【陸上】久保凛が欠かさないレース直前の“習慣”「陸上だけではなくて…」16歳女王が憧れる人
- スポーツ
- 2024年7月2日
<陸上:日本選手権>◇6月30日◇最終日◇新潟・デンカビッグスワンスタジアム◇女子800メートル決勝
昨夏の全国高校総体を制した久保凛(16=東大阪大敬愛高)が、初出場初優勝を飾った。U18日本記録となる2分3秒13をマーク。同種目の高校生女王は16年福田翔子以来、8年ぶりとなった。
シーズン前は「サッカー日本代表の久保建英のいとこ」という枕詞(まくらことば)もついて回ったが、今は実力でその名を知らしめる。快進撃を続ける高校2年生には、どの試合でも欠かさない“習慣”がある。
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大粒の雨が降りしきった決勝。8選手がスタート位置につくと、内側の2レーンから順に各出場選手の名前がアナウンスされた。中央の6レーンにつけた久保は、この日もいつもと変わらなかった。
ほかの選手が紹介されるたびに、体の前で手をたたく。自分の名前が呼ばれると深々と頭を下げ、再び手をたたき始めた。
レース前のアナウンスでの拍手。それ自体は珍しいことではない。前日29日の予選3組でも、4レーンの渡部鈴夏や2レーンの亀井咲里が拍手を送っていた。
ただ久保は、4月の金栗記念でも、5月の静岡国際でも手をたたいていた。どのレースでも欠かさない。
「いつもたたいてます。中学の時からずっとです。礼儀とかも大事だと思って」
和歌山・潮岬中から本格的に陸上を始めたが、レース直前の拍手はずっと続けているという。
その“習慣”は日本選手権でも変わらず。日ごとに注目度が増す中でも、いつも通りに試合へ臨んでいた。
予選後に「注目度の上昇が重圧にならないか?」と尋ねられると、十数人もの記者に囲まれながら明るい顔で言い切った。
「緊張はするんですけど、プレッシャーは感じていないです」
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久保には「憧れ」と敬うアスリートがいる。
田中希実。世界選手権や国際大会で果敢に向かっていく走りを見て「かっこいい」と尊敬の念を抱くようになった。
中長距離の幅広い種目に取り組む姿に感銘を受けているが、もう1つ憧れている理由があるという。
「陸上だけではなくて、人としての礼儀の面もすごく憧れています」
田中は国内で敵無しの存在ではあるが、一緒に出場した高校生へレース前後で声をかけたり、時にはサイン入りのポストカードをプレゼントしたりと、いつも人を想う気持ちにあふれている。この日本選手権5000メートル決勝で3連覇を達成した直後も、五輪代表に前進した喜びからトラックにしゃがみ込んだ2位の山本有真に、自然と手を差し伸べる姿があった。
その田中は800メートル決勝を7位で終えると、久保の存在について真剣なまなざしで言った。
「ほかの選手に左右されず、自分のレースをされていると思います。それは圧倒的な自信があるからこそ。私も800メートルにおいて、圧倒的な自信をつけることができれば、彼女と良いレースができると思う。今は私のほうがそこが足りていないところだと思います。800メートルという種目を、より好きにさせてくれた選手だと思います」
8歳年下の高校生へも、深い敬意を込めていた。
そんなアスリートが目の前にいるからこそ。久保は言葉に力を込める。
「自分もそういう選手になりたいです」
【藤塚大輔】
◆久保凛(くぼ・りん)2008年1月20日、和歌山・有田郡有田川町生まれ。小学生の頃はサッカーに取り組んでいたが、高学年の頃に地元の駅伝大会で区間新記録を出したことがきっかけで潮岬中入学後に陸上の道へ。中3時の22年全日本中学校選手権800メートルで優勝。23年から東大阪大敬愛高に進学し、同年全国高校総体優勝。身長167センチ。
日刊スポーツ新聞社より転用

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