「首相は10万円超で妥協できると踏んでいた」自民に漂う敗北感 規正法改正法案が今国会成立へ
- 政治・経済
- 2024年6月3日
裏金事件を受けた政治資金規正法改正で自民党が曲折の末、法案成立の道筋を固めた。岸田文雄首相は政治資金パーティー券購入者名の公開基準額の「5万円超」への引き下げと、政策活動費の10年後の領収書公開を決断。改革を主導したようにアピールしたが、事態打開へ公明党と日本維新の会の主張を「丸のみ」したのが実情。慎重論を振り切った首相の唐突な判断は党内に禍根を残しそうだ。
「わが党案の修正を求める国民の厳しい声についてお話があり、私としても真摯(しんし)に受け止めた」。31日夜、首相官邸。首相は公明の山口那津男代表との会談について淡々と答えた。
約半年かかって法案成立という「出口」がようやく見えたにもかかわらず、自民内の敗北感は大きい。「総理は公明と『10万円超』で妥協できると踏んでいた」。党幹部は落胆する。
自民の最大の誤算は公明の硬化だ。与野党修正協議が大詰めとなった5月28日以降、パーティー券公開基準額の「20万円超」から「10万円超」への引き下げなどを盛り込んだ自民案を公明が容認するとの報道が相次いだ。批判を懸念した公明が「5万円超」に翻意し、与野党協議は迷走した。
「10万円から下げるべきではない」。29日夜。自民の麻生太郎副総裁は、茂木敏充幹事長同席の懇談の場で、首相に対して当初の防衛ラインは守るよう助言したとされる。
党内には「収入減で政治活動が細れば、陳情対応の力も衰え集票力も陰る」(自民関係者)との懸念も根強く、首相は「ぎりぎりまで公明と交渉させる」と党幹部の動向を見守った。それでも「自民が迷惑をかけている以上反論できない」(首相側近)との諦めが広がり、首相が腹を決めた。
公明との調整が心もとない中、自民は政策活動費などで改革を実現したい維新を頼らざるを得なかった。与党単独での法案成立は世論に「数の力で押し切った」との負の印象を与えかねない。維新とパイプを持つ自民幹部が接触を続けた。
与党だけで法案を通す筋書きも浮上し維新と決裂しそうになる中、自民は異例のトップ会談で合意を取り付けた。窮地を突いて成果を得た維新の馬場伸幸代表は「1歩でも2歩でも改革を進めていく」と誇った。
自民内には公明、維新両党に大幅譲歩した首相への怨嗟(えんさ)の声が渦巻く。「首相はいつも目先だけ。党の足腰はガタガタだ。ついていけない」。麻生派議員は突き放すように言った。
揺れた公明、連立に執着
不祥事を起こした自民党に抜本的改革を迫るはずだった公明党は、法案の修正を巡る自民との協議で、対応が二転三転した。いったんは連立相手との関係を優先し、自民に甘い案を容認する方向に傾いたが、野党から批判され、支持者らから突き上げられると、態度を硬化。不透明感が増す中、今国会成立という首相の「公約」を確実にしたい自民側が折れたことに安堵(あんど)の声が漏れた。
「われわれの考えがほぼ実現する見通しが立った。今後も連立政権を維持し、国民の信頼を取り戻したい」。公明の山口那津男代表は31日の岸田文雄首相との会談後、こう語った。山口氏は前日、政治資金パーティー券購入者の公開基準額を「10万円超」とする自民案を「そのまま賛同はできない」と批判。「ゼロ回答ではうちはまとまらない」(中堅)と強硬論も聞かれていただけに、党内には「5万円超」への引き下げなど公明の主張に沿った修正を引き出した会談を評価する声が上がった。
公開基準などを巡る両党の交渉は難航した。「10万円超」を動かす気配がない自民に対し、公明は5月28日、「法施行3年後の見直し規定」を要求。その前後に、公明が自民案に賛成する方向だと報道されると、野党は「自民と同じ穴のむじな」と批判し、党の会合では上層部に説明を求める声が相次いだ。中堅議員は支持母体・創価学会幹部から「そのまま折れるのか」と問い詰められた。
自民との決定的な対立を避けながら、公明の改革姿勢をアピールする-。落としどころを模索する中、自公の幹事長レベルでは折り合えず、党内からは「首相の決断で現状を打開する以外にない」との声が強まっていた。結局、選挙区調整など両党間の問題がこじれ党首同士で決着させた過去の例に今回も続いた。「最後はこうなると思っていた」。党関係者は、自民が公明の主張を“丸のみ”したことに、満足げな表情を浮かべた。
西日本新聞より転用
コメントする