推しに貢ぐためのバイトは正義 CD全形態購入、美容整形…「お金がいくらあっても足りない」
- 政治・経済
- 2023年12月25日
好きな人や物への出費をいとわない「推し活」や美容整形が広がっている。バイト漬けになった若者が自虐的に例える「バ畜」という言葉の裏側に、専門家は「推しのために働く満足感」も読み取れるという。願望を満たすため「お金がいくらあっても足りない」。若者からはそんな声も出る。
これまでに200万円は「推しに課金した」という。カフェと居酒屋バイトを掛け持ちする広島市の女子大学生(21)は、男性アイドルグループが生きがい。「存在に全力で感謝する」ため、月12万円のバイト代のほぼ全額をつぎ込む。
全国を巡るライブの遠征費用、ファンクラブ会費…。音楽チャートで1位に押し上げるため、CDは初回限定版を含む全形態を買って「枚数を積む」。メンバーカラーを意識した服を着てライブ会場でグッズを「大人買い」する瞬間はアドレナリンが出て、多幸感に包まれる。少し前からはK―POPアイドルにも目覚めて韓国旅行で散財した。
「自分磨き」という名の出費もかさむ。美男美女ばかりのSNSを見ていると、美への欲望がかき立てられる。「ファンにかわいい子が多いと、推しの評価も上がるし」と、脱毛とエステのローンを約20万円で組んだ。同じ推しを持つ人たちとのオフ会までに、目の整形と脂肪吸引もする予定だ。年明けからはガールズバーでも働き、費用を稼ぐという。
カラオケ店でバイトする広島県の女子大学生(22)の推しは、動画サイトを中心に活動する男性アーティスト。月10万円の収入の大半をライブやグッズ購入に使う。母子家庭で、卒業後に始まる奨学金の返済は約140万円。生活はかつかつだが「推しは心の潤い。推せなくなったら病む」と言い切る。
繁忙期の12月は週6日出勤。1日12時間働き、隙間時間にはバイト募集アプリ「タイミー」で探したスポットワークにも励む。同級生には、ライブ配信者に数万円単位の「投げ銭」をする子も少なくない。「貢ぐためのバイトは正義。それが私たちの愛情表現です」
若者の消費行動に詳しい市場調査会社インテージ(東京)の田中宏昌さんによると、Z世代の8割に「推し」がいるとのデータがあり、対象は人、キャラクター、モノなど多岐にわたる。それだけ使う金額も大きくなりがちだ。「投げ銭」を「お布施」と呼ぶのは、誰かの役に立ちたいとの心理だという。田中さんは「アプリで隙間バイトを探すことも容易。バイトを詰め込んで『セルフブラック化』しやすい環境にある」とみている。
中国新聞デジタルより転用
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