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漁師ら「食べていけぬ」 タイ・メコン川 温暖化で水量激変、漁獲減


アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで30日、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が開幕する。焦点の一つが、温暖化による「損失と被害」を受けた国を支援する基金のあり方だ。資金拠出をめぐって先進国と途上国が対立する中、中所得国のタイは支援の対象から外れる可能性もある。

 タイ北部チェンライのドーンティ村は、ラオス国境を流れるメコン川沿いにある。11月中旬、漁師のソムサック・ナンタラットさん(46)が川に仕掛けた網に小さな淡水エイが約1カ月ぶりにかかった。淡水エイが揚がるのは以前は珍しくもなかった。だが、今は月に1匹も取れればいい方だ。「こんなに魚が取れないんじゃ、漁で食べていくのは無理だ」。川に浮かべた木造船の上で、ナンタラットさんは肩を落とした。

中国のチベット高原を源流に、インドシナ半島を蛇行して南シナ海に注ぎ込む全長約4800キロのメコン川は、流域に暮らす約6000万人の暮らしを支える。チェンライの川沿いにはドーンティ村を含めて43の村落がある。雨期になればメコン川の水量は増え、乾期になれば減る。流域の住民は、季節によって川の水量が変わる自然のサイクルに合わせ、漁業で生計を立ててきた。

 ところが、ナンタラットさんらの生活に今、異変が起きている。1990年代以降に上流や支流でダムが相次いで建設されたことに加え、異常気象による降水量の減少などで、季節ごとの川の水量が激変して不安定になり、魚が取れなくなった。市場に卸せるほどの漁獲量はなく、ナンタラットさんはネット交流サービス(SNS)を通じて細々と魚を売りながら、やっとのことで生活している。

 メコン川の下流域にあるタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムでつくる「メコン川委員会」は「気候変動により過去10年で流量が減った」と指摘する。メコン川下流域では2019年、過去100年で最悪といわれる干ばつに襲われた。降水量の少なさに加え、上流の中国にあるダムが水不足に備えて放水量を制限したことも被害を深刻にしたとされる。さらに20年以降も雨期の降水量がこれまでの平均を下回った。同委員会は、メコン川での漁獲量は、気候変動の影響も考慮すると40年までに07年と比べて40%も減ると予測している。

 30年近くこの流域を調査してきた環境NGO「リビングリバーサイアム」のソムキャット・クンチンサ氏は「ダムの建設で水量や水流が不安定になった。さらに洪水などを引き起こす異常気象が漁獲量の減少に拍車をかけている」と話す。チェンライの川沿いでは、漁師の多くが農業に転向したり、山あいのプランテーションで働くために移住したりして、漁村の生活は一変した。

 ナンタラットさんも午前中は飼料用トウモロコシの畑に向かい、午後から1人乗りの木造船で川に出て網を仕掛ける。川の水位が下がる2~4月に収穫していたカイと呼ばれる川藻も激減した。「川の変化に動植物が適応できなくなっている」。それが、漁師らの一致した見方だ。20年前に30人ほどいた村の漁師は次々と漁をあきらめ、今は10人ほどしかいない。

約60キロ下流のパッインターイ村も状況は同じだ。20年ほど前までは50世帯以上が漁をしていたが、今は畑で野菜を栽培する傍ら約10人が漁をするだけだ。アムノイ・スワンディさん(55)は「メコン川ではもう食べていけない」と漏らす。雨期には1日10キロの魚が取れたが、最近はゼロの日が多い。「以前は季節ごとに漁場を変えていた。だが、過去の知恵が役に立たなくなった」と話す。

 タイ政府は、地球温暖化による影響に適応する対策として、メコン川流域で養殖の導入や洪水対策の護岸工事などを進めた。だが、養殖は不安定な水量などに影響されて軌道に乗せるのが難しく、一部の護岸工事は岸辺での農業を妨げることになった。政府機関「気候変動・環境研究所」のアトサモン・リムサクル上級研究員は「今まさに損害を受けている住民には『適応』策が必要だ。だが、効果を検証するには時間も資金もかかる。国際的な支援が必要だ」と訴える。

 クンチンサ氏は言う。「温暖化の責任を押しつけ合う議論が続いているが、その間にしわ寄せを受けるのはメコン川流域の漁師らだ。問題を引き起こした側が、まず責任をとるべきだ」【タイ北部チェンライで武内彩、写真も】

 毎日新聞より転用


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