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台湾の蔡総統、米下院議長とカリフォルニア州で会談 中国との危険な三角関係の今後は


ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBCニュース 台湾の蔡英文総統は5日、アメリカ・カリフォルニア州で米下院のケヴィン・マカーシー議長(共和党)と会談した。

蔡総統は先週、訪問先の中米に向かう途中で米ニューヨークに立ち寄り、歓迎を受けた。4日には中米歴訪を終えて経由地カリフォルニア州に入っていた。

支持者は台湾の旗を振って蔡氏を歓迎した。蔡氏とマカーシー氏は、会談場所のロサンゼルス近郊のロナルド・レーガン大統領図書館に入った。上空では、「一つの中国!  台湾は中国の一部だ!」と書かれたバナーを付けた小型飛行機が飛んだ。

蔡氏は短い声明を発表。台湾の民主主義は「前例のない試練に直面している」とし、「アメリカがそばにいてくれることに感謝している」と付け加えた。

中国外務省は、アメリカと台湾による「結託という深刻な、誤った行動」だとして今回の会談を非難した。

■危険な三角関係に陥る台湾

蔡氏の訪米のタイミングは偶然とは思えない。米国内では中国に対する深い敵意が増大している。そのため、米民主党と共和党は競い合うように、台湾への支持をこれまで以上に公然と表明するようになっている。

マカーシー下院議長の前任のナンシー・ペロシ氏(民主党)が昨年8月、中国の猛反発を受けながらも台北訪問を熱望し実現させたのも、こうした背景が大きく影響している。中国政府が自国の領土だと主張する、自治権を有する台湾島は間違いなく、米中間の最大の火種となっている。

「私個人としては、ペロシ氏の(台湾)訪問には反対していた」と、アメリカ在台協会(AIT)の元所長ウィリアム・スタントン教授は言う。「アメリカのハイレベル訪問にはたいした見返りもなく、中国を刺激するだけだった。(訪台がもたらした)結果は非常に恐ろしいものだった」。

中国のミサイルが台湾の上空を飛び交い、中国政府はぞっとするような脅しをかけてきた。周辺の各国政府は、中国が台湾に侵攻する時期について真剣に語り始めた。 それにもかかわらず、マカーシー氏は今年1月に下院議長に選出されるとすぐ、ペロシ氏の例にならうとの意向を表明した。しかし蔡氏は、それが得策ではないと判断したと、スタントン氏は指摘する。

「ケヴィン・マッカーシー氏がペロシ氏にならいたいと考えていたのは明らかだったと思う」とスタントン氏は分析。これに対し、蔡氏は「結構です。代わりにカリフォルニアで一緒にお茶はいかがですかと、言ったようだ」と述べた。

蔡氏はアメリカの指導者が再び台湾を訪問することを望んでいないのかもしれない。しかし一方で、民主的に選出された台湾政府と最も強力な同盟国アメリカとの連絡を遮断するという試みが成功することはないと、中国に示す必要もある。

そこで、カリフォルニアでの会談となった。中国はアメリカが「台湾問題で火遊びをしている」と警告しているが、マカーシー氏は今回の会談を「超党派によるもの」だと述べ、軽視する様子はまったく示していない。

その後ホワイトハウスは、中国政府が今回の会談に「過剰反応」する必要はないとした。

このいわゆる「トランジット(経由地)外交」は台湾にとって極めて重要だと、オーストラリア国立大学の政治学者ウェンティ・スン氏は言う。

中国は長年にわたり、台湾の正式な同盟国の多くを奪うことに成功してきた。台湾政府を承認する国はわずか13カ国にまで減っている。

「このような国際訪問は、台湾社会が国際的承認を必要としていることと一致する動きだ」とスン氏は指摘。「国際的承認が無い場合、国際的な支持があることを示す代理指標が台湾にとって重要になる」とした。

■中国の動き

こうした中、中国共産党は蔡氏の前任、馬英九氏を中国大陸に招き、魅力攻勢(相手の心をつかむために意識的に親切に温かく接すること)をしかけている。

馬氏は、表向きは先祖に敬意を表するため、前例のない5都市訪問を行った。中国中部にある先祖の墓にも足を運んだ。しかしこの訪問には政治的な意味合いもある。実際、台湾総統経験者が中華人民共和国に招かれたのは、1949年の建国以来初めてのことだ。

「中国政府は台湾に対するトーンを和らげ(中略)より多くの人の心をつかみ、(2024年の)総統選挙で台湾のナショナリズムが高まるのを避けようとしている」と、スン氏は説明。馬氏の訪中は、そのために必要な「政治的な隠れみの」を与えるものだとした。

先週、南京に降り立った馬氏は、極めて政治的な演説を行った。「台湾海峡の両岸にいる人々は中国人だ。そしてどちらの人も炎帝および黄帝の子孫だ」。

「中国政府が馬英九氏に好意的なのは、同氏が屈服の象徴だからだ」と、スタントン教授は言う。「彼は『自分たちはみな中国人だ』と言っている。これは彼と中国側が同意していることであり、台湾人が同じ意見というわけではない」。

ある調査では、台湾の住民の60%以上が中国人ではなく、台湾人を自認していることが示されている。そして、台湾の人々の半数以上が、中国との戦争が起こり得ると考えている。

馬氏の狙いは、台湾の有権者に、戦争を回避できるのは自分の党(中国国民党、KMT)だけだと納得させることだと、スン氏は言う。

「台湾海峡の両岸を結ぶ橋渡し役として、馬氏のレガシーを確固たるものにするのが狙いだ。国内の政治レベルで言うと、台湾の総統選キャンペーンが始まろうとしていることも関係している。KMTは自分たちが中国との平和をもたらすことができると主張している」

しかし、台湾にアプローチしているアメリカと中国の関係が悪化していることには、あえて触れていない。今日の米中関係は、1979年にアメリカと中国がお互いを公式に承認して以来、最悪レベルだと、米シンクタンク、ジャーマン・マーシャル財団のアジアプログラム責任者ボニー・グレーザー氏は言う。

「彼ら(中国政府)はバイデン米大統領や米国防総省からの電話に応じていない。米議会は中国を実存的な脅威だと明言している」

米政府は何十年もの間、かなり微妙な現状を維持してきた。中国政府は中国大陸に一つしかないという北京の立場を支持しないまでも、認めてきた。1970年以降は、台湾ではなく中国政府との正式な関係を維持している。一方で、台湾政府とは揺るぎない同盟関係であり続け、台湾の自衛支援を保証してきた。

しかしいま、ある懸念が浮上している。過去40年以上にわたって台湾海峡の平和を維持することにつながった現状を、アメリカが変更しようとしていると、中国が考えているというものだ。

グレーザー氏によると、「バイデン大統領は習近平国家主席に対し、台湾を武器として利用しないこと、台湾の中国からの分離を支持していないことを伝えている」という。

ただ、こうした請け合いは、台湾の指導者との公式訪問や公式会談においてはあまり意味をなさないだろうと、グレーザー氏は付け加えた。

つまり、馬氏が中国を訪問し、蔡氏がカリフォルニアでお茶を飲んでいる中で、習氏が電話に応じることも台湾は求めている。

(英語記事 Taiwan’s Tsai meets US House Speaker McCarthy)

(c) BBC Newsより転用

BBC News


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