは地元民約73万人と難民約13万人が暮らす。

 「やっと人生をやり直せる」。しかし、翌8月、子どもたちと就寝中、何者かに住まいのテントを切り裂かれた。身の危険を感じて今は隣人のテントの一角で寝泊まりをさせてもらっているが、肩身は狭い。

 スーダンの自宅での襲撃の際、銃で殴打された後遺症か、腹部は大きく膨れ上がっている。少し重い物を持つと激痛が走り、水をくんで運ぶこともできない。居住区の医療施設には検査機器がなく、設備の整った私設病院に行こうにも交通費や治療費が払えない。

 そんな絶望の淵にあっても、一つの夢がある。少しずつお金をためて食料品の売店を開くことだ。生計を立てる以外に大切な理由があるという。「食料品店は夫がスーダンで営んでいた。夫の思いを継ぐことで、残された子どもたちと、夫を思い出しながら強く生きていける気がするから」

【キリヤンドンゴ郡悠介、写真・滝川大貴】

ウガンダ

 アフリカ東部の内陸国で本州とほぼ同じ面積の国土に約5000万人が暮らす。1962年に英国から独立。受け入れている難民は10月末現在、172万人でアフリカ最多。出身国別では、北隣の南スーダン96万人▽西隣のコンゴ民主共和国55万人▽スーダン6万人――などと紛争が激化する周辺国から集まる。難民に移動の自由や就労の権利を認めるほか、居住・耕作用の土地を提供するなど先進的な政策を取るが、資金や要員の不足が課題となっている。

毎日新聞より転用


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